(フリーダム文庫) 機女狩人シリーズ 冒頭立ち読み版
序
激しい快楽のために機能中枢部がエラーを起こすか、作り物の女性器が物理的に消耗するか。人の形をした機械の女の壊れ方は、大抵はこの二種に分けられる。メンテナンス作業を怠っていたケースの場合は特に、前者の理由で壊れることが多い。
池田水輝はベッドに横たわったまま動かなくなった女を見下ろし、唇の端に煙草を挟んだ。慣れた手つきで煙草の先に火を点け、深く息を吸う。機械の女には煙草の煙はよろしくないのだそうで、仕事中は嫌でも禁煙を強いられることとなる。食事と煙草を吸うことくらいしか楽しみのない水輝は仕事後の一服をゆっくりと堪能してから枕元の端末に手を伸ばした。
服を着て動いている間は人間とそっくりに見えるのに、こんな風に壊れてしまうとただの機械にしか見えないから不思議だ。顔は快楽にだらしなく緩んだまま、目も少し開いたままだから余計にそう感じるのかも知れない。女を見下ろし、二本目の煙草を咥えながら水輝は端末を操作した。
そういえば仕事始めの頃は、この端末すら扱えなかった。毎回、仕事が終わるたびに公衆電話を探すのに苦労したことを思い出す。
「あー、おれ。終わった。……他は壊してねえよ。うるせえな」
端末越しに聞こえてきた相変わらずの声に顔をしかめ、水輝は苛立ち紛れに足を振った。爪先に引っかけていたシーツが広がってベッドに横たわる女を覆う。
「何だよ。……はあ? 引き渡し? うぜえな、そのくらいそっちで」
いつもは仕事が終わったら水輝と入れ替わりに回収班と呼ばれる連中が壊れた女を引き取りに来る。だが今日に限って水輝はその場に留まるように指示された。水輝は渋い顔で端末越しに交渉を続けた。どうせ粘っても特別手当くらいしか要求出来ないだろう。そう踏んで、着替えるために立ち上がる。咥え煙草で手早く着衣を整える頃には、ドアの向こうからは複数の人々の足音が聞こえていた。
「だから、その分は別に乗せろっつってんだ。おれは壊せ、までしか聞いてねえし、大体、そんなのと会ったトコで、いつもの報告書通りのことしか言えねえっての」
適当な身分を装い、機械の女の傍に忍び寄り、周囲に気付かれないようにセックスする。手順もいつもと同じだ。機械化された女達は性的な快楽がなければ維持出来ない。だから水輝は個体の性感センサーの場所を覚え、そのセンサーに一定以上の圧力を掛ける。水輝に回ってくる女の多くが性感インプットが足りておらず、一度接触すると、底なしに快楽を求めてくる。だから壊れるまで抱くことになるのだ。
それ以上のことは何も、と言って水輝はノックに応じてドアを開いた。白衣を着た連中の中に見知った顔を見つけ、驚きに目を見張る。
「……判った。引き渡しが終わってから話をつけるぞ。待ってろ」
水輝は一方的に通話を終えた。数人の研究者に混ざっていたのは、若い女性だった。他の連中がベッドに足早に近づく中、その女性だけがドアのところで立ち止まり、水輝を見る。
「久しぶり? とでも言っておくか? まさかあんたが回収班にいるとはね」
「いったい、何の話かしら?」
本気で訳が判っていないのだろう。水輝を見た女性が訝りの表情を浮かべる。これだから楽なんだよ、と内心で呟いて水輝は女性の手元を覗き込んだ。
見た目には美しく、そして慎ましく見える女性の手には一台の携帯用端末が握られている。どうやら壊れた女の状況報告を書くつもりらしい。
「何でもねえよ。えーと? 宇田川さん? だっけ? おれが池田水輝だけど。引き渡しはあんたにすればいいわけ?」
白衣の胸についているネームプレートを見る真似をして、水輝はわざとそう訊ねてみた。回収班の他の連中は既に女の片付けに入っている。あのまま運ぶと目立つので、パーツごとに分解してケースに入れるのだ。
「引渡しの報告は回収班長のあの子にお願い」
まるで疑ってもいないのだろう。宇田川という名の女性がそう言って分解作業を行っている回収班の少女を指さす。ふうん、と笑って水輝はちらりと少女を見てから目を戻した。
白衣の下に着る服は普段着でもいいはずなのに、宇田川が身に着けているのはまるで制服のようなかっちりとしたスーツだ。その胸元を見下ろして水輝は唇の端から煙草の煙を細く吐き出した。
「由梨佳さんが責任者じゃねえの?」
指さされた少女より、今は目の前のこの女性に興味がある。水輝は壁にもたれて話を振った。こうしているとまざまざと思い出す。腕の中にいた時の彼女も最初はやはり、今と同じように頑なだった。自分から心を開くこともなく、かと言って拒むでもなく、ただ身を固くして縮こまっていた。
だがそんなことすら忘れてしまっているのだろう。いきなり名前で呼ばれたことに抵抗を覚えたのか、それとも苛立ちを感じたのかは判らない。宇田川由梨佳が疑うような眼差しで水輝を見る。
「申し訳ないけど、話せないわ。あなたも、この仕事をしているならわかるでしょう?」
少し咎めるような口調になるのは仕方ない。この仕事は一介のエージェントには報されていないことも多い。だがその反応を水輝は面白いと感じた。
「ま、いいけどな。それより、煙草はいいのか?」
咥え煙草のままで笑うと由梨佳があからさまに顔をしかめた。腕組みをして返事を待つ水輝の口元に手を伸ばし、由梨佳が煙草を取り上げる。駄目か、と苦笑して水輝は由梨佳がつまんだ煙草を取り返すふりをして指に触れた。
滑らかすぎる肌を撫でると由梨佳が身体を竦めて水輝から離れる。その隙に煙草を奪い返し、水輝は携帯用の灰皿に吸いさしのそれを突っ込んだ。
「仕事の後の一服くらい、見逃してあげようと思ったんだけど、そうもいかなくなったわね」
「仕方ねえだろ。こんな仕事だからな。よくある話だ」
苦笑を浮かべて水輝は当たり障りのない返事をした。
そう、こんなことはよくある話だ。心の中で繰り返し、水輝は声を立てずに笑った。
池田水輝はベッドに横たわったまま動かなくなった女を見下ろし、唇の端に煙草を挟んだ。慣れた手つきで煙草の先に火を点け、深く息を吸う。機械の女には煙草の煙はよろしくないのだそうで、仕事中は嫌でも禁煙を強いられることとなる。食事と煙草を吸うことくらいしか楽しみのない水輝は仕事後の一服をゆっくりと堪能してから枕元の端末に手を伸ばした。
服を着て動いている間は人間とそっくりに見えるのに、こんな風に壊れてしまうとただの機械にしか見えないから不思議だ。顔は快楽にだらしなく緩んだまま、目も少し開いたままだから余計にそう感じるのかも知れない。女を見下ろし、二本目の煙草を咥えながら水輝は端末を操作した。
そういえば仕事始めの頃は、この端末すら扱えなかった。毎回、仕事が終わるたびに公衆電話を探すのに苦労したことを思い出す。
「あー、おれ。終わった。……他は壊してねえよ。うるせえな」
端末越しに聞こえてきた相変わらずの声に顔をしかめ、水輝は苛立ち紛れに足を振った。爪先に引っかけていたシーツが広がってベッドに横たわる女を覆う。
「何だよ。……はあ? 引き渡し? うぜえな、そのくらいそっちで」
いつもは仕事が終わったら水輝と入れ替わりに回収班と呼ばれる連中が壊れた女を引き取りに来る。だが今日に限って水輝はその場に留まるように指示された。水輝は渋い顔で端末越しに交渉を続けた。どうせ粘っても特別手当くらいしか要求出来ないだろう。そう踏んで、着替えるために立ち上がる。咥え煙草で手早く着衣を整える頃には、ドアの向こうからは複数の人々の足音が聞こえていた。
「だから、その分は別に乗せろっつってんだ。おれは壊せ、までしか聞いてねえし、大体、そんなのと会ったトコで、いつもの報告書通りのことしか言えねえっての」
適当な身分を装い、機械の女の傍に忍び寄り、周囲に気付かれないようにセックスする。手順もいつもと同じだ。機械化された女達は性的な快楽がなければ維持出来ない。だから水輝は個体の性感センサーの場所を覚え、そのセンサーに一定以上の圧力を掛ける。水輝に回ってくる女の多くが性感インプットが足りておらず、一度接触すると、底なしに快楽を求めてくる。だから壊れるまで抱くことになるのだ。
それ以上のことは何も、と言って水輝はノックに応じてドアを開いた。白衣を着た連中の中に見知った顔を見つけ、驚きに目を見張る。
「……判った。引き渡しが終わってから話をつけるぞ。待ってろ」
水輝は一方的に通話を終えた。数人の研究者に混ざっていたのは、若い女性だった。他の連中がベッドに足早に近づく中、その女性だけがドアのところで立ち止まり、水輝を見る。
