PART 1-B Misato Side
卓哉が去った後、美里はのろのろと顔を上げ、トイレの鍵を閉めた。
今日はもう家に帰るだけだから、レオタードスーツを脱いで普通の下着に着替える必要は無い。このままレオタードスーツの上にブレザーの制服を着ればいいだろう。
今回のような突発的な出動は、実はそれほどあるわけでは無い。姉の耀子はその類い希なハッキング能力によって、主要なテロ組織の計画をだいたい把握しており、事前に準備を行う余裕があることがほとんどなのだ。
二回連続して突発的な出動を命じられたのは実は初めてだった。今回のテロリストも前回と同様に強化スーツを着た男達だった。強化スーツを着て破壊活動を行うだけなどと行動は稚拙だが、耀子が把握していないという点が気になる。新たな勢力が動き出したのかもしれない。
それよりも……。卓哉に、ばれちゃった……。
ホワイトエンジェルだとばれたことはまだいい。正直、秘密がホワイトエンジェルであることだけなら、とっくの昔に卓哉に打ち明けていただろう。もうひとつの秘密を隠すために、美里は卓哉に自分がホワイトエンジェルであることを話せないでいたのだ。
卓哉の推理は当たっていた。ホワイトエンジェル=加賀見美里はサイボーグの一種なのだ。
人体に人工臓器を組み込んで改造するのではなく、機械で作られたボディに生体脳を組み込んだ存在、それが今の美里だ。美里の身体で生身の部分は、感情や知性、記憶などを司る大脳の一部分……拳大の大きさのカプセルに収まった数百グラムの蛋白質の塊だけでしかない。耀子たち研究者は、美里のような存在の事をサイバーアンドロイドと呼んでいる。実際、身体の構造はアンドロイドとほとんど変わらないからだ。
……でも、まだ言い抜けようと思えば可能だわ。
ホワイトエンジェルであることが卓哉にばれてしまった以上、卓哉は美里が少なくとも普通の人間で無いと思っているだろう。だが、まだサイバーアンドロイドであるという確固たる証拠を掴まれたわけではない。
事実、美里はエスパーであるとも言える。美里のテレポート能力は、増幅回路の力を借りているとはいえ、超能力によるものなのだ。サイコキネシス能力も、増幅回路の力を借りても小石を浮き上がらせることができる程度で実用性はほとんど無いが、使うことはできる。
体内のメカを見られたりしたわけではない。テレポートして跳躍してきたところを見られただけなのだ。美里がエスパーだと言い張り、サイコキネシス能力を見せてやれば、卓哉も納得するしかないだろう。
【廃液タンクの容量が90%を超えています。ただちに廃液を排出してください】
感情を感じさせない女性の声で、体内の制御コンピュータからのメッセージが意識内に響いた。
美里の動力源は燃料電池だ。電気分解の逆の反応で水素と酸素から電気を取り出すのだが、その副産物として水が発生する。強化服を着用した敵との格闘戦で急激に電力を消費したために一気に水分が生成され、廃液タンクが一杯になってしまったのだろう。
美里は洋式トイレの蓋を開くと、備え付けの除菌クリーナーで便座を拭いて座り込む。
そして、レオタードスーツの股間に手を伸ばした。
緊急時に股間部分を容易に露出させることを可能にするために、レオタードスーツのクロッチの部分にはホックが付いていて外れるようになっている。美里は手早くホックを外すとレオタードスーツのクロッチからハイレッグにカットされた腰回りまでをめくり上げた。
露わになった秘密地帯を見下ろす美里の表情が翳る。全身が機械である以上、もちろん、その部分……女性器も機械仕掛けの作り物だ。美里の機械仕掛けの女性器はきちんと大小の陰唇やクリトリスを備えているものの、その形状は人間の女性のものと完全に異なっていた。美里の身体を製作した耀子の趣味で形状をデフォルメされているからだ。
鮮やかなパールピンクの小陰唇と鮮紅色の大陰唇とのコントラストは美しく、蘭の花に似せてデフォルメされたデザインは愛らしい。だが、ともすればグロテスクにさえ見える人間の女性の女性器と比べれば、材質が合成素材であることがひと目でわかる美里の人工の女性器は、大人のおもちゃのようにしか見えない。
耀子は美里の身体の各部位に、生身の身体と区別するために別の呼称を付けている。生身の部位の名称の前に『メカ』を付けて呼ぶのが標準的だ。例えば女性器全体を示す場合はメカ女性器、膣はメカ膣、大小の陰唇については、区別する場合はメカ大陰唇、メカ小陰唇と呼ぶが、総称する場合はカタカナ語でメカラビアと呼ばれる。クリトリスもメカ陰核では無く、メカクリトリスと呼ばれている。
クリトリスの包皮は例外だ。なぜかメカを付けずに、クリトリスカバーと呼ばれている。メカを付けると呼称が長くなりすぎて面倒だからではないか? と美里は予想していた。
美里は右手を股間に忍ばせ、そのクリトリスカバーの部分にそっと指を添えた。
「んっ……」
自ら添えた指の感触に、はしたなくも心地好い感触を覚え、美里は羞恥にほほを染めた。
クリトリスカバーに添えた指に力を込める。指先にメカクリトリスの硬い感触を感じる。
「んふっ!」
さらなる快感を感じながらも美里はさらに指を押し込んだ。メカクリトリスに仕込まれたスプリングが軋む。
カチッ!
