マイ・トイ・レディ 加筆修正部分
梅雨が過ぎて本格的な夏が来る。期末試験の終わった教室は賑やかなクラスメイトの声に満たされている。守は大きく伸びをして、机の上を片付け始めた。
今日からまたクラブ活動が始まる。守は席を立って美樹の席に近付いた。あれから守と美樹はクラスだけでなく親公認の間柄になった。ちなみに母親はなんと美樹の父親と再婚した。だから母親は、守が打ち明ける前から美樹のことを知っていたのだ。
そして二人は今では同じ家で暮らしている。
「試験、どうだった?」
守は微笑みを浮かべて美樹に問い掛けた。美樹がぴくんと身を震わせてのろのろと顔を上げ、濡れた目で守を見上げる。微かに赤く染まった美樹の顔を見つめ、守はどうしたの、と問い掛けた。
「試験は問題ないわ。だけど……」
「だけど?」
そう訊ねながら守は首を傾げた。今朝は確か自慰をしたはずだから、空腹は満たされているはずだ。それに昨日の晩はメンテナンス後の動作テストも兼ねて性交処理もしている。今日は試験だから今はまだ昼前だ。つらつらと考えてから守は眉を寄せた。
「昨日、改良してもらった部分が……。その……」
「うっ」
守は低い声で呻いてから頭をかいた。どうやら股間周りの改造をしたために不具合が起こっているらしい。ごめん、と小声で詫びてから守は美樹の机を片付けるのを手伝った。
美樹がサイボーグだと聞いた時には正直、驚いた。でも美樹は美樹だ。一生懸命に自分のことを説明する美樹はとても可愛く見えた。それに結局のところ、彼女だろうが玩具だろうが、傍にいてくれることには違いないのだ。
「まずい……。赤坂博士に相談しよう」
手早く美樹の鞄に荷物を詰め込み、守は美樹の手を引いて立ち上がらせた。小さな悲鳴を上げて美樹がよろける。慌ててそれを支えた守は、美樹を両腕に抱え上げてその場を歩き出した。
教室に残っていたクラスメイト達が一斉にひやかしの声を上げる。
「……締め付けシステムが朝から停止せずにずっと動作を繰り返してるの。きっと単純なプログラムミスだから、赤坂さんに相談しなくても、守くんが一人でなんとかできると思う」
ごく小さな声で美樹が告げる。守は冷やかしの声を無視して教室を出てから、改めて腕の中の美樹を見つめた。美樹は以前からボディの制作者である妙子のことが苦手らしい。
「じゃあ、おねだりして」
微かに笑って守は小声で美樹を促した。美樹が真っ赤な顔をしておどおどと周囲を伺う。守はそんな美樹を腕に抱えたまま、階段を下り始めた。
「わ、私の、電動式の、お、大人の玩具みたいな機械化膣を、修理してくださいっ」
恥ずかしそうにしつつも、美樹が小声でおねだりをする。守はにっこりと笑って判ったと頷いた。
パソコン同好会の部室に辿り着き、ドアの鍵を開ける。守は美樹を抱えて部屋の奥に向かった。ソファに美樹を下ろしてから、部室のドアの鍵をきちんと掛ける。途中で邪魔されるのはごめんだし、美樹の恥ずかしい姿を誰かに見られるのはまっぴらだ。
学校で何かトラブルがあった時に対処出来るよう、必要な道具は揃えてある。守は先にパソコンを立ち上げてから、机の引き出しから道具を取り出した。検査用のスティックには長いコードがついていて、コードの先にはパソコンにすぐに繋げるようにUSB端子がついている。守はデスクトップの前面に端子を差し込んでから美樹に近付いた。
赤坂妙子という博士は、美樹の身体のことを詳しく説明してくれた。美樹がサイボーグになった経緯も聞いた。そして守は美樹のメンテナンスを任されることになったのだ。
「じゃあ、下着を脱いで開脚して」
いつものように守は美樹に指示を出した。頬を染めた美樹が頷いてショーツを脱ぎ、ソファの上で足を開く。膝を立てた美樹の足の間に割り込んだ守は、早速、美樹の股間部分を観察し始めた。
「あ、あの! 指で、拡げたほうがいい?」
「うん」
守が頷くと美樹が恥ずかしそうにしつつも、機械化小陰唇を指で押さえて左右に広げる。守は美樹の股間に顔を近づけ、少し飛び出している赤い機械化クリトリスを指で軽くつついた。