「久しぶり? とでも言っておくか? まさかあんたが回収班にいるとはね」
「いったい、何の話かしら?」
本気で訳が判っていないのだろう。水輝を見た女性が訝りの表情を浮かべる。これだから楽なんだよ、と内心で呟いて水輝は女性の手元を覗き込んだ。
見た目には美しく、そして慎ましく見える女性の手には一台の携帯用端末が握られている。どうやら壊れた女の状況報告を書くつもりらしい。
「何でもねえよ。えーと? 宇田川さん? だっけ? おれが池田水輝だけど。引き渡しはあんたにすればいいわけ?」
白衣の胸についているネームプレートを見る真似をして、水輝はわざとそう訊ねてみた。回収班の他の連中は既に女の片付けに入っている。あのまま運ぶと目立つので、パーツごとに分解してケースに入れるのだ。
「引渡しの報告は回収班長のあの子にお願い」
まるで疑ってもいないのだろう。宇田川という名の女性がそう言って分解作業を行っている回収班の少女を指さす。ふうん、と笑って水輝はちらりと少女を見てから目を戻した。
白衣の下に着る服は普段着でもいいはずなのに、宇田川が身に着けているのはまるで制服のようなかっちりとしたスーツだ。その胸元を見下ろして水輝は唇の端から煙草の煙を細く吐き出した。
「由梨佳さんが責任者じゃねえの?」
指さされた少女より、今は目の前のこの女性に興味がある。水輝は壁にもたれて話を振った。こうしているとまざまざと思い出す。腕の中にいた時の彼女も最初はやはり、今と同じように頑なだった。自分から心を開くこともなく、かと言って拒むでもなく、ただ身を固くして縮こまっていた。
だがそんなことすら忘れてしまっているのだろう。いきなり名前で呼ばれたことに抵抗を覚えたのか、それとも苛立ちを感じたのかは判らない。宇田川由梨佳が疑うような眼差しで水輝を見る。
「申し訳ないけど、話せないわ。あなたも、この仕事をしているならわかるでしょう?」
少し咎めるような口調になるのは仕方ない。この仕事は一介のエージェントには報されていないことも多い。だがその反応を水輝は面白いと感じた。
「ま、いいけどな。それより、煙草はいいのか?」
咥え煙草のままで笑うと由梨佳があからさまに顔をしかめた。腕組みをして返事を待つ水輝の口元に手を伸ばし、由梨佳が煙草を取り上げる。駄目か、と苦笑して水輝は由梨佳がつまんだ煙草を取り返すふりをして指に触れた。
滑らかすぎる肌を撫でると由梨佳が身体を竦めて水輝から離れる。その隙に煙草を奪い返し、水輝は携帯用の灰皿に吸いさしのそれを突っ込んだ。
「仕事の後の一服くらい、見逃してあげようと思ったんだけど、そうもいかなくなったわね」
「仕方ねえだろ。こんな仕事だからな。よくある話だ」
苦笑を浮かべて水輝は当たり障りのない返事をした。
そう、こんなことはよくある話だ。心の中で繰り返し、水輝は声を立てずに笑った。
※
唇にぶら下げていた煙草を取り上げられ、水輝は呆れた気分で顔を上げた。病室を思わせる真っ白な部屋に閉じ込められたと思ったら、今度は吸っていた煙草をいきなり取り上げられたのだ。気分は悪い。
ソファにもたれていた水輝の目の前を塞ぐように立っているのは、一人の綺麗な女性だった。目を上げてそのことを確認した水輝は思わず口笛を吹いた。そんなことをしている間に、その女性が水輝から取り上げた煙草の火を灰皿の中で押しつぶす。
女性が身に着けているブルーグレイの制服はよく知っている。臙脂色のネクタイ、真っ白なシャツ、ベストとスカート、そしてジャケットの制服は、この忌々しい白い部屋がある研究所の所在地である、市立清陵高等学校のものだ。
長い髪を背に払い、制服に身を包んだ女性が折り目正しく礼をする。
「初めまして。池田水輝さんね? 私は宇田川由梨佳といいます」
見た目から受ける印象通りに生真面目に挨拶をした由梨佳に頷いて、水輝は立ち上がった。どうやら由梨佳の方も話は聞いているらしい。というよりは由梨佳が仕事の依頼主、ということになるのだろうか。
「どーも。で? 由梨佳さん、だっけ? 本当にいいのか?」
何が、とはわざと言わなかった。色んな意味を含めた問いかけだった。例えば相手が自分でいいのかどうか。こっちは仕事ということで請けた話だがいいのかどうか。それと最後に加減しなくていいのかどうか、だ。
何もすることがなく、ぼんやりとしていた日々が変わったのはつい先日のことだった。ふとしたことで、とある人物に拾われた水輝は『働かざる者食うべからず』と言われ、仕事を任されることとなった。これがその初仕事なのだ。
仕事の内容は至って簡単だった。ある女性とセックスをする。それだけだ。だがだからこそ水輝は気になった。依頼主は一体、どういうつもりでこんな仕事を頼んだのだろうか。男日照りで困っている暇を持て余したマダムなのだろうか。そんなことまで考えた。
だが今、現実に目の前に立っているのは、高校生にしか見えない由梨佳だ。
「構わないわ。どうしても、必要な事だから」
気丈な態度が少し揺らぎ、憂鬱そうな表情が覗く。だが由梨佳はその表情をすぐに消してしまった。
「あなたの方こそ本当に構わないの? かなりハードな仕事になるのは聞いているのでしょう?」
「ハード、ねえ。セックスは嫌いじゃないというか、むしろ好きだから問題は」
そこまで答えてから水輝は眉を寄せて口許を手で覆い、考え込むような仕草をした。すぐに由梨佳が心配そうな表情を見せる。
「もし、問題点があるなら先に指摘してちょうだい。可能な限りあなたが快適に仕事ができるように、私も気をつけるから」
面白い。水輝は由梨佳の反応をそう感じていた。たかがセックスひとつにここまで生真面目に取り組めるものだろうか。水輝はくすりと笑って口許を覆っていた手を離した。
「ま、一番の問題はやれるかどうかなんだが、その辺は割と自由に出来るっていうか」
目の前に立つ由梨佳には状況がよく判っていないのだろう。不思議そうな顔をしている。水輝は由梨佳のあごに指をかけ、まじまじと顔を見つめた。続いて服の上から由梨佳の体型をチェックする。モデルと言われても納得してしまう程度には由梨佳の顔立ちやスタイルは整っていた。
「事前に訊いておきたいのは、相手はおれでいい訳? でもってこれ、仕事なんだが、構わないのか? ついでに、手加減出来るかどうか判らないんだが、どうなんだ? ってことだな」
まさかセックスの前にこんな質問をする日が来るとは思わなかった。笑い出したい気持ちになりつつも、水輝は一応、真顔で訊ねた。ここで吹き出してしまったら、自分の方が萎えてしまいそうだ。
「お仕事として、きちんとこなしてもらわないと私たちの方が困るわ。あと、とりあえず、少なくとも最初の行為では、池田さんの自由にしてもらわないといけないの」
真顔で訊ねたからだろうか。由梨佳からはやけに固い口調で言葉が返ってきた。どうやら洒落や冗談を言っているつもりはないようで、由梨佳の生真面目な表情は崩れない。なるほど、と呟いて水輝は頭をかいた。
「つまりおれが勝手にやっていいと。そういうことか?」
水輝は再確認のためにそう訊ねた。仕事の内容がセックスをすることなのだから、きちんとするも何も、要するに行為に至れば問題はない訳だ。だが由梨佳が言った『自由に』というのが気に掛かる。
だが多分、訊くまでもなかったことなのだろう。当然という表情で由梨佳が頷く。言っていることと姿のギャップがあることに気付いていないのだろうか。清陵高等学校といえば市のど真ん中に位置する、学園都市の中心になっているところだ。通いたいという生徒は後を絶たず、受験時の倍率はもの凄いことになっていると噂に聞いた。
そんなところに通う生徒が、真顔で、しかも仕事としてセックスしろと言っているのだ。これで驚かなかったらそっちの方がおかしい。水輝はこみ上げてくる笑いを必死に堪え、横を向いて口許を押さえた。
由梨佳がどうしようもないほど不細工なら判らなくもない。金を積んででも事に至りたいという願望がある可能性も大いにある。少なくとも水輝が請け負った仕事は外部に情報を漏らしてはいけないという大原則があり、当然のことながら、由梨佳との行為についても当の二人以外にはエージェントを統括する人物にしか情報は渡らない。だからそれなりの金を積めば、体験したい、という希望は秘密裏に叶えられる。
だが目の前にいる由梨佳は、美人でスタイルもいい。この容姿だけでも何人もの男子生徒が彼氏として立候補しそうだ。男に不自由しているとは到底思えない。水輝は由梨佳の抱えるギャップのおかしさに笑いがこみ上げてくるのを懸命に堪えた。
