BFT妄想記

「Festival of Statues」





いつも深夜までたくさんの店が開いているこの街が年に2回だけ、日暮れから日の出までの間、まっくらになるのを知ってる?

それは夏至と冬至の日。この街のお祭りの夜のこと。ここのお祭りは賑やかで楽しいよ。街中がまさにお祭り騒ぎなんだ。みんなその日のためにひと月くらい前から大忙しさ。どこのお店でも毎年違う趣向を凝らしたメニューを出すんだよ。天使や街の守護神として大切にされている四獣神、そしてジュノー・ガーデンの女神たちをモチーフとした料理やケーキをね。このお祭りは彼らのためのお祭りだから。その日一日の限定メニューなんだけど、お祭りの一か月くらい前からパンフレットにして配ってるんだ。僕らはそれを見て、今回はどこで何を食べよう・・・って考えるわけさ。晩御飯はテイクアウトして家で食べるんだ。その日は自分の手料理を食べようという人は少ないよ。だっておいしいものが多いことで有名なこの街のシェフたちの渾身の料理を普段より安めの価格で食べられるからね。

お祭りの日はみんなドアや窓に飾りをつけるんだ。まっしろなリースに金銀の天使が飾ってあるものが多いかな。そして街の人たちは自分たちの服に飾りピンを刺すのさ。恋人募集中の人や子供たちは天使や女神の銀のピンを刺すんだよ。帽子に飾る人、胸につける人、スカートの留め具代わりにつける人。着ける場所は人それぞれだけどね。大人たちは四獣神の金の飾りをつける。若くて結婚していなくてもこっちを好む人もたまにはいるけどね。それらみんなが太陽の光にきらきらと反射してきれいなんだよ。本当に街中で天使や妖精が踊っているように見えるの。街灯にも飾り付けがされるからね。あ、もちろん路面電車バスもキラキラに飾るんだよ。お祭りの日は僕が知っている限り僕のおじいさんの時代から雨が降ったことがないんだ。

あちこちでいろんなコンテストも行われるんだよ。バーベキュー広場ではお菓子のコンテストをやるんだ。もちろんアマチュアの参加もOKさ。街中の人たちが見に来て、そして最後にはちょっとづつ味見をさせてもらえるんだ。去年の夏至の優勝者は「広東餐庁 壽富樓」の楊さんだった。スイカやキュウリ、ニンジンや大根など、さまざまな素材を彫刻して作った四獣神は見事だったよ。まるで生きているみたいだった。冬至の優勝者は「ジャン=ポール・エッジ」のエッジさんが作ったホワイトチョコと飴がけのナーイアス像の噴水だった。繊細できれいで溜息がでちゃうくらい。僕の家に来たら写真があるんだけど。あ、公会堂に行ったら写真があるよ。お祭りのいろいろな風景を撮った写真があるから、もし時間があったらぜひ見に行ってみてね。

街の真ん中にある井戸広場ではダンスを踊っているよ。白いワンピースの上に赤いスカートを重ねて履いて、その上からさらにチロリアンテープで縁取りしたギャザーをたっぷりとったエプロンをつけた女の人たちと、白のシャツに黒いパンツ、女の子と同じくチロリアンテープで縁取りをしたベストを着た男の人がそれぞれペアになって井戸のまわりを囲んで周るように踊るんだ。その外側では街の人たちも一緒にクルクルと廻りながら踊るの。この街で育った大人たちはみんなその衣装をつけて踊ったことがあるからね。子供たちもいつかはこれを踊るんだって感じで楽しそうに真似をして踊ってるよ。もちろん街の人たち以外の観光客の飛び入りだって大歓迎さ。そんなに難しいステップじゃないし、間違えても誰も怒らないよ。

夕方近くなるとみんな、川に行って河原でろうそくを燃やすんだ。だいたい日没前、1時間くらいかな。日没前には家に帰らなくてはいけないから。このためのろうそく立てがあるんだよ。ひょうたんのような形をしていて、大きい丸の方にろうそくを立てて、小さい丸の方を手に持つようにできてるんだ。これにもお祭り用のモチーフが書いてある。陶器やガラス、錫など素材はいろいろなものがあるけれど、形はみんな一緒。お祭りの前になるとどこのお店でもそれを売ってるよ。僕はたいてい錫のを選ぶんだ。持っていると垂れてきたろうそくのしずくでほんのりあったかくなるあの感じが好きだからね。そしてそれを河原に置いて、あぁ、もちろん倒れても火事にならないような場所を選ぶさ。ろうそくを河原に置いたら日没前に家に戻る。これは絶対に守らなくてはいけない大切な約束だから。

日没過ぎたらその日は電気もつけてはいけない。つけていいのは置いてきたろうそくと同じろうそく立てに乗せたろうそくだけ。それもできるだけ窓に近づけないようにして、灯りが外に漏れないようにするんだ。人間が窓辺に近づくことは絶対にダメ。そしてその日は早く寝るのがお約束なんだよ。普段は宵っ張りの僕でも自然と眠くなっちゃうんだ。なんでかって?最初に言ったろう。このお祭りは四獣神ジュノー・ガーデンの女神たち、そして天使のためのお祭りだって。ここから先は僕がおじいさんから聞いたこと。おじいさんも自分のおじいさんから聞いたんだって。この街に古くから伝わるお話なんだよ。

街の人たちがみんな寝静まった頃、街中の彫刻が動き出すんだ。そして彼らのお祭りが始まる。普段は心でしか話せない友だちのところに飛んで行ったり、井戸端広場で踊ったり。ジュノーガーデンでは女神たちが舞い踊って、噴水は彼女たちのために音楽を奏でる。四獣神も1年中ずっと街を見守るという重責から解放されて、空たかく舞い上がる。一番賑やかなのは天使たちさ。みんなで集まってラッパを吹きあったり、眠っている人たちの家に入って行って少し離れて眠っている老夫婦の手を握らせたり、小さな子供が眠っているのを頭と足を反対側にひっくり返したり。そば屋の前のタヌキとだって遊んでいるかもしれないね。そんな風にあちこちで小さないたずらをしかけてはしゃぎまわるんだ。それでも僕たちはまったく目を覚ますことがない。この日ばかりは朝までぐっすりさ。

朝一番の一筋の光が海から差してくる直前まで、彼らのお祭り騒ぎは続く。夜が明ける前には彼らはすっかりと元の自分がいた位置に戻っているというわけさ。朝起きた僕たちは、いつもちょっとした違いに気がついて、自分の部屋に天使が入ってきたと感じるんだけどね。うそだと思うだろ?でもこれはホントの話なんだ。僕もつい最近までおとぎ話だと思ってた。でも今はもう街中の人が信じているよ。だって動かぬ証拠があるんだもの。パラディサ通りにいるひとりの天使がね、どうやら遊びすぎてしまったらしく、前の日とは違うおかしな格好ですまして座っているんだもの。おかしいだろう。きっと彼、いや彼女かな、天使に性別はないんだったね。あの天使は他の仲間たちみんなから怒られてるんだよ。だから僕たちは気がつかなかったふりをして、その子の前を歩いてもジロジロみたりしないようにしているんだ。次のお祭りが来るまできっと、あの子は決まり悪い思いをしているに違いないからね。

もしこの街に来て、君がその天使に気がついたとしても、しらんぷりをしてあげてくれる?他の天使たちと同じように一緒に写真を撮ったり、褒めてあげたりして欲しいんだ。次のお祭りが過ぎたらきっと元の愛らしい姿に戻っているから。





text shinob










ご感想、コメントをどうぞ




最終更新:2009年06月03日 17:41