「プログラムミスしたからかなあ。人工愛液が垂れてるね」
どうやらこんな風に見られたり、指摘されたりすると美樹は気持ちいいと感じるらしい。近頃は守もはっきりとそのことを感じ取れるようになった。赤くなった美樹がうっとりとした面持ちをして深く息を吐く。
「ナプキンを使ったけど、問題はない?」
「その方が不自然じゃなくていいかも」
そう答えながら守は美樹の脱いだショーツを見た。確かに股布のところにはしっかりとナプキンが貼られている。最初にナプキンを見た時には守もどきどきしたものだが、今ではすっかり見慣れてしまった。
左右に押し広げられた機械化小陰唇の間にスティックの先をあてがう。そのまま機械化膣に挿しこもうとした守は、妙な手応えに眉を寄せた。いつものように入らないのだ。
「あれ? もしかして締め付けが強すぎるから?」
検査用のスティックをいったんソファに乗せて、守は今度は自分の指を美樹の機械化膣に入れようとした。だがシリコンゴム製の人工粘膜の感触があるだけで、奥に指が入らない。
「今は締まってるけど、突然、開閉することも、あっ……」
うっとりと顔を緩めた美樹がぶるりと身体を震わせる。すると守の指に当たっていたシリコンゴムの人工粘膜が動き、指を締めたり緩めたりし始める。
「そうみたいだね。撮っておかないと」
守は美樹の報告に頷いて、制服のポケットから携帯電話を取り出した。機械化膣の締めつけシステムは、守が新しく開発したものだ。だがミスがあったために美樹の機械化女性器が妙な動作をしているのだろう。
守は携帯電話のカメラを美樹の股間に寄せた。
「凄いね。人工愛液が絞り出されてる感じ」
締まったり緩んだりする機械化膣からは透明な液体が動きに合わせて垂れてくる。赤く濡れたシリコンゴムから押し出されているように見えるのだ。
美樹は恥ずかしそうに顔を背けている。カメラを股間に向けたまま、美樹の様子をちらりと見てから、守は携帯電話の画面に目を戻した。
「もしかして試験中もずっと?」
突然、開閉動作が始まるなら、もしかしたら試験中もそうだったのかも知れない。そう考えて守が質問すると、美樹はすぐに真っ赤になった。
「動いていたけど、試験が終わったら診てもらえるのは解ってたし、それに、あの……」
美樹が恥ずかしそうに口ごもる。守は美樹をじっと見つめた。
「それに? なに?」
「少しだけど、擦れて……その、気持ちよかったから。気持ちいいのに、頭がしゃっきりして、試験に集中できて。最近、授業中とか全然集中できなかったのに」
ためらいがちに目を伏せて、美樹がたどたどしい口調で言う。頷きながらそれを聞いた守は美樹ににっこりと笑みかけた。
「じゃあ、いつもその方がいいとか? アイドリングみたいな感じで自慰動作するとか」
美樹は空腹を感じると自慰をしなければならないのだという。身体がそういう仕組みなのだ。だが別に自慰をし過ぎて悪いということはない。守はそう考えて提案してみた。すると美樹が恥ずかしそうに視線を泳がせる。
「もちろん、守くんの、指示なら、言うとおりにするわ。でも……」
「あ。摩耗したら部品交換はするから大丈夫だよ」
撮影を終え、携帯電話を制服にしまい込みながら守は笑ってみせた。美樹の身体は機械で出来ているため、自動回復は当然しない。自慰で擦りすぎたら当然、部品は摩耗するのだ。
「でも今だって守くんに負担かけてるのに、これ以上は……」
「何で? 面白いからいいって言ってるのに」
口ごもった美樹に苦笑してから、守はいつも持ち歩いている精密ドライバーを取り出した。このままではプログラムをチェックするために検査用のスティックを挿入することは出来ない。だったら分解すればいいのだ。
「守くんが、楽しんでくれているならいいけど」
そう言いつつも美樹が憂いを帯びた表情になる。守は手慣れた調子で機械化小陰唇の縁のねじを外し始めた。
「楽しいし、好きだよ」
以前は告白するだけでも凄く勇気が必要だった。初めて二人で遊園地に行った時のことを思い出し、守はしみじみとしたものを感じた。今では美樹を自分の思う通りに操作することが出来る。恥ずかしがるところも可愛いし、機械の身体も見ていて楽しい。それに何より、美樹にとてもそそられるのだ。