「そして、池田さんは、私が物理的に可能な事なら、どんな事を指示してもいいの」
どうしたらそれだけ真面目でいられるのだろう。そんな質問をしたくなるほどに由梨佳は真顔で、だから水輝は笑いを堪えられずに思わず吹き出してしまった。まさか笑われるとは思っていなかったのか、由梨佳が怪訝そうな表情になる。
「いや、悪い。物理的に可能とか言われてもピンとこねえんだよ。ストレートにどんな体位でもOKって言われた方が判りやすいんだが?」
つまりはそういうことだろ、と続けて水輝は笑いを堪えすぎて目尻に浮かんだ涙を袖で拭った。あー、苦しい、と呟いてジャケットを脱いでソファに放り投げる。
「だから、どんな体位でもと言っても、あまりにアクロバティックなポーズだと無理でしょう?」
何故だろう。少しだけ由梨佳がほっとしているような気がする。首を締めていたネクタイを緩め、シャツのボタンを一つ外したところで水輝は不思議に感じて首を傾げた。
「まあ、あんまり無茶な注文はしねえよ。おれもそういう意味で壊す趣味はねえし。股関節脱臼で救急車が来られても困るだろ」
ただ、こんなとこでやりたいっていう気持ちは判らんがな、と付け足して水輝はネクタイの結び目に指を入れた。どうしてわざわざ高校の制服を着せられたのかと思っていたが理由はこれではっきり判った。この研究所とやらに入る時に学内の生徒や教師に疑われないためだろう。そしてこの格好なら仕事を終えても誰にも疑われることもないまま、学校から出ることが出来る。水輝は由梨佳とお揃いのネクタイを解いて放り投げた。
この部屋にはソファとテーブルの他にはクイーンサイズのベッドが一台設えてあるだけだ。部屋の隅には人形などの調度品が申し訳程度に置かれているが、それ以外には何もない。ドアを開けたら真っ白で飾りも何もない廊下があり、他にはここと同じような部屋が幾つかあるだけだ。
「私が……その、そうね、怪我、するような事があっても、慌てて救急車を呼んだりするのはダメよ。行為が全て撮影される事は、聞いているわよね?」
由梨佳が少し戸惑うように視線を泳がせる。撮影、と呟いて水輝は部屋を見回した。もしかして由梨佳はそういう特殊なプレイが好きだから金を積んだのだろうか。
「いや。聞いてねえな。もしかして後で観るのが好きなのか? まあ、おれの方は撮られて困るようなことは何もねえけど」
とりあえず来れば、と笑って水輝はベッドに近づいた。靴を放り出してベッドに乗る。ここに来て怖くなったのか、由梨佳はやっぱり戸惑うような視線をあちこちに投げかけているだけで、ベッドに近づいて来ない。
「心配しなくても、由梨佳さんの趣味は漏らさねえよ。安心しな。だから仕事として依頼したんだろ?」
それにこの程度の趣味なら、気にならない。そう付け足して水輝は手招きをした。
「池田くんが構わないなら問題ないけど……」
紫さんてば、最近どうかしてるわ。呟きに近いその言葉を聞いて水輝はぴくりと眉を上げた。紫、というのは水輝を拾った張本人の名前だ。その名前以外のことを水輝は殆ど知らない。
「そうなのか? おれはこの前会ったばかりだからな。奴のことはよく知らねえけど」
ここで何で他の女の名前が出てくるのか理解に苦しむ。水輝はため息を吐いて頭をかきながら軽く俯いた。
「で? やるの? やんねえの?」
紫については知る必要もなかったから、何も訊いていない。単なる上司だ。それにこういう場面で聞きたい名前でもない。うんざりした気持ちになり、水輝は少し険しい顔で由梨佳を見やった。それまで難しい顔をしていた由梨佳が慌てたように頭を下げる。
「ごめんなさい。よろしくお願いします」
そう言って寄ってきた由梨佳の腕を引き、水輝は自分から由梨佳を膝に抱え上げた。手早く由梨佳の靴を脱がせて足を撫でる。
「もしかして教室の方が燃える? ……へえ。綺麗だな」
膝下まであるスカートの裾を少しめくると真っ白な足が覗く。水輝は由梨佳が緊張しないように背中を優しく撫でつつ、白い足を撫でた。スカートで隠れているのがもったいないくらいに白く綺麗な足だ。
「触れた感触はどう?」
自分からスカートをめくって由梨佳が言う。太腿まで露わにされたことに驚き、水輝は笑って答えた。
「脱毛とか熱心なタイプ? びっくりするくらい滑らかだな。吸い付くっていうか」
そう言って水輝は由梨佳のふくらはぎから太腿を撫でてみた。これまで何人も女を抱いたが、ここまで綺麗な肌は滅多にみない。
「でも乾いてるんだな。こんな風に指が滑るのって、肌がかなり潤ってる時くらいなんだが」
素直な感想を述べつつ、水輝は由梨佳の長い髪を指に絡めた。髪も随分と指通りがよく、滑らかで肌触りが良い。
「池田くん的には好み?」
撫でた肌が微かに震える。水輝は目を細めて由梨佳の様子を伺った。さっきまで顔に張り付いていた生真面目な表情が少し崩れている。息も若干、乱れているだろうか。
「ああ。粗いよりは滑らかな方が好きだな。髪も柔らかくて指に吸い付いてくる感じで」
由梨佳がどんな風に崩れて乱れるのか見たい。そのためには出来るだけ焦らしてやる必要がありそうだ。背中と髪を撫でる手に少し力を込め、じりじりと由梨佳を抱き寄せながら水輝は足に這わせた手をずらした。太腿からふくらはぎに滑らせた指を靴下の中に入れると、由梨佳が目を見張って身を竦める。
「靴下、履いたままの方が良いか? それとも脱がせる?」
靴下を留めるゴムに沿って指を這わせてみる。ぴったりと肌に食い込んでいた靴下の中はふくらはぎより少し熱い。
「池田くんの好きなようにして……」
「じゃ、このままで」
水輝の指の動きに感じているのか、由梨佳の顔からは生真面目な表情が薄れつつある。水輝は靴下の中で蠢かしていた指をゆっくりとずらし、由梨佳の手のひらと指を使って撫で回した。髪と背を撫でていた手に由梨佳がもたれかかってくる。
「不感症って訳じゃねえみたいだし、何でわざわざこんなことを? それともこういう変な密室で撮影される趣味だから? でも正直に言えば彼氏もこの程度なら平気だと思うけど?」
まあ、よっぽどデリケートな奴なら知らんが。そう続けて水輝は由梨佳の耳元に唇を寄せた。すっかり脱力して水輝の腕にもたれていた由梨佳が驚いたように身を竦める。そんな由梨佳をしっかりと抱え、水輝は由梨佳の耳朶を軽く噛んだ。吐息を感じるのか、水輝が息を吐くたびに由梨佳が小さな声を上げて身を強ばらせる。
「理由は、もう少ししたら話せるから、今は待って……。あっ……」
掠れた声を漏らして由梨佳が身を捩る。そこを狙って水輝は由梨佳の首筋に唇を落とした。由梨佳の首も足と同じようにとても滑らかで触り心地が良い。舌先で首筋を舐めつつ、水輝は腕に力をこめて由梨佳を抱き寄せた。仰け反るような格好になった由梨佳の片足を抱え、足を開いて跨がらせる。その瞬間、由梨佳がびくっと身を竦めた。
「まさかと思うけど、初めてじゃねえよな?」
ちょっとしたことで過敏に反応する様を眺め、水輝は笑い混じりに訊ねた。耳許で囁くように言われたせいか、由梨佳がまた身を竦める。
「あの……その……」
水輝の質問に困っているのか、由梨佳が言葉を濁す。まあ、そんなことないか、と苦笑して水輝は由梨佳の首筋に吸い付いた。由梨佳ほどの美人なら、男に苦労はしていないはずだ。だがこれまで誰にもこの不思議な趣味のことを言えなかったのではないだろうか。
まあ、普通は引くよな。撮影されているこの部屋のことを思い出して水輝は内心でそう呟いた。病室のような部屋、どこまでも作り物っぽい調度品、それに撮影されているとくれば、その手の趣味がなければ萎えても仕方ないかも知れない。
だからおれなのか。水輝はそんなことを思いながら由梨佳の腿を撫で回し、ショーツにくるまれた尻に指を這わせた。
「あれ? もしかしてスポーツとかやってんのか?」
意外な硬さに驚いて水輝は顔を上げた。由梨佳の尻は腿やふくらはぎとは異なり、やけに張っている。普通は柔らかな丸みを感じるものだが、手に感じているのは意外な硬さだ。水輝は不思議に感じつつ由梨佳の尻を遠慮無しに撫で回した。
「スポーツはあまりやらないわ」
「そうなのか? それにしては」
硬いような、と呟いて水輝は何気なく目を上げた。いつの間にか由梨佳が不安そうな表情になっている。もしかしたらコンプレックスがあるのだろうか。水輝は困ったように笑って由梨佳の尻を撫でていた手を離した。
