多分続きを書くことはもうないだろうという書きかけ小話群。
すんげー短いのも貧乏性なのでうpします。(サイアク)



幼少ユーリと幼少フレン


 母が死んだのはフレンが11歳のときだ。身を切るような寒さの、冷たい冬の日だった。
 父は騎士ではなかったが治癒術の心得があったため、衛生兵として人魔戦争の第一線に駆り出されたのだと後になって知った。だから、母が死んだときフレンは独りだった。
 その頃にはあの捻くれた幼馴染みほどではないにせよ、国は自分達のために在るのではなく、自分達から搾取するために在るのだと諦念を以って不平な現実を認めていた。自分達の生活も苦しいだろう下町の人々が、有志で持ち寄った僅かばかりの金で高価な薬を買い、流行り病に倒れた母の命を繋ぎ止めているという事実が尚のこと、ある種の表層ばかりではない貧富の差を浮き彫りにしているようであった。貧しいながらもこうして自分達母子に手を差し伸べてくれる下町の人々の豊かな心に深く感謝すると同時に、空腹にも寒さにも心をくだく必要のない上流階級の王侯貴族にフレンは何故か怒り以上に哀れみの念を抱くようになったのもこの頃からのように思う。
 何故自分達と彼らとは、こんなにも遠く分かたれてしまったのだろうか。そんな思いばかりが、澱のように、日に日に胸に積もっていった。フレンの胸に澱が積もるにつれて、日に日に母の身体もやつれて行った。
 フレンが王侯貴族への哀れみの念を口にすると、「お優しいことで」と肩を竦めながら幼馴染みは言った。嘲りすら含まれていない、それは無関心を滲ませた平坦な声だった。
 まだ日は上がって間もなく、大地は冷え冷えとした夜の空気を引き摺っている。「うつるから近寄ってはいけないよ」、そう言われてから随分と顔を見ていない母が居る部屋の扉を振り返り「行って来ます」、と短く、小さく告げた。言葉は返らなかったが初めから期待していない儀礼的なものだったので、フレンは返事を待たず外へ出た。
 石畳の上を歩く。磨り減った靴底を通して、冷たい石の感触が伝わってくる。吐いた息が白く視界を滲ませて、やがて同じように真っ白な空へ吸い込まれるように消えていくのをぼんやりと目で追った。今日は雪が降るかも知れない、フレンは思った。
 宿へ着くと幼馴染みは先に到着していて、水道魔導器に水を汲みに行くところのようだった。フレンが開けた扉をくぐると、「サンキュ」と言い残し、広場の方へ行ってしまった。視線も合わせず、あっと言う間の出来事だった。フレンが来たことに気付いた女将が、厨房の奥から「ユーリを手伝って」と声を張り上げた。
 小走りに来た道を引き返すと、すぐに見慣れた幼馴染みの背を見つけた。勘の良い彼ならフレンの足音に気付かない筈がないのに、某彼某から譲られた一回りも二回りも大きな黒い着衣に覆われた背中は、歩を早めることも緩めることもせず淡々と揺れている。
「ユーリ!」堪らず、薄ら白い項の見え隠れする背中に声を掛ける。「ユーリってば、待ってったら」
 そこで漸く彼の歩調は緩やかになり――とはいえ完全に立ち止まることはしなかった――幼馴染みに並ぶことが叶った。隣で並び歩くことで彼――ユーリ・ローウェルとフレンの視線が絡む。ユーリは黒酸塊の眼をやんわりと細めることでフレンの存在を見止め、それから視線を前に戻した。もう視線は交わらない。名残惜しく、肩先で揺れる彼の黒髪と首筋の白とのコントラストを目で追っていたが、結局諦めて彼に倣い前を向いた。





10年後ユーリとエステル



 薄紅の絨毯が敷き詰められた丘を駆け足に上る。朝早く、まだ青色の浅い空を背にしたそびえ立つ花の大樹を見上げるのは日課と化していた。
 昨日は午後から雨が降りだしたので、足下は土の色が判らないほどの花弁に埋め尽くされている。その花弁を一枚ずつ数え集めたりしたら、何か素敵な話の一つも浮かぶかも知れない、とわたしは雨露とも朝露ともつかない湿り気を含んだ淡色の絨毯に腰を下ろした。
 寒さの和らぐ季節だったが、それでも肺を満たす微かに色付いた朝の空気は清涼としていて気持ちが良い。この町の大樹に宿る風変わりな精霊は留守のようだ。その精霊は、わたしの初めての物語の発端で、こうして樹の下で涼んでいると時折顕れては言葉を交える程度には交友を深めている。いくつか新しい噺のアイディアがあったので、意見を聞きたいと思っていたので残念だった。




