デメテル(Demeter)

オリュンポス十二神の一人。ローマ名はケレス?。ローマ名の英語読みは「セリーズ」。
穀物豊穣を司る女神。
麦の穂や豊穣の象徴・籠を手にして描かれる事が多い。水仙と芥子が彼女の象徴とされる。
信仰の中心地はアテナイ近郊のエレシウスであった。
アテナイでも信仰は行われ、毎年既婚女性たちによってテスモポリア祭が行われた。

血縁関係

彼女はクロノスレアを両親に持ち、ゼウスハデスらの直接の姉妹にあたる。
牡牛に変身したゼウスに強姦され、ペルセポネを産んだ。
そのペルセポネが行方不明になり(詳しくは後述)、娘を探し回っている時に
今度は牡馬に変身したポセイドンに強姦され、怒り馬アリオン?を産む。
英雄イアシオン?との間には富の神プルートス?をもうけた。

娘を探して

ある日、デメテルの娘ペルセポネがニュサの野で侍女達と共に花を摘んでいると、
突然大地が裂け、そこから四頭の黒馬に牽かれた馬車が飛び出してきた。
馬車に乗った何者かはペルセポネを捕まえると、大地の裂け目に帰っていった。

怒り悲しむデメテルは無能な侍女達を魔物セイレーンに変化させた。
侍女達が空を飛んでペルセポネを探すために、自ら翼のある身体を望んだとも言う。

娘を探して旅を続ける内、毎日天空を飛ぶ太陽神ヘリオス?から情報を得た。
曰くデメテルを誘拐した犯人はかねてからペルセポネに焦がれていた冥界の王ハデスであり、
ゼウスも誘拐に荷担していた、と。
ハデスゼウスもデメテルの兄弟である。
デメテルは激怒し、農耕の女神としての仕事を放棄してしまった。

地上は飢饉に襲われ、神々にも人間からの供物が届かなくなった。
ゼウスは冥界へ弁舌爽やかなヘルメスを使いにやり、
ペルセポネを地上に返すよう話を取り付けた。

しかし、ペルセポネが地上に戻る事ができる、と喜んだ瞬間、
ハデスは柘榴(ザクロ:結婚の象徴)の実を1つ彼女の口の中に放り込んだ。
冥界の食物を一度でも食べた者は冥界の住人になってしまうのだ。

結局ペルセポネは毎年一年の三分の一を冥界で過ごし、残りをオリュンポスで暮らす事になった。
娘が一緒にいる時はデメテルはうきうきと仕事に励み、逆に冥界にいる時は仕事が手につかない。
地上の植物の実りには周期が生じるようになった。これが春夏秋冬の始まりである。

エレウシス王家との関わり

これはデメテルが娘を探して旅をしていた頃の話である。
彼女は神々から身を隠すために人間の乞食女の姿で地上を放浪していた。
エレウシスにたどり着き、カリコロンの泉で休んでいた。
その土地の王・ケレオス王とメタネイラ王妃が彼女を見て、女神デメテルとは知らぬまま親切にもてなした。
デメテルはケレオス王の末子デモポンの乳母として働くことになった。

親切にしてくれたお礼にデメテルはデモポン王子を不死身にしてあげようと考えた。
その為には、王子の身体を毎晩少しづつ火にくべて「可死の部分」を焼き去る、という手順を踏まねばならなかった。
赤ん坊は不死身になるとはいえ、傍から見ればショッキングな場面である事は確かである。
デメテルは夜中は決して王子の部屋をのぞかぬよう王と王妃に注意していた。
だが、ある晩王妃が約束を破ってこの儀式を目撃し、驚いて大声をあげて騒いだ。
その大声に驚いたデメテルは王子を火の中に取り落としてしまった。哀れ幼い王子は焼け死んでしまった。

デメテルは女神の身体に戻り
「そなたらが騒がねば王子は不死身の身体になれたであろうに。私の為に神殿を建て、祭儀を行うがよい」
と言い残し出て行った。
デメテル神殿はすぐに建造された。
デモポン王子は神殿の片隅に祀られたとも、そこで儀式を行うと蘇生したとも伝えられている。

また、ケレウス王の長子トリプトレモスに農耕技術を教え、
龍の牽く空飛ぶ馬車を与えて世界中に農耕技術を広める役目を与えた。

デメテルの神罰

テッサリア領主エリュシクトンは神々を敬う心をもっていなかった。
彼はデメテルの社の森の聖なる槲(かしわ)の木々まで切り倒し、自分の館の建材に充てた。

怒りに震えるデメテルはエリュシクトンに「無限の飢餓」を与えた。
エリュシクトンはいくら食べても飢えが治まらないようになった。
財産・自宅・妻までも売り飛ばし、全て食費に充ててもなお腹は減る。

最後に残った娘も奴隷商人に売り飛ばした。
しかしこの娘は以前美貌を買われてポセイドンに抱かれた事があった。
娘が祈りを捧げるとポセイドンは彼女に「誰にでも変身できる魔法の力」を与えた。
変身能力によって、娘は別人に変身して難を逃れた。

だがエリュシクトンの飢えが収まった訳ではない。
今度は変身能力を利用して、娘を売り飛ばしては戻ってこさせる、そしてまた売る、というサイクルを作り上げた。
それでも足らなくなった彼はとうとう己の手足に喰らいつき、あえなく死んでしまった。

現代のデメテル

原子番号58・セリウム(Ce)はデメテルの別名セリーズ?から名づけられている。
太陽系で2番目に大きい小惑星は「ケレス/セリーズCeres」という。
英語で穀物を「シリアルcereal」というのも彼女に由来する。

参考

尾形隆之介『通読 ギリシア神話』東京図書出版会
ルネ・マルタン『図説ギリシア・ローマ神話文化事典』原書房
松島道雄『図説ギリシア神話~神々の世界編~』河出書房

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最終更新:2005年07月18日 09:35