「ちょっと硬いかな、と思ったんだが。腿とふくらはぎに筋肉がそんなについてないような気がしたから意外だったというか」
もしも太腿とふくらはぎにもそれなりに筋肉があれば、さほど疑問を覚えなかったかも知れない。そんなことを言いながら水輝は改めて由梨佳の腿を撫でた。確認するように指を食い込ませてみる。だがやっぱり由梨佳の腿は柔らかく、筋肉質ではない。
「おれはどっちかというと、柔らかいのが好きなんだが」
それにしてもどういう鍛え方をすればこんな風になるのだろう。水輝は不思議に感じつつも由梨佳の腿と尻をしつこく撫でた。ショーツに包まれた尻の方は腿やふくらはぎとは違った弾力があり、指をすぐに押し返してくる。
「ん……」
「まあいっか。足は好みだし、それに胸も」
服の上からでもはっきりと判る、豊かな胸に水輝は顔を埋めてみた。二つの膨らみの間に埋めた頭を揺すって服越しに乳房に頬ずりする。
「サイズはD? この感触だとEか?」
どうやら由梨佳は着やせするタイプのようだ。思った以上のバストのボリュームに気をよくして、水輝は何度も頬ずりをしてみた。もちろん手では足もしっかりと撫で回している。
「あっ! 正解、Eカップよ」
小さな声を上げつつも、由梨佳が律儀に返事をする。へえ、と笑って水輝は服越しに胸の弾力を確かめた。顔を埋めた時の感触は柔らかくて悪くない。頬ずりをするたびに揺れるところも好みだ。
だが何故だろう。違和感があるような気がする。由梨佳の胸を頬ずりしつつ、水輝は注意深く感触を確かめた。そして気付く。
「え? もしかして由梨佳さん、ブラジャー着けてねえの?」
違和感の正体は、服の上からでもはっきりと判るほどに浮き出た乳首だった。乳房の中央に左右に一つずつ、ぽっちりと乳首が浮いている。それが頬に擦れたために妙な感じがしたのだ。
「いいえ。着けてるわ」
「へえー」
好奇心をそそられ、水輝は服の上に浮き出た乳首を口に含んでみた。甘噛みすると由梨佳が小さな悲鳴を上げて身を震わせる。だが口に含んでみて判ったが、乳首のサイズそのものはそれほど大きくない。どうやら通常の女性より乳首が出る、はっきり言えば勃起しやすい性質らしい。
「おもしれえ」
唇と歯で弄くってから、水輝は呟くように言った。これまで抱いてきた女とはどこかが違う。性的な欲求というよりは好奇心を刺激され、水輝は由梨佳のスカートを大胆にめくって両足を露わにした。
真っ白な太腿が目映い。腿を舐めるように見つめた後、由梨佳の股間を包むショーツに目をやって水輝は少し笑った。
「ひょっとして感じてない? 濡れてるかと思ったけど」
どうせセックスしてくれという依頼なのだ。遠慮は要らないだろう。そう考えて水輝は由梨佳のショーツに手をやった。触れるとはっきりと判る。由梨佳のショーツはどこも汚れていない。薄く小さな布の上から弄っていた水輝は、違和感を覚えて手を止めた。
「大丈夫……、感じてるわ。あっ……ああっ!」
「あれ、なんだ、これ」
予想していたのとはかなり違う手触りに訝りを覚え、水輝は由梨佳の股間を無遠慮に弄り回した。ここがクリトリスでここが膣口、でもってここがアナルだよな、とぶつぶつと口の中で呟きながら由梨佳のショーツの上で指を動かす。
「んー?」
ショーツの上からでも女性器は触り慣れている。多少の形の違いはあっても、布越しになら手触りはそれほど違わない。なのに由梨佳のそれはあきらかに他の誰とも違っていた。
まずクリトリスの形がおかしい。中にはやけに大きなサイズのものもあるが、普通はこんな風に尖っていないし、指で押しただけで簡単に引っ込んだりしない。指の腹で潰すように押すことは出来るが、この手応えだと潰れるというよりは引っ込んでいるような気がする。
「なあ、これ、クリだよな?」
もしかして由梨佳は特異な体質なのだろうか。そんな不安に駆られて水輝は尖ったそれをショーツの上からつまんで捻ってみた。
「んっ! ふっ! ああああんっ!」
高い声を上げて由梨佳が仰け反る。試しに弄ってみたつもりだった水輝は由梨佳の反応に驚き、思わず手を止めた。
「あ、ごめん」
ついつい謝ってしまう。謝ってしまってから水輝は自分の言ったことに首を傾げた。別に謝る必要はないような気がする。それに由梨佳の方は感じているのだから問題ないのではないか。そう思い直して水輝は改めて指の間に挟んでいたそれを弄り回した。
「なーんか……ボールペンの先みたいな……これとかどうよ?」
くるくると指の間でそれを回した後、先端部分を指の腹で弄くってみる。ここもショーツに隠れていて判らなかったが、どうやら乳首と同じように下から布を持ち上げるほど隆起しているようだ。
「あっ、ああっんっ! んっふぅぅ!」
由梨佳の声に徐々に艶が乗ってくる。どうやらこれでも感じているらしい。そう気付いた水輝は面白半分に由梨佳のショーツを弄り回した。隆起したペン先のような部分を指の腹でぐっと押し込み、その下にあるはずの穴を探ってみる。
「おかしいな。普通ならもう少し指に当たるんだけど」
片腕に由梨佳の腰を抱き、片手でショーツを弄りつつ、水輝は笑い混じりに囁きかけた。由梨佳の膣口を探してみるが、それらしいものが見つからない。だが由梨佳の方は水輝がちょっと手を動かすだけでも面白いくらいに反応する。布越しに弄られてかなり感じているようだ。
「あっ、んっ! ああぁんっ!」
指の動きに合わせて悶えていた由梨佳が潤んだ目で水輝を見つめる。感じてはいるようだが、どこか切ないものを思わせる視線に水輝は疑問を覚えた。
「もしかして弄られるのが嫌なのか? それとも、おれが相手じゃ不足か?」
どうやら由梨佳の女性器は普通の女性のそれとはかなり形が違うらしい。そのことは判る。もしかして由梨佳は自分の好きな男が別にいるのではないだろうか。だがこの身体のせいでそのことを告白出来ずにいるのだとしたら。
そこまで考えてから水輝はやめやめ、と首を振った。これは仕事だ。由梨佳は知らないだろうが、水輝はこの仕事で相手をやり壊してもいいとまで言われている。
「まあ、諦めろ。おれは仕事、あんたも何か事情があってこんなことやってんだろ?」
中途半端に同情されてもつまんねえだろ、と笑って水輝はショーツの上で指を動かし、由梨佳の膣口を探した。ペン先のように尖った部分から指を離してはまた押さえる。何度かそれを繰り返しているうちに、水輝は指の先に引っかかる部分を見つけた。
「あー……。めくれて中に入ってたのか」
多分、周囲にある小陰唇が内側に折れ曲がっていたために、膣口が塞がれていたのだろう。そう思いながら水輝は指先に感じた微かなへこみを押し広げるようにショーツを弄った。
「んふうっ! 池田……くん、気を遣わせて……ごめんなさい」
「いや、別に。それよりほら。これでどうだ?」
やっと見つけたへこみに指をねじ込みながら水輝は薄く笑った。布越しに乱暴に指をねじ込まれるとは思っていなかったのか、抱かれた腰を震わせて由梨佳が仰け反る。
「これでもまだ濡れないんだなー。フツーはこれでいけるんだが」
指を捻って抉るように穴に入れてはみるものの、やっぱりショーツは乾ききったままだ。水輝は疑問に首を捻りつつもショーツ越しに由梨佳の女性器を弄り回した。ペン先のように尖ったクリトリスを指の腹で押して倒すように弄る。
「んっ! ごめん……なさい」
か細い声で謝った由梨佳が胸に手をやり、服を下から押し上げている乳首を弄る。水輝はいきなり自慰を始めた由梨佳を驚きの眼差しで見た。
もしかして自分じゃないと感じないとかそういう? そう口にする前に、ショーツに触れていた指に生温いものを感じて水輝は目を見張った。
「やっぱ、もしかしてオナった方が効率いいとかそういう?」
どうやら由梨佳は自分で乳首を弄って感じたらしい。さっきまで乾ききっていたショーツが一気に濡れてしまった。水輝はショーツから手を離して自分の指と由梨佳を見比べた。
「いえ! そんな事は全然無いわ。ごめんなさい」
慌てたように謝った由梨佳が泣きそうな顔になる。いやいや、と苦笑して水輝は由梨佳の腰を抱き直し、背中を撫でてやった。
「別にいいって。たまにだけど、由梨佳さんみたいにオナった方が気持ち良いって奴もいるからな。あとはオナってるとこを見られると気持ち良いって奴? どっちにしろ、そういう趣味がない野郎は引くから、こっそりした方がいいと思うぜ」
