フレン出てきませんがフレユリで。
 ユリフレではありません。このサイトのユーリはちょっと頭が可笑しいので、フレユリもこれがデフォです。


「あれ?コレクター図鑑、完成したんじゃなかったのか」

 普段はあまり好んで本を読む習慣のないユーリが、それでもエステルが頑張って完成させたものだから、と言ってコレクター図鑑のページを捲る音が響き出してから小一時間、手を止めて言った。

「え?え?あ、あの……」

「何寝呆けたこと言ってんのよ。その図鑑は完璧。このあたしがチェックしたんだから、間違いないわ」

「です!リタをぎゃふんと言わせました」

 ユーリの唐突も唐突な爆弾発言に思わずエステルは狼狽えたが、リタの援護によって正当性を主張することに成功した。が、一言多く、思い出し気恥ずかしさにリタが赤くなって俯いてしまう。

「だよ、な?……っかしぃなあ…………一個足んねぇって、やっぱ」

「何が足りないんです?」

 同意しながらも納得がいかないのか、一人首を捻っているユーリが目を落とすページをエステルも覗き込む。

「『貴重品』?ギガントモンスターは一通り倒したし、ギルドの依頼も散々付き合ってやったんだからそこに穴があるわけないでしょ!?」

 仲良く並んだ漆黒と薄紅の後頭部にリタの声が降ってきた。心なしか最近の彼女にしてはキツめの口調に、やきもちか分かりやすい、と思うが口にしないユーリは代わりに図鑑を指しながら問うた。

「『暴走騎士』は何処だ?」

「……」

「……」

 「貴重品」のアタッチメント欄、ラピード専用の暴走シリーズ――どう見てもそれ以上スペースのないそこを、「何で攻略本イラストにザギが載ってないんだよ!一体どんな乱丁だよ!?」と叫んだ全国のザギ好きさんバリにユーリは不服そうに見つめている。

「宝箱、殆んど開けた筈だよ、な?」

「……」

「…………」

 紫暗の双眸が剣呑な光を宿して細められる。エステルとリタは彼と自分たちとの温度差に閉口せざるを得ない。

「やぁっぱあれか?城ン中のエステルの部屋にまだ開けてねぇ宝箱があってそん中にある、とか……」

「あ、あの、ユーリ……」

「………………」

 顎を引き、可愛らしく小首を傾げながらエステルが控え目に声を掛ける。しかしユーリは自分の考えを口に出すことで纏めているのか、エステルの声に反応する様子はない。リタは――……最早俯いたまま微動だにしない。

「そーなるとカロル先生に頼むしかねぇよなあ。エステルの居ない隙にちょっとばかりピッキングを頼んで、と」

「ユ、ユーリ!そういうことは色んな意味で、もっと包み隠して下さい!」

「……………………」

 頬を染めて正論という名の慣れないツッコミを入れるが、矢張り本職に比べると威力不足は否めない。勿論、「暴走騎士」に思いを馳せる文字通りの暴走男を止めることなど夢のまた夢だ。

「はっ!それともアレか!?フレンんとこの副官のねぇちゃんが既に押収済みとかそういうオチか?その可能性が一番高いじゃねぇか!ぐぁっ、やられた!俺の『暴走騎士』ッッ」

 思い込みと被害妄想もここまで来ると立派だ。可哀想にエステルは、若草色の澄んだ瞳に僅かばかりの涙を浮べている。

「リーター~……ユーリが変な世界にトリップして、ちっとも話を聞いてくれま…………リタ?」

「――……に…あり…………出でよ!神の雷!!」

 気持ちは分かりますが、流石にそれやっちゃいけませんモルディオさん。

「待てリタ!TOVにインディグネイションはない!!」

 リタの詠唱に危険回避能力をフル稼働させ我に返ったユーリは、エステルを後ろに庇いつつ的確なツッコミを繰り出すが手遅れでしたというか、最早火に油だった。

「問答無用!失せろ変態!!」

「くっマジックガードじゃ間に合わねぇ!」

 ユーリは即座に判断すると、ゾフェル氷刃海でエアルクレーネにとっ捕まっり、カロルを突き飛ばしたときばりにエステルを術の射程範囲外に突き飛ばす。そのままの手で遠巻きに傍観を決め込んでいた筈の、「紫色のずた袋のようなもの」を引っ掴み自身とリタとの間に割り込ませた。

「いちびってんじゃないわよ!インディグネイション!!」

「やらいでか!何でこんなに寂しがりやなのにうさみみアタッチメントが無いんだ35歳ガード!!」

 遠巻きに傍観を決め込んでいた筈なのに何故丁度良い感じにユーリが手を伸ばしたそこに「紫色のずた袋のようなもの」があったのかは――……同じく早々に避難と傍観に徹していたカロルとジュディスが、人身御供ヨロシク突き飛ばしたからなのだということを、ラピードだけが知っている。

「はい?」

 恐らく、自分の身に何が起きたのか認識する間もない程の刹那――まばゆいばかりの閃光に少し遅れて轟音が鳴り響き、あとには文字どおり真っ黒な鴉だけが残った。

「――……言われてみれば確かに……」

 肩で息をしていたリタが呼吸を整え終えると開口一番言った。

「何であんたにうさみみがあって、他の野郎共にはないのかしら……謎だわ」

「だろ?『うさみみペドロリーノ』とか、『うさみみお子様用』とか、あって然るべきだと俺は思うね」

「がきんちょはともかく、おっさんのうさみみはあたしパス」

「パスなんです?」

 こうしてコレクター図鑑未完疑惑からものの見事に話はうさみみに逸れ、レイヴンの尊い犠牲によって「凛々の明星」の平穏と結束は守られた。


 

 


 困ったとき(オチとか)のおっさん頼み。





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最終更新:2008年12月06日 00:49