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ゾロアスター教(Zoroastrianism)

 イランの古代宗教。ある特定の人物によって教義が広められた創始宗教としては世界最古のもので、しかも今もなおイランやインドに信者(パールシー教徒という)がいる宗教である。

 開祖はザラスシュトラ(英語でゾロアスター、ドイツ語でツァラトゥストラ)。
 ザラスシュトラのいた地方は北東イランだと推測される。
 ザラスシュトラのいた年代は、伝説にあるだけで前6000年~前600年の開きがある。現代の学説でも前1500年から前600年まで開きがある。要するに証拠がないのでわからない。

 経典は「アヴェスター」。
 また、アラブによる征服直後に書きとめられた中期ペルシア語の「ブンダヒシュン?」(創造神話)、「デーンカルド」(宗教百科事典)も貴重な文献である。
 そのほか、ミトラス教?ズルワーン教?グノーシス主義の資料や古代ギリシア人の著作も重要。

 西洋では、ゾロアスター教の祭司はマギと呼ばれたとも言われるが、本来はメディアの祭司階級を意味する言葉である。

教義の歴史

 ゾロアスター教について確実にわかっているのは「わかっていない」ということだけである。だから以下の段階も便宜上のものにすぎない(ネットで百科に従っている)。

ザラスシュトラ自身による教義

 アヴェスターのなかでザラスシュトラ自身による言葉は「ガーサー」だけである。
 それによれば、この世は、善と悪の戦いの場である。
 始原のとき、最高神アフラ・マズダーが二つの霊スプンタ・マンユ?アンラ・マンユを産んだ。それぞれの霊は、自分の意思によって善(天則アシャ?)と悪(虚偽ドゥルジ?)を選択した。
 人々はそれを模倣して、自分の意思によって善か悪かを選択し、この世の戦いに身を投じなければならない。
 しかし終末時には善が悪に打ち勝ち、スプンタ・マンユ?が勝利する。スプンタ・マンユ?アフラ・マズダーとも同一視されるから、善を選んでおけば後々神の王国に参入することができる、という。
 アフラ・マズダーのもとには6柱の大天使アムシャ・スプンタ?がいる。アムシャ・スプンタ?アフラ・マズダーの諸側面を神格化したもの。独立した存在ではなく、諸側面そのものだ、という説もある。人々はアフラ・マズダーとともにアムシャ・スプンタ?もまた崇拝する。
 火は聖なるものである。牛もまた聖なるもので、殺してはならない。ハオマ?祭儀も禁止されたか、または推奨されなかった。

 時代は、だいたい先史時代~アケメネス朝ペルシア。

ザラスシュトラ死後の教義

 ガーサーには、おそらくザラスシュトラ自身の創案になるアフラ・マズダーアムシャ・スプンタ?たち以外の名前は見当たらない。しかし、人々はそれより前からミスラ?アナーヒター?ウルスラグナ?などのインド・イラン的な神々を崇拝していた。
 そこで、ザラスシュトラの後継者たちはより多くの人々の共感を得るため、これらの古代の神々を復権させた。賛歌のなかではザラスシュトラ以前から歌われていた詩がそのまま見られ、とくに太陽神ミスラ?と大地の女神アナーヒター?アフラ・マズダーと並んで崇拝されるようになった。同時に、アムシャ・スプンタ?の影は薄くなった。そのため、アムシャ・スプンタ?に具体的な自然物の象徴が付せられるようになる。
 また、アフラ・マズダースプンタ・マンユ?の同一視が進行し、ほとんど同じだとみなされるようになった。そして敵対者のアンラ・マンユアフラ・マズダーを同格とみなし、その上にズルワーン?「時間」が存在する、というズルワーン?教も誕生した。

 善と悪の対立という思想は、バビロン捕囚によりメソポタミアにいたユダヤ人たちに大きな影響を与えた。また、グノーシス主義にも(広い意味での)イランからの影響が見られる。

 アケメネス朝ペルシアの支配階級がマズダー教だったことは碑文からみても間違いない。ただしゾロアスター教だったかどうかはわからない。

 ミスラ信仰はヘレニズムの時代に隆盛を極めた。王はミスラ?の化身とされ、この神は王国の守護神となった。また、メソポタミアでは太陽神シャマシュ?と習合した(ほとんどアフラ・マズダーの面影はない)。ミスラ信仰は、おそらくこの地でバビロニアの天体論を吸収した。小アジアからギリシア・ローマ世界に入ったミスラ(ミトラス)教は密儀宗教として広まるが、キリスト教の勝利によって衰退する。