そう言ってから水輝は自分の説明に疑問を覚えた。別にここでわざわざ由梨佳のフォローをする必要はなかったような気がする。これはあくまでも仕事で、由梨佳を落とすのが目的ではない。ついいつもの癖が出てしまったらしい。水輝は自分の性癖に内心呆れつつ、苦笑いして由梨佳の頭をよしよしと撫でてみた。
「じ、自慰なら、毎日四六時中してるの! それで、収まるなら何の問題も無かったはずなの。でも……」
恥ずかしそうにしつつも由梨佳が爆弾発言をする。はい? と訊き返しそうになった水輝は由梨佳の表情を見て押し黙った。まるで何かに縋るような眼差しをしている。
「要するにあれか。オナっても足りねえから、やりたいと。そういう理解でいいか?」
多分、さっきの由梨佳の発言には他にどんな意味もないだろう。そうは思ったが水輝は一応、確認の意味を込めて真顔で訊ねた。笑い飛ばして恥ずかしさに泣きじゃくる相手を強引に押し倒してもいいのだが、何故か今はそんな気になれない。
なんだかなー。水輝は頭をかいてため息を吐いた。仕事と言われた意味が少し判るような気がする。こういう状況で由梨佳を抱くのはちょっと難しい男もいるだろう。自分から自慰をしまくっていると白状するような女性が好みのタイプならもってこいだが、残念ながらそんな性分の女を好きな男ばかりではない。もっと言えば、初対面でそんなことを言われたらどん引きする奴もいるだろう。
ふと、何かに気付いたように目を見張った由梨佳が言う。
「もし、池田くんの気分が萎えて抱けなくなったなら、そこまでで終了で構わないから。この条件も聞いてるわよね?」
「聞いてる。けど、おれってちょっと変わってるらしくてさ。気分的にはどれだけ萎えてても、やるのは可能なんだよ。それにおれとやると、女の方はどういう訳かかなり気持ちいいらしい」
どれだけぞんざいに扱っても、適当にあしらっても快感を得られるというか、むしろ一度抱いてしまうと際限なく求められるようになってしまうことが多い。これまで抱いた女のことを思い出して水輝はうんざりした気持ちになった。
「よーするに、おれのコレはやろうと思えば使用可能になるし、どんだけ女に飢えてても大人しくさせとくことが可能なわけ。ちょっとした特技かな」
説明しつつ水輝は自分の股間を指さしてみせた。由梨佳が戸惑うような視線で水輝の手元を覗き込む。水輝は無造作に由梨佳の手をつかみ、股間にあてがわせた。水輝が意識するとそれまで何ともなかった股間のモノが由梨佳の手の中で頭をもたげる。
「ほら、な?」
「すごい……。大きいのね」
驚くかと思ったら、意外にも由梨佳は物珍しそうな顔でまじまじと水輝の股間を見下ろしている。まだ脱いでもいないのにこんな反応をするということは、出したら一体どうなるのだろうか。ズボンの中で大きくなったものを感心したように見下ろす由梨佳にため息を吐き、水輝は首を振った。
「いや、サイズは割とどーでも良くて。つーか、由梨佳さん、今は何にも感じてねえの?」
さっきまで喘いでいたとは思えないほど由梨佳は冷静に見える。だがスカートがめくれたままで丸見えになっているショーツはぐっしょりと濡れたままだ。
それまで物珍しげに水輝の股間に触れていた由梨佳が身を起こし、自分の胸元と股間を見下ろす。その仕草はどう見ても恥ずかしがっているようには思えない。由梨佳は恥ずかしがっているというよりは、どちらかといえば観察者の目をしているように見える。
「今は愛撫を受けていないから快感を感じてはいないけど、まだ、かなり興奮してる状態ね」
「それって見て判断したわけ? 乳首とクリ?」
遠回しに訊くのも面倒だ、と水輝はストレートに思ったままに訊ねた。すると少し困ったような顔をして由梨佳が首を傾げる。
「そうよ」
由梨佳は何かを考えるような表情をしている。やれやれ、と苦笑して水輝は由梨佳の後頭部に手を回して引き寄せた。素早く唇を塞ぐと由梨佳が口の中で呻きのような声を漏らす。水輝はそのまま唇を舌でこじ開け、強引に由梨佳の口の中に舌を差し込んだ。
ほんのりと柑橘系の香りがする。これはひょっとして柚子だろうか。由梨佳と口づけしながら水輝はそんなことを考えた。何故かは判らないが由梨佳の口の中からその香りがするのだ。
「柚子味? ちょっ、おもしれえ。リップクリームか? それにしたってこんな風に味がついて……え?」
唇の端に残った唾液を舐めて水輝は言葉を切った。おかしい。由梨佳のリップクリームに柚子の香料が使ってあるだけなら、こんな風に唾液までに味はつかない。水輝はもっかい、と呟いて有無を言わせず由梨佳の唇を塞いだ。
舌を由梨佳の口に突っ込んで唾液を啜るように舐める。やっぱりそうだ。由梨佳の唇にリップクリームがついている訳ではない。唾液そのものが柚子の香りを漂わせているのだ。水輝はキスをしつつ目を細め、今度はゆっくりと由梨佳の舌を舐った。最初は強ばっていた由梨佳の身体から少しずつ力が抜けていく。水輝はしっかりと由梨佳の背を支えて顔を上げた。
「今の、気持ち良かったか?」
吐息がかかる距離まで顔を寄せて水輝は訊ねた。こうして間近に見るとはっきりと判る。由梨佳の頬や顎、額の部分の肌も足と同じように白く滑らかだ。きめの細かい肌のことをシルクのようなと表現することがあるが、由梨佳のそれはまさに絹の手触りだ。
「とっても……」
頷いた由梨佳がうっとりとした表情で吐息をつき、自分からスカートを持ち上げてみせる。
「ほら、ここも」
由梨佳のショーツはぐしょ濡れになっていて、水輝のズボンに染みこんでいた。水輝は苦笑して由梨佳の股間に布越しに触れた。キスをしながら濡れたショーツを弄る。じっとりと染みこんだものを指ですくい取り、水輝はそれを口に運んだ。濡れた指にも柚子の香りがついている。
水輝は由梨佳の耳許に唇を寄せてごく小さな声で囁いた。
「……ぎりぎり、服着てペッティングまでだな。それ以上やるとばれるぜ」
ソファにもたれていた水輝の目の前を塞ぐように立っているのは、一人の綺麗な女性だった。目を上げてそのことを確認した水輝は思わず口笛を吹いた。そんなことをしている間に、その女性が水輝から取り上げた煙草の火を灰皿の中で押しつぶす。
女性が身に着けているブルーグレイの制服はよく知っている。臙脂色のネクタイ、真っ白なシャツ、ベストとスカート、そしてジャケットの制服は、この忌々しい白い部屋がある研究所の所在地である、市立清陵高等学校のものだ。
長い髪を背に払い、制服に身を包んだ女性が折り目正しく礼をする。
「初めまして。池田水輝さんね? 私は宇田川由梨佳といいます」
見た目から受ける印象通りに生真面目に挨拶をした由梨佳に頷いて、水輝は立ち上がった。どうやら由梨佳の方も話は聞いているらしい。というよりは由梨佳が仕事の依頼主、ということになるのだろうか。
「どーも。で? 由梨佳さん、だっけ? 本当にいいのか?」
何が、とはわざと言わなかった。色んな意味を含めた問いかけだった。例えば相手が自分でいいのかどうか。こっちは仕事ということで請けた話だがいいのかどうか。それと最後に加減しなくていいのかどうか、だ。
何もすることがなく、ぼんやりとしていた日々が変わったのはつい先日のことだった。ふとしたことで、とある人物に拾われた水輝は『働かざる者食うべからず』と言われ、仕事を任されることとなった。これがその初仕事なのだ。
仕事の内容は至って簡単だった。ある女性とセックスをする。それだけだ。だがだからこそ水輝は気になった。依頼主は一体、どういうつもりでこんな仕事を頼んだのだろうか。男日照りで困っている暇を持て余したマダムなのだろうか。そんなことまで考えた。
だが今、現実に目の前に立っているのは、高校生にしか見えない由梨佳だ。
「構わないわ。どうしても、必要な事だから」
気丈な態度が少し揺らぎ、憂鬱そうな表情が覗く。だが由梨佳はその表情をすぐに消してしまった。
「あなたの方こそ本当に構わないの? かなりハードな仕事になるのは聞いているのでしょう?」
「ハード、ねえ。セックスは嫌いじゃないというか、むしろ好きだから問題は」
そこまで答えてから水輝は眉を寄せて口許を手で覆い、考え込むような仕草をした。すぐに由梨佳が心配そうな表情を見せる。
「もし、問題点があるなら先に指摘してちょうだい。可能な限りあなたが快適に仕事ができるように、私も気をつけるから」
面白い。水輝は由梨佳の反応をそう感じていた。たかがセックスひとつにここまで生真面目に取り組めるものだろうか。水輝はくすりと笑って口許を覆っていた手を離した。
