BFT妄想記

NEIL&IRAIZA's Dericassen」/「In Bloom





ニールとイライザは2つ違いの姉弟。父親が経営しているデリで母親も父親と一緒に働いていた。店は繁盛しており両親とも忙しかったため、姉弟は小さい頃から二人で過ごすことが多かった。ニールが5才になった時、彼は同じ年の隣の花屋のカートと「男同士の盟友の契り」を結んだ。それは先日酔っ払いが歩きながら交わしていた会話を聞いて仕入れた知識で、彼らにはそれがとても重要なことだと思ったのだ。イライザはそれを知って大層怒った。そして彼らに「男同士の盟友」ではなく「3人の盟友」とするように迫った。ところが彼らは断固としてそれを拒んだため、その代償としてイライザに「盟友の姉」という立場と彼らが地下でこっそりと飼っていた蜘蛛5匹を全部差し出すはめになった。

イライザはその蜘蛛の1匹を下から蝋燭で炙り、蜘蛛が慌てふためいて糸をよじ登って行くさまを見てキーキーと笑った。その後、5匹の蜘蛛に端から自分の名前を蜘蛛の糸でスペリングするように命じ、それが叶えられないと知ると巣を叩き落して踏みつぶした。彼らはペットを一気に失っただけではなく、「盟友の姉」とは二人よりも上の立場であるということをイライザに理詰めで説明され、甘んじてそれを受け入れることとなった。3人は眠る時と食事のとき以外は男同士の盟友と盟友の姉として、いつも一緒にいた。

ニールが6歳になった頃、母親が死んだ。イライザは「死者を蘇らせる呪い」の本を読んでいたので、それを母親の死体にできるだけ忠実に施そうとした。ニールとカートはドラゴンの鱗を見つけ出せずに蛇を捕まえてきた。鼠や他の材料は比較的容易に手に入った。手に入らなかったものはイライザの判断でできるだけ近いもので代用し、それらすべてを古くなって水汲み用に使われていた大きな鍋で盟友の秘密の部屋である地下で煮込んだ。悪臭を放つ黒い液体をイライザはこっそりと母親の死体の心臓部分に擦りこんだ。そうして呪いの言葉を唱えた。それが発覚した時、父親は猛烈に怒って、姉弟を裏の木に腕を縛って吊るした。母親の死体を冒涜したと思ったのだ。翌日盟友と盟友の姉がいないことに気がついたカートが見つけ出し、ニールとイライザの父の妹であるルシンダ叔母に助けを求めなければ彼らは死んでいたかもしれなかった。

それから姉弟の父親は二人にまったく興味を示さなくなった。無口になり、仕事をしているとき以外は酒を飲んで酔っ払っていた。カートの両親も花屋の仕事で忙しかったのだが、気の毒に思ったカートの母親があれこれと姉弟の面倒を見てくれるようになったため、3人はますます一緒にいることが多くなった。父親のデリには死んだ母の代りにルシンダ叔母が手伝いに来ていた。

世話をしてくれる母親を亡くしたイライザは見るからに奇妙な格好をして学校に通うようになった。もともと彼女の見た目はかわいらしいとは言えなかった。細長い手足はいつも泥で汚れ、洗いかけの牛蒡のようだった。細い尖った顎、高く突き出た鼻、赤毛でそばかすだらけの陰気な顔をしていた。母親がいたころは毎日きっちりと編まれていた長い髪はコートニー夫人かライザ叔母に見つからなければ梳かれることもなく、もしゃもしゃと広がっていた。イライザ自身は将来大魔術師になるため適した見た目だと思っていたので自分の容姿を気に入っていたが級友たちの女生徒はそんな彼女を恐れて遠巻きにし話しかけることはなかった。男生徒は時折思い出したようにイライザに向かって「ニンジンゴボウお化け」などど叫んでは逃げ去って行った。彼女はそうした仕打ちを忘れずに、家に戻ってはそれらのことを日記につけていった。

