錬金術(alchemy)

概要

錬金術とは卑金属から貴金属(特に金)を合成する「技」のことである。主に中世ヨーロッパ、中世アラビア、中国で行われた。現代の科学では金はおろか他の元素でさえ化学的に合成することは不可能とされていることから似非科学と同等に思われているが、化学(chemistry)の語源が錬金術(Alchemy)であることから分かるとおり、現代の化学の礎となった。

起源と歴史

語源

もともとAlchemyとはアラビアの言葉でalとはアラビア語の定冠詞でありもともとel-Kimmyaと綴った。KimmyaとはKhem(黒い土地)すなわちエジプトを指す言葉だった(おそらくナイル川の氾濫による土砂が黒かったためではないだろうか?)。つまりエジプトで生まれた技術を意味している。Kimmyaに関してはギリシャ語のchyma(鋳造や金属の溶解)から派生しているのだ、という説もある。

歴史

錬金術師達の主張を信じれば錬金術の創始者はヘルメス・トリスメギストス?(HermesTrismegistos、三重に偉大なヘルメスの意)とされる。ヘルメス・トリスメギストス?とはギリシャ神話?ヘルメスエジプト神話トト神?が習合した伝説的人物でエメラルドタブレット?ヘルメス文書?の著者でもある。
伝説はともかく、錬金術の起源が古代エジプトの冶金技術にあるのは間違いないようである。おそらく紀元前200-300年ころにはおこなわれていたようである。
文献学的に錬金術の名が現れるのは西暦200-300年頃のことである。この頃はエジプトのアレキサンドリアで錬金術が盛んであった。ゾシモス?が活躍したのもこの頃のことである。
やがて錬金術の中心はアラビア世界に移り更なる発展を遂げる。それは数々の錬金術用語、化学用語がアラビア語語源になっていることからも分かる。以下に例を挙げる。アルコール(al-kohl)、アルカリ(al-qali)、蒸留器(al-anbiz)。
アラビアで発展した錬金術はその後、十字軍の活動、アラビア世界のヨーロッパへの侵入などにより西洋世界に伝わった。12世紀頃のことである。このころアラビアの錬金術文献がさかんにラテン語に翻訳された。ヘルメス文書?エメラルドタブレット?が翻訳されたのもこの頃のことである。これ以降、錬金術は西洋世界を中心に発達する。
そしてそれは17世紀から18世紀にかけて錬金術が衰退するまで続く。この時期に特徴的なことは、錬金術が自然学から秘教的色彩をおび、隠秘学、真の意味でのオカルトへ移行したことであろう。またそれに伴い伝統的なカトリック教会からも距離を置くことになる。
18世紀になると自然科学の発達に伴い金属の変成という意味の錬金術は完全に衰退してしまい、その思弁的、秘教的側面は魔術師に引き継がれる、または吸収されながら、表舞台から完全に姿を消す。錬金術が再び脚光を浴びるようになったのはスイスの精神分析医、ユング?
(CarlGustavJung、1875-1961)の研究によるところが大きい。ユング?は錬金術書を読みあさるうちに、その寓意的な記述の中に人が自己実現(individualization、一般的な意味での自己実現ではない、個性化とも訳される)に向かうときによく見られる夢の象徴と同じものを発見した。つまり、錬金術師達は実験を行いながら個性化の過程を歩んでいたのではないかという主張を行った。

理論

四大元素

錬金術の理論的枠組みで一番の礎はアリストテレスの元素論であろう。アリストテレスの時代すでに四元素説?(世界の全ての構成要素は水・空気・土・火から成る、エンペドクレスによって最初に提唱された)はあったがアリストテレスはこれに加えて、全ての元素は相互に変換可能であるとした。すなわち全ての元素は第一質料?から成り、それぞれの元素は、湿、乾、熱、冷の属性を一定の割合でもっており、その割合が変わることで全ての物質ができるのだとした。この元素の相互変換可能性が錬金術の理論的根拠になったのである。

三原質

アラビアに錬金術が伝わるともう一つ別の原理が加わる。水銀、硫黄、塩(塩に関してはさらに後)の原理である。これを三原質といい、ジベールによって提唱された。この三原質は四大元素の前段階に置かれ、水銀は女性・受動、硫黄は男性・能動な属性をもつとされた。そしてこの二つ相反する性質を持つ質料が結びつくことが必要であり、それを即すのが塩とされた。

色彩

錬金術師達はさらに作業の段階を色によって区別した。この色の区別は錬金術師によって多様性があるのだが、主要な意見は以下のとおりである。すなわち黒化(nigredo)・白化(alberdo)・赤化(rubedo)である。これらの段階を簡単に説明すると-黒化-腐敗、分解、死。 -白化-月、銀、復活。-赤化-太陽、金、完成。色はこの順序で変化しなくてはならず、それ以外の変化は失敗と見なされた。

その他

賢者の石

錬金術の目的として賢者の石の製造が目的とされるが、これが最終目的ではない。賢者の石それ自体は金ではなく金を生成するための触媒となるものである。したがって賢者の石を手に入れることができれば、一応金の合成に成功したことになるのである。賢者の石は哲学者の石とも、エリクシルともいわれる。

錬金術の三つの目的

錬金術には三つの目的があったようである。卑金属から貴金属を合成すること、不老不死、神との合一(東洋的にいえば悟りといえる)。この三つのレベルを理解しないとなかなか錬金術師の行動は理解しがたいと思う。何故、金の合成が不老不死や神との合一と結びつけられたのか?金はイオン化傾向が非常に低く錆びにくい。このことが永遠不滅と関連づけられたと同時にその光沢に独特なものがあり、これが神との合一と関連づけられたのだろう。

中国の錬金術

エジプトやギリシャで錬金術が流行っていた頃、中国でも錬金術が流行っていた。特に中国の場合は煉丹術と呼ばれる。これが伝搬によるものか、偶然によるものかは分かっていない。それはともかく、西洋の錬金術も東洋の錬金術も非常に似たよったものであることは特筆に値するだろう。しかし、中国ではもっぱら不老不死が追求された。これを担ったのは仙人と呼ばれる道教の僧である。しかし、洋の東西を問わず詐欺師はいるようで何人かの皇帝が水銀中毒で亡くなっているようである。なお、中国の煉丹術については「抱朴子」が詳しい。

有名な錬金術師達

その他重要な項目


参考書以下はこの項を書くにあたり参考にした書籍。

  • 「錬金術」セルジュ・ユタン著、白水社(文庫クセジュ)
  • 「錬金術-こころを変える科学」チェリー・ジルクリスト(河出書房新社)
  • 「心理学と錬金術I・II」C・G・ユング著(人文書院)
  • 「錬金術大全」ガレス・ロバーツ著(東洋書林)

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最終更新:2009年03月03日 00:00