「ま、一番の問題はやれるかどうかなんだが、その辺は割と自由に出来るっていうか」
目の前に立つ由梨佳には状況がよく判っていないのだろう。不思議そうな顔をしている。水輝は由梨佳のあごに指をかけ、まじまじと顔を見つめた。続いて服の上から由梨佳の体型をチェックする。モデルと言われても納得してしまう程度には由梨佳の顔立ちやスタイルは整っていた。
「事前に訊いておきたいのは、相手はおれでいい訳? でもってこれ、仕事なんだが、構わないのか? ついでに、手加減出来るかどうか判らないんだが、どうなんだ? ってことだな」
まさかセックスの前にこんな質問をする日が来るとは思わなかった。笑い出したい気持ちになりつつも、水輝は一応、真顔で訊ねた。ここで吹き出してしまったら、自分の方が萎えてしまいそうだ。
「お仕事として、きちんとこなしてもらわないと私たちの方が困るわ。あと、とりあえず、少なくとも最初の行為では、池田さんの自由にしてもらわないといけないの」
真顔で訊ねたからだろうか。由梨佳からはやけに固い口調で言葉が返ってきた。どうやら洒落や冗談を言っているつもりはないようで、由梨佳の生真面目な表情は崩れない。なるほど、と呟いて水輝は頭をかいた。
「つまりおれが勝手にやっていいと。そういうことか?」
水輝は再確認のためにそう訊ねた。仕事の内容がセックスをすることなのだから、きちんとするも何も、要するに行為に至れば問題はない訳だ。だが由梨佳が言った『自由に』というのが気に掛かる。
だが多分、訊くまでもなかったことなのだろう。当然という表情で由梨佳が頷く。言っていることと姿のギャップがあることに気付いていないのだろうか。清陵高等学校といえば市のど真ん中に位置する、学園都市の中心になっているところだ。通いたいという生徒は後を絶たず、受験時の倍率はもの凄いことになっていると噂に聞いた。
そんなところに通う生徒が、真顔で、しかも仕事としてセックスしろと言っているのだ。これで驚かなかったらそっちの方がおかしい。水輝はこみ上げてくる笑いを必死に堪え、横を向いて口許を押さえた。
由梨佳がどうしようもないほど不細工なら判らなくもない。金を積んででも事に至りたいという願望がある可能性も大いにある。少なくとも水輝が請け負った仕事は外部に情報を漏らしてはいけないという大原則があり、当然のことながら、由梨佳との行為についても当の二人以外にはエージェントを統括する人物にしか情報は渡らない。だからそれなりの金を積めば、体験したい、という希望は秘密裏に叶えられる。
だが目の前にいる由梨佳は、美人でスタイルもいい。この容姿だけでも何人もの男子生徒が彼氏として立候補しそうだ。男に不自由しているとは到底思えない。水輝は由梨佳の抱えるギャップのおかしさに笑いがこみ上げてくるのを懸命に堪えた。
「そして、池田さんは、私が物理的に可能な事なら、どんな事を指示してもいいの」
どうしたらそれだけ真面目でいられるのだろう。そんな質問をしたくなるほどに由梨佳は真顔で、だから水輝は笑いを堪えられずに思わず吹き出してしまった。まさか笑われるとは思っていなかったのか、由梨佳が怪訝そうな表情になる。
「いや、悪い。物理的に可能とか言われてもピンとこねえんだよ。ストレートにどんな体位でもOKって言われた方が判りやすいんだが?」
つまりはそういうことだろ、と続けて水輝は笑いを堪えすぎて目尻に浮かんだ涙を袖で拭った。あー、苦しい、と呟いてジャケットを脱いでソファに放り投げる。
「だから、どんな体位でもと言っても、あまりにアクロバティックなポーズだと無理でしょう?」
何故だろう。少しだけ由梨佳がほっとしているような気がする。首を締めていたネクタイを緩め、シャツのボタンを一つ外したところで水輝は不思議に感じて首を傾げた。
「まあ、あんまり無茶な注文はしねえよ。おれもそういう意味で壊す趣味はねえし。股関節脱臼で救急車が来られても困るだろ」
ただ、こんなとこでやりたいっていう気持ちは判らんがな、と付け足して水輝はネクタイの結び目に指を入れた。どうしてわざわざ高校の制服を着せられたのかと思っていたが理由はこれではっきり判った。この研究所とやらに入る時に学内の生徒や教師に疑われないためだろう。そしてこの格好なら仕事を終えても誰にも疑われることもないまま、学校から出ることが出来る。水輝は由梨佳とお揃いのネクタイを解いて放り投げた。
この部屋にはソファとテーブルの他にはクイーンサイズのベッドが一台設えてあるだけだ。部屋の隅には人形などの調度品が申し訳程度に置かれているが、それ以外には何もない。ドアを開けたら真っ白で飾りも何もない廊下があり、他にはここと同じような部屋が幾つかあるだけだ。
「私が……その、そうね、怪我、するような事があっても、慌てて救急車を呼んだりするのはダメよ。行為が全て撮影される事は、聞いているわよね?」
由梨佳が少し戸惑うように視線を泳がせる。撮影、と呟いて水輝は部屋を見回した。もしかして由梨佳はそういう特殊なプレイが好きだから金を積んだのだろうか。
「いや。聞いてねえな。もしかして後で観るのが好きなのか? まあ、おれの方は撮られて困るようなことは何もねえけど」
とりあえず来れば、と笑って水輝はベッドに近づいた。靴を放り出してベッドに乗る。ここに来て怖くなったのか、由梨佳はやっぱり戸惑うような視線をあちこちに投げかけているだけで、ベッドに近づいて来ない。
「心配しなくても、由梨佳さんの趣味は漏らさねえよ。安心しな。だから仕事として依頼したんだろ?」
それにこの程度の趣味なら、気にならない。そう付け足して水輝は手招きをした。
「池田くんが構わないなら問題ないけど……」
紫さんてば、最近どうかしてるわ。呟きに近いその言葉を聞いて水輝はぴくりと眉を上げた。紫、というのは水輝を拾った張本人の名前だ。その名前以外のことを水輝は殆ど知らない。
「そうなのか? おれはこの前会ったばかりだからな。奴のことはよく知らねえけど」
ここで何で他の女の名前が出てくるのか理解に苦しむ。水輝はため息を吐いて頭をかきながら軽く俯いた。
「で? やるの? やんねえの?」
紫については知る必要もなかったから、何も訊いていない。単なる上司だ。それにこういう場面で聞きたい名前でもない。うんざりした気持ちになり、水輝は少し険しい顔で由梨佳を見やった。それまで難しい顔をしていた由梨佳が慌てたように頭を下げる。
「ごめんなさい。よろしくお願いします」
そう言って寄ってきた由梨佳の腕を引き、水輝は自分から由梨佳を膝に抱え上げた。手早く由梨佳の靴を脱がせて足を撫でる。
「もしかして教室の方が燃える? ……へえ。綺麗だな」
膝下まであるスカートの裾を少しめくると真っ白な足が覗く。水輝は由梨佳が緊張しないように背中を優しく撫でつつ、白い足を撫でた。スカートで隠れているのがもったいないくらいに白く綺麗な足だ。
「触れた感触はどう?」
自分からスカートをめくって由梨佳が言う。太腿まで露わにされたことに驚き、水輝は笑って答えた。
「脱毛とか熱心なタイプ? びっくりするくらい滑らかだな。吸い付くっていうか」
そう言って水輝は由梨佳のふくらはぎから太腿を撫でてみた。これまで何人も女を抱いたが、ここまで綺麗な肌は滅多にみない。
「でも乾いてるんだな。こんな風に指が滑るのって、肌がかなり潤ってる時くらいなんだが」
素直な感想を述べつつ、水輝は由梨佳の長い髪を指に絡めた。髪も随分と指通りがよく、滑らかで肌触りが良い。
「池田くん的には好み?」
撫でた肌が微かに震える。水輝は目を細めて由梨佳の様子を伺った。さっきまで顔に張り付いていた生真面目な表情が少し崩れている。息も若干、乱れているだろうか。
「ああ。粗いよりは滑らかな方が好きだな。髪も柔らかくて指に吸い付いてくる感じで」
由梨佳がどんな風に崩れて乱れるのか見たい。そのためには出来るだけ焦らしてやる必要がありそうだ。背中と髪を撫でる手に少し力を込め、じりじりと由梨佳を抱き寄せながら水輝は足に這わせた手をずらした。太腿からふくらはぎに滑らせた指を靴下の中に入れると、由梨佳が目を見張って身を竦める。
「靴下、履いたままの方が良いか? それとも脱がせる?」
靴下を留めるゴムに沿って指を這わせてみる。ぴったりと肌に食い込んでいた靴下の中はふくらはぎより少し熱い。
「池田くんの好きなようにして……」
「じゃ、このままで」