「良かった」
ほっとした顔をしつつも、美樹の表情にはどこか翳りがある。手早く片方の機械化小陰唇を取り外してから、守は美樹を見やった。
「もしかして、何か気になる?」
「ううん。なんでもないの」
首を振って美樹がにっこりと笑う。その笑みをしばらく見つめてから守は目を細めた。じっと見つめると美樹がぎこちなく視線を逸らす。
「何でもないって感じじゃないけど?」
「あの! 守くん。飽きたら言ってね! わたしはあくまで玩具なんだから!」
「飽きたら改造すればいいんじゃない?」
懸命な面持ちで言った美樹に守は平然と答えた。すると美樹が驚いたような顔になる。守は少し考えてから、作業を再開しつつ言葉を足した。
「だから、人間の女の子だったら飽きたら困るけど、美樹はサイボーグなんだから」
幾らでも好きに改造出来る。守はそう続けてもう片方の機械化小陰唇を取り外した。股間から外された機械化小陰唇は、ピンクの花びらのように見える。
何故か美樹がまた真っ赤になって照れ始める。守は不思議に感じて手につまんだ機械化小陰唇を美樹の目の前に翳した。
「もしかして照れてる?」
「ずっと、わたしでいいの?」
「だってほら。人間だったらこんな風に部品を外したり、改造したり出来ないし」
そう言いながら守は手の上に機械化小陰唇を乗せてじっと見つめてみた。
そういえばこれって何かに似ている気がする。
心の中で呟いた守は機械化小陰唇をつついてみた。手触りはつるんとしていて、人間の女の子のそれとは多分違うんだろうなという気がする。何度かつついてから、守はぽんと膝を叩いた。
「そうか。ピンクの生姜に似てない? これ」
薄い紅色をした甘酢漬けの生姜を思い出し、守は美樹に話しかけた。何度か瞬きをした美樹が恥ずかしそうに目を逸らす。
「もう! 守くんってば……」
拗ねたように唇を尖らせつつも、美樹はどことなく嬉しそうだ。守はうんうんと頷いて美樹の機械化女性器の分解を続けた。取り外した機械化大陰唇は色の薄いタラコみたいだし、赤いクリトリスの部品は小梅の種のようにも見える。
「美樹のここってお弁当みたいだよね」
ぽっかりと穴の開いた股間に手を突っ込みながら、守は笑い混じりに指摘した。機械化膣に沿って指を這わせると小さなスイッチが触れる。守は不規則に締めつけていた機械化膣の動きを外部から停止させた。
「お弁当って?」
守は部品を入れたトレイを不思議そうな顔をする美樹の顔に寄せた。中身を見た美樹が納得したように頷く。守はそんな美樹に頷き返し、検査用のスティックを機械化膣に挿入した。
今日も同好会のメンバーは誰も来ないようだ。パソコンに向かった守は問題のプログラムのミスした箇所を探し始めた。間違えた箇所はすぐに見つかった。美樹が言った通り単純なミスだ。守は手早くプログラムを修正した。
分解した機械化女性器を元通りに組み立てる。まずは機械化膣のスイッチを元に戻し、トレイに入れておいた機械化大陰唇を嵌め込む。機械化クリトリスを所定の位置に嵌め、機械化小陰唇をネジで取り付けたら終わりだ。薄いひらひらとした機械化小陰唇を元の位置にネジで留めながら、守はちらちらと美樹の様子を伺った。
そういえばそろそろ昼時だ。美樹がうっすらと上気しているのは、空腹感があるからだろう。美樹は平日は学校の時間割に合わせ、昼休憩の時間になると空腹を感じるようになっているのだ。
「直してくれて、ありがとう」
「ううん。それよりお腹空いてない?」
道具を片付けながら守はさりげなく訊ねた。戸惑ったように視線を泳がせた美樹が、ちらちらと守を伺う。机の引き出しの中に道具をしまい込み、守は美樹のところに戻った。
「空いてるわ。このまま、お食事、していい?」
美樹の言うお食事とは自慰のことだ。恥ずかしいから自慰と口にしたくないらしいのだが、客観的に考えるとそっちの方が色々と想像できて恥ずかしい気がする。守は苦笑をして美樹の足の間に腰掛けた。