よく分からないスキット風の何か



Es「はーvやっぱりラピードは可愛いです!」

Ca「(エステルはまた……)ユーリもやっぱり、ラピードに癒されたりする?」
Yu「んー……?まあ、ラピードはすっげー男前なのは認めるけどな」
Ca(飼い主馬鹿)
Yu「でも、ラピードより――……こう、仕事で煮詰まってにっちもさっちも行かなくなってる、フレン見てた方が癒されるな!」
Ra「あー、分かる分かる。おっさんもアレクセイが机突っ伏して唸ってんの見る度に超癒されてたわー」
Yu「こういうの、ギャップ萌えって言うんだよな!」
Ra「ね!」
Ca「言わないよ」




よく分からないスキット風の何か


Fl「ユーリ……僕では君を止められないのかい?君の力にはなれないのか?……君の背負う業、犯してしまった罪を……かつてそうだったように、均しく分かち合うことは出来ないのか!」
Yu「……ばーか。今だって俺たちはちゃんと、色んなもんを分け合えてるさ。少なくとも、俺はそう思ってるぜ?不本意だけどな」
Fl「ユーリ……」
Yu「でも、な。本当の正義ってのは、恰好いいもんじゃねぇし、それを為すには絶対に自分も深く傷つくもんだ」
Fi「ユーリ、それは――……それはや●せたか●氏が描いた某児童向け食物キャラクター絵本第一作のあとがきで語った……?」
Yu「俺はウサ子ちゃんが好きだ。」
Fl「しかもレギュラーともモブキャラとも言えるこの微妙なチョイス!ユーリ!」




5年後カロユリ(と、いうかコレの続き)


 男は、長く細い溜め息をこぼした。
 ボクは、彼の胸が緩く上下するのを見下ろしていた。
 引き締まりすらりと長く伸びた腕は、今は弛緩し右腕はシーツの上に、左腕は力なく寝台からはみ出て指先が床を掠めていた。普段は毛先を肩口で揺らす、彼の黒い髪もシーツの上に広がっていた。全身も同じように黒一色である筈なのに、いやにそのコントラストが奇妙に目につく。
 男の呼吸は不規則で、視線は天井へと向いてはいたが何を注視しているというわけではないように見えた。眉間には浅く皺が刻まれ、暖かな色の照明に包まれた薄暗いこの部屋でも明確に分かるほど、彼の顔色は白かった。
 脂汗さえ額に浮かべ、静かに、けれど確かに苦悶の表情を浮かべている彼を冷ややかに見下ろして、ボクは言った。
「大袈裟だよ、ユーリ」
 暖炉の前を陣取ったラピードが、珍しく同意するように欠伸をした。

 ユーリ・ローウェルが酒を飲まないのを、ボクは知っていた。
 ボクが今よりもっと小さく、もっと子供だった頃に本人に直接訊いたところ、彼は少しばかり逡巡するように視線を泳がせたあとに「弱いんだ、実は」、と言った。ボクはそのときは大して気にも留めず納得したが、その説明が彼の不精だとすぐに気付いた。
 当時行動を共にしていた面々の中での最年長の男が酔い潰れたのを、肩に引っ掛けて明け方に帰ってきたのは他でもないユーリだったからだ。
 翌日酔いから醒めた男に聞いた話だと、麦酒に始まりウォッカとスコッチ、間にまた麦酒を挟み、濁酒を呷り、芋焼酎を後入れの湯で割ってちびちび呑むというチャンポンっぷりを発揮したらしい。その後もまだ何かしら頼んではいたようだが、ユーリと呑んでいた男にはその後の記憶はない。
 本人に問い質したところ、彼は幼馴染みである騎士団長の何某の事柄以外にしては大変珍しいことに、酷く面倒臭そうな様子を隠そうともせず顔を歪めた。
「味が、嫌い、なんだよ……」息も絶え絶えに、問い質したときに返ってきた答えと全く同じ言葉を投げられる。「ってか、呑んで気持ち悪くなんなら、立派に下戸だろ」
 ユーリは身の置き所がないのか、仰向けだった身体を傾けて右手側を下に体勢を変えた。あくまで「自称酔っ払い」を貫く男を見下ろして、ボクはまた溜め息を一つ吐いた。




エイプリルフールネタにしようとしてたユーリとフレン


 日課というほど頻繁に通える時間は取れなくなってしまったが、それでも通い慣れた下町へと続く坂道をフレンは歩いていた。密集し、高く連なった家々の間から目が痛くなるくらい青い空が覗いている。
 この数ヶ月は仕事が立て込んでいて、ろくな休みもなかった。それどころか徹夜が当たり前の日々が続き、城を出たときなど太陽の黄色さに目を痛めた。それでも、視察を口実に気晴らしを勧めてくれた副官への感謝は忘れない。




おしまい☆





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最終更新:2009年11月11日 02:08