水輝の指の動きに感じているのか、由梨佳の顔からは生真面目な表情が薄れつつある。水輝は靴下の中で蠢かしていた指をゆっくりとずらし、由梨佳の手のひらと指を使って撫で回した。髪と背を撫でていた手に由梨佳がもたれかかってくる。
「不感症って訳じゃねえみたいだし、何でわざわざこんなことを? それともこういう変な密室で撮影される趣味だから? でも正直に言えば彼氏もこの程度なら平気だと思うけど?」
まあ、よっぽどデリケートな奴なら知らんが。そう続けて水輝は由梨佳の耳元に唇を寄せた。すっかり脱力して水輝の腕にもたれていた由梨佳が驚いたように身を竦める。そんな由梨佳をしっかりと抱え、水輝は由梨佳の耳朶を軽く噛んだ。吐息を感じるのか、水輝が息を吐くたびに由梨佳が小さな声を上げて身を強ばらせる。
「理由は、もう少ししたら話せるから、今は待って……。あっ……」
掠れた声を漏らして由梨佳が身を捩る。そこを狙って水輝は由梨佳の首筋に唇を落とした。由梨佳の首も足と同じようにとても滑らかで触り心地が良い。舌先で首筋を舐めつつ、水輝は腕に力をこめて由梨佳を抱き寄せた。仰け反るような格好になった由梨佳の片足を抱え、足を開いて跨がらせる。その瞬間、由梨佳がびくっと身を竦めた。
「まさかと思うけど、初めてじゃねえよな?」
ちょっとしたことで過敏に反応する様を眺め、水輝は笑い混じりに訊ねた。耳許で囁くように言われたせいか、由梨佳がまた身を竦める。
「あの……その……」
水輝の質問に困っているのか、由梨佳が言葉を濁す。まあ、そんなことないか、と苦笑して水輝は由梨佳の首筋に吸い付いた。由梨佳ほどの美人なら、男に苦労はしていないはずだ。だがこれまで誰にもこの不思議な趣味のことを言えなかったのではないだろうか。
まあ、普通は引くよな。撮影されているこの部屋のことを思い出して水輝は内心でそう呟いた。病室のような部屋、どこまでも作り物っぽい調度品、それに撮影されているとくれば、その手の趣味がなければ萎えても仕方ないかも知れない。
だからおれなのか。水輝はそんなことを思いながら由梨佳の腿を撫で回し、ショーツにくるまれた尻に指を這わせた。
「あれ? もしかしてスポーツとかやってんのか?」
意外な硬さに驚いて水輝は顔を上げた。由梨佳の尻は腿やふくらはぎとは異なり、やけに張っている。普通は柔らかな丸みを感じるものだが、手に感じているのは意外な硬さだ。水輝は不思議に感じつつ由梨佳の尻を遠慮無しに撫で回した。
「スポーツはあまりやらないわ」
「そうなのか? それにしては」
硬いような、と呟いて水輝は何気なく目を上げた。いつの間にか由梨佳が不安そうな表情になっている。もしかしたらコンプレックスがあるのだろうか。水輝は困ったように笑って由梨佳の尻を撫でていた手を離した。
「ちょっと硬いかな、と思ったんだが。腿とふくらはぎに筋肉がそんなについてないような気がしたから意外だったというか」
もしも太腿とふくらはぎにもそれなりに筋肉があれば、さほど疑問を覚えなかったかも知れない。そんなことを言いながら水輝は改めて由梨佳の腿を撫でた。確認するように指を食い込ませてみる。だがやっぱり由梨佳の腿は柔らかく、筋肉質ではない。
「おれはどっちかというと、柔らかいのが好きなんだが」
それにしてもどういう鍛え方をすればこんな風になるのだろう。水輝は不思議に感じつつも由梨佳の腿と尻をしつこく撫でた。ショーツに包まれた尻の方は腿やふくらはぎとは違った弾力があり、指をすぐに押し返してくる。
「ん……」
「まあいっか。足は好みだし、それに胸も」
服の上からでもはっきりと判る、豊かな胸に水輝は顔を埋めてみた。二つの膨らみの間に埋めた頭を揺すって服越しに乳房に頬ずりする。
「サイズはD? この感触だとEか?」
どうやら由梨佳は着やせするタイプのようだ。思った以上のバストのボリュームに気をよくして、水輝は何度も頬ずりをしてみた。もちろん手では足もしっかりと撫で回している。
「あっ! 正解、Eカップよ」
小さな声を上げつつも、由梨佳が律儀に返事をする。へえ、と笑って水輝は服越しに胸の弾力を確かめた。顔を埋めた時の感触は柔らかくて悪くない。頬ずりをするたびに揺れるところも好みだ。
だが何故だろう。違和感があるような気がする。由梨佳の胸を頬ずりしつつ、水輝は注意深く感触を確かめた。そして気付く。
「え? もしかして由梨佳さん、ブラジャー着けてねえの?」
違和感の正体は、服の上からでもはっきりと判るほどに浮き出た乳首だった。乳房の中央に左右に一つずつ、ぽっちりと乳首が浮いている。それが頬に擦れたために妙な感じがしたのだ。
「いいえ。着けてるわ」
「へえー」
好奇心をそそられ、水輝は服の上に浮き出た乳首を口に含んでみた。甘噛みすると由梨佳が小さな悲鳴を上げて身を震わせる。だが口に含んでみて判ったが、乳首のサイズそのものはそれほど大きくない。どうやら通常の女性より乳首が出る、はっきり言えば勃起しやすい性質らしい。
「おもしれえ」
唇と歯で弄くってから、水輝は呟くように言った。これまで抱いてきた女とはどこかが違う。性的な欲求というよりは好奇心を刺激され、水輝は由梨佳のスカートを大胆にめくって両足を露わにした。
真っ白な太腿が目映い。腿を舐めるように見つめた後、由梨佳の股間を包むショーツに目をやって水輝は少し笑った。
「ひょっとして感じてない? 濡れてるかと思ったけど」
どうせセックスしてくれという依頼なのだ。遠慮は要らないだろう。そう考えて水輝は由梨佳のショーツに手をやった。触れるとはっきりと判る。由梨佳のショーツはどこも汚れていない。薄く小さな布の上から弄っていた水輝は、違和感を覚えて手を止めた。
「大丈夫……、感じてるわ。あっ……ああっ!」
「あれ、なんだ、これ」
予想していたのとはかなり違う手触りに訝りを覚え、水輝は由梨佳の股間を無遠慮に弄り回した。ここがクリトリスでここが膣口、でもってここがアナルだよな、とぶつぶつと口の中で呟きながら由梨佳のショーツの上で指を動かす。
「んー?」
ショーツの上からでも女性器は触り慣れている。多少の形の違いはあっても、布越しになら手触りはそれほど違わない。なのに由梨佳のそれはあきらかに他の誰とも違っていた。
まずクリトリスの形がおかしい。中にはやけに大きなサイズのものもあるが、普通はこんな風に尖っていないし、指で押しただけで簡単に引っ込んだりしない。指の腹で潰すように押すことは出来るが、この手応えだと潰れるというよりは引っ込んでいるような気がする。
「なあ、これ、クリだよな?」
もしかして由梨佳は特異な体質なのだろうか。そんな不安に駆られて水輝は尖ったそれをショーツの上からつまんで捻ってみた。
「んっ! ふっ! ああああんっ!」
高い声を上げて由梨佳が仰け反る。試しに弄ってみたつもりだった水輝は由梨佳の反応に驚き、思わず手を止めた。
「あ、ごめん」
ついつい謝ってしまう。謝ってしまってから水輝は自分の言ったことに首を傾げた。別に謝る必要はないような気がする。それに由梨佳の方は感じているのだから問題ないのではないか。そう思い直して水輝は改めて指の間に挟んでいたそれを弄り回した。
「なーんか……ボールペンの先みたいな……これとかどうよ?」
くるくると指の間でそれを回した後、先端部分を指の腹で弄くってみる。ここもショーツに隠れていて判らなかったが、どうやら乳首と同じように下から布を持ち上げるほど隆起しているようだ。
「あっ、ああっんっ! んっふぅぅ!」
由梨佳の声に徐々に艶が乗ってくる。どうやらこれでも感じているらしい。そう気付いた水輝は面白半分に由梨佳のショーツを弄り回した。隆起したペン先のような部分を指の腹でぐっと押し込み、その下にあるはずの穴を探ってみる。
「おかしいな。普通ならもう少し指に当たるんだけど」
片腕に由梨佳の腰を抱き、片手でショーツを弄りつつ、水輝は笑い混じりに囁きかけた。由梨佳の膣口を探してみるが、それらしいものが見つからない。だが由梨佳の方は水輝がちょっと手を動かすだけでも面白いくらいに反応する。布越しに弄られてかなり感じているようだ。
「あっ、んっ! ああぁんっ!」
指の動きに合わせて悶えていた由梨佳が潤んだ目で水輝を見つめる。感じてはいるようだが、どこか切ないものを思わせる視線に水輝は疑問を覚えた。
「もしかして弄られるのが嫌なのか? それとも、おれが相手じゃ不足か?」
どうやら由梨佳の女性器は普通の女性のそれとはかなり形が違うらしい。そのことは判る。もしかして由梨佳は自分の好きな男が別にいるのではないだろうか。だがこの身体のせいでそのことを告白出来ずにいるのだとしたら。