 時代は、だいたいアケメネス朝~アルサケス朝ペルシア。

ササン朝時代の教義

 ササン朝ではゾロアスター教が国教になっている。
 この時期のゾロアスター教は、ズルワーン教?に大きな影響を受けたようである。主要な文献は上記のブンダヒシュンとデーンカルドだが、ブンダヒシュンではオフルマズド(アフラ・マズダー)とアフリマン(アンラ・マンユ→アフラ・マンユ→アフリマン)は直接対立することになる。しかしズルワーン教?ではズルワーン?を二者の上に置いたが、デーンカルドでこの考えは批判されている。
 やはり、最終的に善を体現するオフルマズドが勝利するのである。

 しかしこの両文献はササン朝末期からイスラム時代初頭に書かれたものなので、かならずしもササン朝全体のゾロアスター教の教義を正確に紹介しているわけではない。ズルワーン教?になっていた国教に対抗してズルワーン?の存在を批判したのかもしれない。

(イスラム以後)

 イスラム化以後も、地道にゾロアスター教は生き続けている。とくにインドに渡った人々は、現在ムンバイなどの経済を支配するに至っている。
 しかしゾロアスター教徒以外との結婚が認められないため、信者人口は年々減り続けている。そのため、異教徒との結婚も認めようか、という議論も起こっているが、どうなるかはわからない。

名称

 日本語では拝火教、中国では祆教とも言われた。

 カタカナだと非常に紛らわしい。呼び名がそのままゾロアスター教に対するさまざまな学問的立場を意味することになるからである。
 ゾロアスター教といえば英語ではZoroastrianismとされるが、一口にそういっても現在までに約3000年の歴史を持つため、教義や体系、神話などはかならずしも一枚岩ではない。
とくに、ザラスシュトラの死後に彼自身が排除した信仰まで含まれた宗教をZoroastrianismと呼び、ザラスシュトラ本人の教義のみをさしてZarathushtrianism「ザラスシュトラ教」と呼ぶことがある。また、イスラムに征服されるまでのササン朝ペルシアの宗教をZoroastrianismと呼び、ザラスシュトラ教とササン朝宗教のあいだの古代ペルシアの宗教をZarathushtricism「ザラスシュトラ的宗教」と呼ぶこともある。
 本人たちはアヴェスター語でマズダヤスナ(Māzda yasna)「マズダー教」、中期ペルシア語でマズデースン(Mazdēsn)、またはウェフ・デーン(Weh Dēn)「善なる教え」、近世ペルシア語でベフ・ディーン(Beh Dīn)などと呼んでいる。
 ゾロアスター教は「マズダー教」(マズダ教)と呼ばれることもある。これはアフラ・マズダーを主神とするからだが、ゾロアスター教以外にもアフラ・マズダーを主神とする宗教があったとする立場からすればゾロアスター教以外にもマズダー教が存在することになるので、あまり適切ではない(アフラ・マズダーの注1参照)。ただし、ザラスシュトラの教えから離れてしまっているゾロアスター教をあえてマズダー教と呼ぶことはある。

ゾロアスター教に関係する名前

以下は、特に断り書きのない場合、いずれもアヴェスター語形。

たとえばアフラ・マズダー(Ahura Mazdā)はアヴェスター語だが、中期ペルシア語ではオフルマズド(Ohrmazd)である(アヴェスター語と中期ペルシア語では、話されていた時代が1000年以上違う)。
同様に、アヴェスター語のアンラ・マンユ(Aŋra Mainyu)は、中期ペルシア語ではアフレマン(Ahreman)で、近世ペルシア語ではアーハルマン(Āharman)。
英語は中期ペルシア語形をベースにしているのでアーリマン(Ahriman)となる。

神々

名前 原語(ローマ字転写) 簡単な説明
アフラ・マズダー Ahura Mazdā ゾロアスター教、マズダー教の最高神。善の存在。
スプンタ・マンユ? Spənta Mainyu 「聖霊」。アフラ・マズダーと同一視されることもある。
アムシャ・スプンタ? Aməša spənta ゾロアスター教の大天使。以下の6神だが、スプンタ・マンユ?も入れることがある
アシャ? Aša 「天則」。真理、正義。世界を支配する法則の擬人化。
ウォフ・マナフ? Voh Manah 「善思」。人々を導く神格。
クシャスラ?・ワイリヤ(フシャスラ・ワイルヤ) Xšaθra Vairya 「王国」。神の王国であり、他界の存在。
スプンタ・アールマティ?(アールマイティ) Spənta Ārmaiti 「随心」。聖なる信心の具現。
ハルワタート?(ハウルワタート) Haurvatāt 「完璧」「健康」((伊藤義教は、「完璧」という訳語を「訳者はこれが最も完璧な訳語であることを主張したい」としている。))。欠けるところのない完全な状態。水と関連がある。
アムルタート? Amərətāt 「不死」。植物と関連がある。
サオシュヤント? Saošyant ゾロアスター教の救世主。
ヤザタ? Yazata ゾロアスター教において、アムシャ・スプンタ?よりも格下の、普通の神々。
ミスラ? Miθra 契約の神。戦闘神でもあり、太陽神でもある。
ハオマ? Haoma 神々の飲料であり、祭儀のときにも使用されたハオマの神格。
アータル? Ātar 火の神。
アパム・ナパート?(アポンム・ナパート) Apam Napāt 「水の子(孫)」。アータル?と対になる水の神。
アルドウィー・スーラー・アナーヒター? Arəduuī Sūrā Anāhitā 豊穣の女神。インドにおけるサラスヴァティー?
ティシュトリヤ? Tištrya シリウスの神。雨を降らせる。
ワータ?ワーユ? Vāta、Vāyu どちらも風の神。ワータは自然の風で、ワーユは神秘的な大気の神。
アイルヤマン? Airyaman 「友情の力」。ミスラ?のまわりの小神格。
スラオシャ? Sraoša 「傾聴」。祈祷の神。
アシ? Aši 幸運の女神。