やがて股間からクリック音が響く。美里は身体を小刻みに震えさせ、切なく吐息を漏らした。
ウィーン……。
モーター音とともに、美里のメカクリトリスがクリトリスカバーを押しのけて内部からせりだして来た。せり出した美里のメカクリトリスのサイズは、かなり大きく直径1センチ程はある。美里はメカクリトリスを人差し指と親指で挟むようにつまむと左側に回転させた。
60度回転するたびにカチっとクリック音がする。180度回転させて三回目のクリック音が鳴ったところで、美里は再びメカクリトリスを押し込む。
カチッ!
【セルフメンテナンスモードに移行しました。メンテナンス操作の入力が可能です】
意識の中に響く制御コンピュータからのメッセージを聞いて、美里は目をつむった。すると美里の視界に携帯電話のメニューのようにアイコンが並んだ画面が現れる。
美里はクリトリスの上に人差し指を添え、なぞるように動かした。すると、視界の中央に表示されたカーソルが指先の動きに従って移動する。
メカクリトリスは美里のメイン制御スイッチになっている。先ほどのように左右に回転させてクリックすることで動作モードを切り替えることができる。また、指でなぞって傾けることで、視界にコンピュータ制御用の画面が表示された時に、カーソルを移動させることもできる。
美里はスパナ型のアイコンの上にカーソルを移動させると、メカクリトリスを押し込んだ。するとスパナ型アイコンがクリックされて新たなウィンドウが開き、画面に表示されているアイコンの画像が切り替わる。
続いて新たに表示されたアイコンの中から女子トイレのマーク型のものを選んで先ほど同様にクリックする。
【廃液排出のためにメカ小陰唇を開放します】
意識に響き渡るメッセージを聞いて、再び美里は目を見開き自らの股間を覗き込んだ。
美里の股間からはモーター音が響き、メカ小陰唇がゆっくりと花咲くようにぱっくりと開いていった。やがてメカ小陰唇は完全に開放され、美里のメカ女性器は、その内部まで完全に露出してしまった。
美里のメカ膣にはスティック状の物体が挿入されているようだ。膣口から5ミリほど、先端がはみ出ている。膣口の上部、生身の人間なら尿道口がある位置には小さな菱形のへこみがある。そのへこみの上部では小さな長方形の発光ダイオードが赤色で点灯していた。
【メカ小陰唇が完全に開放されていること目視確認してください。確認が完了したらメカクリトリスをクリックしてください】
メッセージの指示に従って、美里はメカクリトリスに添えた指に再び力を込めた。
美里の股間からまたもやモーター音が響いた。菱形のへこみの奥から金属製のノズルがせり出してきたのだ。
【廃液の排出を開始します】
股間から響くモーター音がこれまでよりも低く変化する。と同時に適度な勢いでノズルの先端から液体が噴き出し始めた。
廃液の排出は三十秒ほど続いた。放出された廃液はオレンジ色に染まっていた。朝飲んだオレンジジュースがそのまま排出されているのだろう。オレンジの香りがトイレの個室の中に漂う。
【廃液の排出を完了しました。ノズルの先端を拭き取ってください。作業が完了したらメカクリトリスをクリックしてください】
美里はトイレットペーパーを千切ると慎重に股間にあてがいノズルの先端を拭きとって、メカクリトリスをクリックした。
【メカ小陰唇を閉じ、廃液排出動作を完了します】
ゆっくりと、メカ小陰唇が閉じ、複雑に絡みあったフリルのように内陰部を隠す。美里は親指と人差し指でメカクリトリスをつまむと右に180度回転させ、クリックして押し込んだ。
【スーパーガールモードへの移行を開始します。セキュリティスティックを検出しました。スーパーガールモードへの移行に成功しました】
人間だった頃とまったく同じにはならないのは解っているつもりだった。しかし、美里が想像していた以上に、サイバーアンドロイドの身体を維持するためには機械的な制御を日常的に要求された。
何かあるたびにメイン制御スイッチであるメカクリトリスを弄り、動作モードを切り替えたりしなければならないのだ。
こんな、恥ずかしい姿、卓哉には絶対見せられない……。
快感に乱れた呼吸を落ち着かせながら、美里はうつむいた。制御スイッチとして機能すると言ってもメカクリトリスを弄ればどうしても快感を感じてしまう。作り物の身体でもセックスや自慰は可能なように造られているからだ。
正直な事を言えば、生身のころよりも自慰の回数は増していた。欲求不満によるストレスを解消するために自慰を行う必要があるからだ。
機械化された身体は|――まだまだこの章作成中(゜∀゜)