そこまで考えてから水輝はやめやめ、と首を振った。これは仕事だ。由梨佳は知らないだろうが、水輝はこの仕事で相手をやり壊してもいいとまで言われている。
「まあ、諦めろ。おれは仕事、あんたも何か事情があってこんなことやってんだろ?」
中途半端に同情されてもつまんねえだろ、と笑って水輝はショーツの上で指を動かし、由梨佳の膣口を探した。ペン先のように尖った部分から指を離してはまた押さえる。何度かそれを繰り返しているうちに、水輝は指の先に引っかかる部分を見つけた。
「あー……。めくれて中に入ってたのか」
多分、周囲にある小陰唇が内側に折れ曲がっていたために、膣口が塞がれていたのだろう。そう思いながら水輝は指先に感じた微かなへこみを押し広げるようにショーツを弄った。
「んふうっ! 池田……くん、気を遣わせて……ごめんなさい」
「いや、別に。それよりほら。これでどうだ?」
やっと見つけたへこみに指をねじ込みながら水輝は薄く笑った。布越しに乱暴に指をねじ込まれるとは思っていなかったのか、抱かれた腰を震わせて由梨佳が仰け反る。
「これでもまだ濡れないんだなー。フツーはこれでいけるんだが」
指を捻って抉るように穴に入れてはみるものの、やっぱりショーツは乾ききったままだ。水輝は疑問に首を捻りつつもショーツ越しに由梨佳の女性器を弄り回した。ペン先のように尖ったクリトリスを指の腹で押して倒すように弄る。
「んっ! ごめん……なさい」
か細い声で謝った由梨佳が胸に手をやり、服を下から押し上げている乳首を弄る。水輝はいきなり自慰を始めた由梨佳を驚きの眼差しで見た。
もしかして自分じゃないと感じないとかそういう? そう口にする前に、ショーツに触れていた指に生温いものを感じて水輝は目を見張った。
「やっぱ、もしかしてオナった方が効率いいとかそういう?」
どうやら由梨佳は自分で乳首を弄って感じたらしい。さっきまで乾ききっていたショーツが一気に濡れてしまった。水輝はショーツから手を離して自分の指と由梨佳を見比べた。
「いえ! そんな事は全然無いわ。ごめんなさい」
慌てたように謝った由梨佳が泣きそうな顔になる。いやいや、と苦笑して水輝は由梨佳の腰を抱き直し、背中を撫でてやった。
「別にいいって。たまにだけど、由梨佳さんみたいにオナった方が気持ち良いって奴もいるからな。あとはオナってるとこを見られると気持ち良いって奴? どっちにしろ、そういう趣味がない野郎は引くから、こっそりした方がいいと思うぜ」
そう言ってから水輝は自分の説明に疑問を覚えた。別にここでわざわざ由梨佳のフォローをする必要はなかったような気がする。これはあくまでも仕事で、由梨佳を落とすのが目的ではない。ついいつもの癖が出てしまったらしい。水輝は自分の性癖に内心呆れつつ、苦笑いして由梨佳の頭をよしよしと撫でてみた。
「じ、自慰なら、毎日四六時中してるの! それで、収まるなら何の問題も無かったはずなの。でも……」
恥ずかしそうにしつつも由梨佳が爆弾発言をする。はい? と訊き返しそうになった水輝は由梨佳の表情を見て押し黙った。まるで何かに縋るような眼差しをしている。
「要するにあれか。オナっても足りねえから、やりたいと。そういう理解でいいか?」
多分、さっきの由梨佳の発言には他にどんな意味もないだろう。そうは思ったが水輝は一応、確認の意味を込めて真顔で訊ねた。笑い飛ばして恥ずかしさに泣きじゃくる相手を強引に押し倒してもいいのだが、何故か今はそんな気になれない。
なんだかなー。水輝は頭をかいてため息を吐いた。仕事と言われた意味が少し判るような気がする。こういう状況で由梨佳を抱くのはちょっと難しい男もいるだろう。自分から自慰をしまくっていると白状するような女性が好みのタイプならもってこいだが、残念ながらそんな性分の女を好きな男ばかりではない。もっと言えば、初対面でそんなことを言われたらどん引きする奴もいるだろう。
ふと、何かに気付いたように目を見張った由梨佳が言う。
「もし、池田くんの気分が萎えて抱けなくなったなら、そこまでで終了で構わないから。この条件も聞いてるわよね?」
「聞いてる。けど、おれってちょっと変わってるらしくてさ。気分的にはどれだけ萎えてても、やるのは可能なんだよ。それにおれとやると、女の方はどういう訳かかなり気持ちいいらしい」
どれだけぞんざいに扱っても、適当にあしらっても快感を得られるというか、むしろ一度抱いてしまうと際限なく求められるようになってしまうことが多い。これまで抱いた女のことを思い出して水輝はうんざりした気持ちになった。
「よーするに、おれのコレはやろうと思えば使用可能になるし、どんだけ女に飢えてても大人しくさせとくことが可能なわけ。ちょっとした特技かな」
説明しつつ水輝は自分の股間を指さしてみせた。由梨佳が戸惑うような視線で水輝の手元を覗き込む。水輝は無造作に由梨佳の手をつかみ、股間にあてがわせた。水輝が意識するとそれまで何ともなかった股間のモノが由梨佳の手の中で頭をもたげる。
「ほら、な?」
「すごい……。大きいのね」
驚くかと思ったら、意外にも由梨佳は物珍しそうな顔でまじまじと水輝の股間を見下ろしている。まだ脱いでもいないのにこんな反応をするということは、出したら一体どうなるのだろうか。ズボンの中で大きくなったものを感心したように見下ろす由梨佳にため息を吐き、水輝は首を振った。
「いや、サイズは割とどーでも良くて。つーか、由梨佳さん、今は何にも感じてねえの?」
さっきまで喘いでいたとは思えないほど由梨佳は冷静に見える。だがスカートがめくれたままで丸見えになっているショーツはぐっしょりと濡れたままだ。
それまで物珍しげに水輝の股間に触れていた由梨佳が身を起こし、自分の胸元と股間を見下ろす。その仕草はどう見ても恥ずかしがっているようには思えない。由梨佳は恥ずかしがっているというよりは、どちらかといえば観察者の目をしているように見える。
「今は愛撫を受けていないから快感を感じてはいないけど、まだ、かなり興奮してる状態ね」
「それって見て判断したわけ? 乳首とクリ?」
遠回しに訊くのも面倒だ、と水輝はストレートに思ったままに訊ねた。すると少し困ったような顔をして由梨佳が首を傾げる。
「そうよ」
由梨佳は何かを考えるような表情をしている。やれやれ、と苦笑して水輝は由梨佳の後頭部に手を回して引き寄せた。素早く唇を塞ぐと由梨佳が口の中で呻きのような声を漏らす。水輝はそのまま唇を舌でこじ開け、強引に由梨佳の口の中に舌を差し込んだ。
ほんのりと柑橘系の香りがする。これはひょっとして柚子だろうか。由梨佳と口づけしながら水輝はそんなことを考えた。何故かは判らないが由梨佳の口の中からその香りがするのだ。
「柚子味? ちょっ、おもしれえ。リップクリームか? それにしたってこんな風に味がついて……え?」
唇の端に残った唾液を舐めて水輝は言葉を切った。おかしい。由梨佳のリップクリームに柚子の香料が使ってあるだけなら、こんな風に唾液までに味はつかない。水輝はもっかい、と呟いて有無を言わせず由梨佳の唇を塞いだ。
舌を由梨佳の口に突っ込んで唾液を啜るように舐める。やっぱりそうだ。由梨佳の唇にリップクリームがついている訳ではない。唾液そのものが柚子の香りを漂わせているのだ。水輝はキスをしつつ目を細め、今度はゆっくりと由梨佳の舌を舐った。最初は強ばっていた由梨佳の身体から少しずつ力が抜けていく。水輝はしっかりと由梨佳の背を支えて顔を上げた。
「今の、気持ち良かったか?」
吐息がかかる距離まで顔を寄せて水輝は訊ねた。こうして間近に見るとはっきりと判る。由梨佳の頬や顎、額の部分の肌も足と同じように白く滑らかだ。きめの細かい肌のことをシルクのようなと表現することがあるが、由梨佳のそれはまさに絹の手触りだ。
「とっても……」
頷いた由梨佳がうっとりとした表情で吐息をつき、自分からスカートを持ち上げてみせる。
「ほら、ここも」
由梨佳のショーツはぐしょ濡れになっていて、水輝のズボンに染みこんでいた。水輝は苦笑して由梨佳の股間に布越しに触れた。キスをしながら濡れたショーツを弄る。じっとりと染みこんだものを指ですくい取り、水輝はそれを口に運んだ。濡れた指にも柚子の香りがついている。
水輝は由梨佳の耳許に唇を寄せてごく小さな声で囁いた。
「……ぎりぎり、服着てペッティングまでだな。それ以上やるとばれるぜ」