グノーシス主義(gnosticism)

グノーシス派、グノーシスとも。グノーシス(Gnōsis、γνωσις)は「知識」「認識」「認知」という意味。
帝政ローマ時代以降、地中海からオリエントにかけての地域で発展した宗教思想の一つ。
その起源はおそらくイエスたちとほぼ同時代の1世紀ごろであると考えられ、2世紀から3世紀のあいだに最も勢力を増した。それ以降グノーシス主義はキリスト教の勝利によってほとんど途絶えたが、イランより東ではマニ教?がその後1000年にわたって力を持ち続け(中国でも知られていた)、さらに中世ヨーロッパのキリスト教世界内部でもボゴミル派やカタリ派のようなグノーシス思想を持った「異端」が一時期勢力を持っていた。

グノーシス主義は創設されて間もないキリスト教会にとって最大の敵であり、「異端」であるとされた。グノーシス主義者(ではない、という学者もいる)マルキオンによる独自の聖書に対抗する形で聖書の正典がまとめられ、またエリート層に多かったグノーシス主義者たちとの論争のなかでキリスト教の正統的な神学が形成されていった。
19世紀に至るまではグノーシス主義といえばキリスト教の学者たちによる「異端反駁」のような文書程度しか資料が存在せず、そのためグノーシス主義は初期キリスト教の異端であるとされることが多かった。
しかしマンダヤ教の存在やマニ教文書の発見、さらに20世紀半ばの『ナグ・ハマディ文書』の発掘と研究によりこの考えは完全に古いものになった。
グノーシス主義は、ユダヤ教・キリスト教とは深い相互関係がありつつも、独立した宗教思想だったというのが現在の一般的な考え方である。

しかしながら「グノーシス主義」は一つのまとまった大きな宗教思想のことではなく、この時代に存在したいくつかの思想をひとまとめにした用語である。だから全体的なグノーシス主義についての完全に共通な神学や統一された神話・聖典は存在しないが、それでもいくつかの重要なポイントによってグノーシス主義と他の当時の宗教を区別することができる。
  1. 反宇宙的立場。この世は「悪」である。なぜなら創造主が「悪」だからである。
  2. 物質/霊の二元論。物質は「悪」であるが、霊魂は神と同質の存在である。
  3. 人間は神的な霊魂に由来するが、肉体に閉じ込められている。人間はそのことを知らない。
  4. 認識による救済。人間の霊魂は本性的にこの世を越えた存在(「神」)であるから、そのことを認識すれば、「悪」であるこの物質世界から抜け出し、光の世界に戻ることができる。

グノーシス主義の源流は大きく分けて4つ存在する。
  1. ヘレニズム時代のギリシア思想。たとえば肉体は霊の牢獄であるという考え方はオルフェウス教に見られる。また物質/霊の二元論はプラトン主義的でもある。
  2. ユダヤ教の黙示思想。
  3. キリスト教。とくに救済者であるイエス・キリストの存在。
  4. オリエント系宗教各派。たとえばマニ教の光と闇の絶対的二元論はズルワーン教?が大きな源流の一つである。星辰を神や支配者であるとみなす考え方はメソポタミアでよく知られていた。
このように部分部分の元ネタはあちこちに存在することが指摘されているが、「反宇宙的立場」はグノーシス主義に特有のものであり、そしてその立場から世界観や神話などを大胆に解釈したのもまたグノーシス主義の特徴である。


グノーシス主義はユダヤ・キリスト教の影響が強い「シリア・エジプト型」と「イラン型」の二つに分類されている。しかしこの2つにまたがるグノーシス主義も当然存在している。

シリア・エジプト型グノーシス主義


西方型ともいう。ウァレンティノス派が代表的。
もとからあったのは「光」だけである。しかし「光」のなかに「破れ」が発生し、それによって「闇」が誕生し、闇の造物主(旧約聖書ヤハウェ。グノーシス主義ではデミウルゴス?とかヤルダバオト?とかいう名前で知られる)が世界を創造する。人間は肉体と霊魂を具有するものとして創造されるが、デミウルゴスの気づかぬ間に「光」がその神性を注入する。
キリスト教グノーシス主義ではイエス・キリストはヤハウェの息子などではなく、この世界から「光」を救済するために使わされた「光の側の勢力」である。
エデンの園の蛇もイエスと同等の存在であるとされることがある。
  • シモン
  • ケリントス
  • バルベーロー派
  • セツ派
  • オフィス派、ナハシュ派
  • バシリデス
  • ウァレンティノス
  • マルキオン
  • ボゴミル派
  • 穏和カタリ派

イラン型グノーシス主義


東方型とも言う。マニ教が代表的。
もとから「光」と「闇」の2つの対立原理が存在している。「光」と「闇」の接触によって「光」の一部が「闇」のなかに失われる。それから宇宙が創造され、「光」は「闇」から「光」の一部を取り戻そうとする。

  • マニ教
  • マンダヤ教
  • 絶対カタリ派

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最終更新:2005年04月21日 11:44