悪魔

名前 原語(ローマ字転写) 簡単な説明
アンラ・マンユ Aŋra Mainyu アフラ・マズダーまたはスプンタ・マンユ?に対抗する大悪魔。悪の原理。
アエーシュマ? Aēšma 「血塗られた棍棒を持つ」狂乱の悪魔。
アジ・ダハーカ Aži Dahāka 3つの頭がある竜。英雄と戦う。
ジャヒー? Jahī 魔女。
ダエーワ? Daēva 悪魔の総称。ダエーワ崇拝者は地獄に堕ちる。
アカ・マナフ? Aka Manah 「悪思」。ウォフ・マナフ?に対抗する6大悪魔。アンラ・マンユの別称でもある。
ドゥルジ?、ドルジュ Druj 「虚偽」。アシャ?に対抗する6大悪魔
インドラ? Indra インドのインドラのことだが、ここでは6大悪魔アシャ?に対抗する。
ノーンハスヤ Nāŋhaiθya インドのナーサティヤ双神にあたる。クシャスラ?に対抗する6大悪魔
タローマティ? Tarōmati 「背教」。クシャスラ?に対抗する6大悪魔
サルワ?、サウルワ Saurva 「熱」という意味だとされる。ハルワタート?に対抗する6大悪魔
ザリチュ? Zairic 「油」という意味だとされる。アムルタート?に対抗する6大悪魔
アストー・ウィーザートゥ?
ウィーザルシャ? Vīzarəša 地獄の悪魔。
アパオシャ? Apaoša 旱魃の悪魔。ティシュトリヤ?に対抗する。
ブーシュヤンスター? Būšyanstā 眠りの悪魔。インドのウシャス?に当たる。
ナス? Nasu 死体の悪魔。

おもな参考文献

アーサー・コッテル 『世界神話辞典』 柏書房
「アヴェスタ語」「中期ペルシア語」『言語学大辞典』 三省堂
「アヴェスタ文字」「パフラヴィ文字」『世界文字辞典』 三省堂
エミール・バンヴェニスト、ゲラルド・ニョリ 『ゾロアスター教論考』 平凡社東洋文庫
サーデク・ヘダーヤト 『ペルシア民俗誌』 平凡社東洋文庫
Jean Puhvel "Comparative Mythology"
ジョルジュ・デュメジル 『大天使の誕生 デュメジル・コレクション4』 筑摩書房
スティグ・ヴィカンデル 『アーリヤの男性結社』 言叢社
ハンス・ヨナス 『グノーシスの宗教』 人文書院
プルタルコス 『エジプト神イシスとオシリスの伝説について』 岩波書店
フレッド・ゲティングズ 『オカルトの事典』 青土社
フレッド・ゲティングズ 『悪魔の事典』 青土社
ヘロドトス 『歴史』 岩波書店
ミシェル・タルデュー 『マニ教』 白水社文庫クセジュ
ミルチア・エリアーデ 『世界宗教史』 筑摩書房
メアリー・ボイス 『ゾロアスター教』 筑摩書房
ョルジュ・デュメジル 『神々の構造』 国文社
伊藤義教 『ゾロアスター研究』 岩波書店
伊藤義教訳 「アヴェスター」『ヴェーダ アヴェスター』 筑摩書房
岡田明憲 『ゾロアスターの神秘思想』 講談社
岡田明憲 『ゾロアスター教 神々への賛歌』 平河出版社
岡田明憲 『ゾロアスター教の悪魔払い』 平河出版社
黒柳恒男ほか 『世界の神話伝説総解説』 自由国民社
山北篤監修 『悪魔事典』 新紀元社
山本由美子ほか 『世界の歴史4 オリエント世界の発展』 講談社
山本由美子ほか 『世界神話事典』 角川書店
前田耕作 『宗祖ゾロアスター』 筑摩書房
大貫隆 『グノーシスの神話』 岩波書店
辻直四郎 『インド文明の曙』 岩波書店
辻直四郎訳 『リグ・ヴェーダ賛歌』 岩波書店