「どうせだから動作テストしようと思ったんだけど」
「締め付けシステムを操れるかどうか、試せばいいのね?」
そう言いながら美樹が指を股間に添え、機械化小陰唇を左右に開く。守は身を屈めて美樹の股間を覗き込んだ。締めつけシステムは美樹の意志で機械化膣の締め具合を調節出来るシステムだ。
「うん。大丈夫そうだね」
開いた機械化膣の口を覗き込んだ守は頷いた。赤いシリコンゴムの人工粘膜の隙間が広がったり狭まったりする。何度かその動きを確かめてから、守は身を起こした。
「ついでだから性交処理していく? 嫌なら自慰でもいいけど」
パソコン同好会の部室は完全防音だ。多少騒いでも外に音は漏れない。性交処理時に鳴る美樹の下腹部のモーター音や、チャイムも外には聞こえないだろう。そう考えながら守は美樹に問い掛けた。
「ま、守くんさえよければっ!」
勢い込んで言ってから、美樹が恥ずかしそうに俯く。どうやら積極的に頷いたことが恥ずかしくなったらしい。守はそのことに気付いて思わず苦笑した。やっぱり美樹はとても可愛いと思う。
「じゃあ、早速」
守は手早くズボンのジッパーを開け、かたく張りつめたペニスを引っ張り出した。美樹にのし掛かってまずはキスをしてから、ペニスを機械化膣にあてがう。締めつけシステムがあるから、きっと以前より感触に波が出せるに違いない。そんなことを考えながら守は慎重に機械化膣にペニスを押し込んだ。
「あっ! んふっ!」
とろんとした顔で甘ったるい声を上げた美樹が身体を強ばらせる。守はペニスを機械化膣の奥まで押し込んだところで動きを止めた。人工愛液はほどよく温かくて、ペニス全体をやんわりとくるんでいる。機械化膣の内部で擦れるのが気持ちいいのか、美樹は時々ぴくんと身を竦めては小さな声を漏らす。
だが次第に美樹の表情が落ち着いてきて、やがて意識がはっきりとしている状態に変化する。これも性交処理の時のいつもの反応だ。美樹はどうやら気持ち良く感じているらしいのだが、時間が経つにつれて落ち着いて来て、乱れるようなことは決してない。
「守くん、少しずつ締めてみる?」
「うん、頼むね」
守が頷くと、ペニスにまとわりついていた人工粘膜が少し締まる。ちょうど良いところまで美樹に締めてもらってから、守はバイブを動かすように頼んだ。恥ずかしそうな顔をした美樹が股間に手をあてがい、機械化クリトリスを操作する。するとほどなく人工粘膜が蠢き始めた。
「あの! 守くん!」
ペニスを擦られる感覚に集中していた守は、息を吐いて美樹を見た。
「え? なに?」
「生身の女の子は、わたしが、その……お食事、してるときみたいに、反応するのよね?」
「えーと」
やけに真面目な顔で問われ、守は一瞬躊躇した。確かに人間の女の子はセックスの時には美樹が自慰をする時のような反応をするだろう。守は美樹の意図が読めず、答えに困った。だが嘘を吐いても仕方がない。そう思って守は正直に頷いた。
「多分、そうだと思う。そうじゃない人もいるかもだけど」
「わたしの反応って、物足りないとか、そういうことは無い?」
「え? 何で?」
少し戸惑ったような顔をした美樹に守は問い返した。どうやら美樹は人間の女の子と反応が違うことが不満じゃないかと訊いているらしい。
「人間の女の子の反応が欲しかったら、普通にそういう女の子とするけど」
「そ、そうよね。ごめんなさい」
「僕は玩具の美樹がいいんだけど。だから色々としたいと思うし」
美樹がもしも人間の女の子のような反応をしたらどうだろう。そのことを想像しようとした守は顔をしかめて首を捻った。以前ならともかく、サイボーグだと判って、そしてそんな美樹が可愛いと思ってしまった後では、想像すら出来ない。
玩具だからこそ色んなところを弄って楽しいと思うし、幾らでも改造が出来るのだ。
「守くん……」
目を潤ませた美樹が息を乱しつつ、守をうっとりと見つめる。その手は忙しなく機械化クリトリスを弄くり、適切に機械化膣のギミックを操作中だ。守は微笑みを浮かべて頷き、美樹の身体を両腕にしっかりと抱きしめた。
了