ニールとカートも学校に行く年になった。ニールは姉に似て冴えない容貌のやせっぽちの小さな少年だった。カートは見るからに健康そうな顔立ちも整った少年だった。彼らは勉強をして文字が読めるようになればイライザのようにいろいろな知識を蓄えられることを憶えた。忽ち字を読むことを覚えたニールとカートもまた、学校の成績はいつも上の方だった。ニールは算術や理科も好きだった。彼の知識欲は姉に劣らず、姉よりももっと忍耐強かった。魔術の薬の最後の仕上げに何故かいつも必要になる「塩ひとつまみ」の塩を海の水から作ることに成功したのも一重に彼の性質のおかげだった。その塩は父親の厨房の壺からこっそりと持ってくる物よりも効き目がありそうだと、盟友の姉によって公式に認定された。

学校の図書館にある本だけでは知りたいことの半分も得られなかったので、3人は歩いて海辺の街の図書館まで足を運び、またはルシンダ叔母にねだって街の古本屋に連れて行ってもらって好みの本を選んだ。ルシンダ叔母は仕事の合間に姉弟の面倒を見てくれたのだが、彼女はあまり物事を考える性質ではなかったため、手間をかけるよりは子供たちに求められるままに彼らの好のむ本を街の古本屋で子供用の本を買ってあげてることを好んだ。それらは子供向けに書かれたさまざまな絵入りの魔術の本、または世界の生き物の図録であったりした。

その頃のイライザは大魔術師の道に進もうと思っていた。実際にいくつかの魔方陣を描くことも覚えた。ところが肝心の魔術に使う材料と来たらほとんど揃わないことが多く彼女を失望させた。盟友の姉が向くところを他の二人も進んだ。イライザと共に大魔術師になるために彼らはいつでも泥や埃にまみれて様々な昆虫や小動物を捕まえては実験に励んだ。地下室にはいつでも描きかけのさまざまな道具や本が散らかっていた。地下室はあちこちから拾ってきた彼らの言う「実験道具」の欠けたカップや穴のあいた鍋、さらには材料になるいろいろな生き物を乾燥させたものなどでいっぱいになった。学校では勉強はできたものの、いつも下を向いて何かを探したり、黒い液体が爪につまったりしていた姉弟には他の友人というものはできなかった。

カートは生れつきの顔立ちや彼を心配する母親の手入れによって身綺麗にさせられていたため、話しかけてくれる級友を持っていた。彼は盟友の手前、それを良しとせず、朝学校に行く途中ですっかり自分を汚す技を身につけた。カートの母親はたいそうそれを嘆いてニールとイライザとはもう遊ばないようにと命じたが、蜘蛛の足を蜘蛛の糸で絡めた爆弾や階段に置かれる干からびた鼠の死骸や蛇の脱け殻などの攻撃に負け、結局は諦めざるを得なかった。カートは他の友人たちとサッカーをするよりも、男の盟友と盟友の姉との秘密めいた遊びを選んだ。カートは3人の中では一番力が強く、はしっこかった。その年の春に生まれた最初のつぐみの卵や軒下の生きた蝙蝠などを捕まえるのはカートが一番す速くそして得意だった。

時が経つに連れ、いつしか彼らも成長した。ニールが10歳になった頃にはもう、イライザは大魔術師への道は諦めていた。この街では彼女が求める魔術の材料が入手できないことに絶望したのであった。彼女はいつか街を出ることを強く望んでいた。盟友の姉の挫折により、男の盟友たちも道を見失った。イライザはそれまでに集めた材料を使って今まで彼女や盟友たちを馬鹿にしてきた級友たちに復讐することを思いついた。ニールはせっせと「爆弾作り」に励んだ。カートは母親に買ってもらった玩具の短銃で彼らを護衛した。イライザは知恵を絞って効果的に相手にダメージを与える方法を探しだした。もしニールが仕込みをしている最中に誰かが来てしまった時にはカートが木の上や壁の影から玩具の短銃で撃って撃退した。この頃にはこの3人の中で「命令者」「実行者」「援護者」という役割分担が出来上がっていた。作戦が成功すると彼らはその様子を地下で語り合ってはキーキーと笑った。それらはとても巧妙に仕組まれていたのでしばらくの間は誰にもばれることなくこの復讐作戦は続いた。

ある日、カートの父親がニールとイライザの父親の元に大変な勢いで怒鳴り込んできて彼らの作戦の失敗を語った。3人は面目を失っだけではなく、今までずっと大切にしてきた「盟友と盟友の姉の秘密基地」を閉鎖されるという憂き目にあった。もちろんそれぞれがしばらく学校に行きたくなくなるほどに殴られたが、学校を休むことは許されなかった。級友たちは何が起こったかをすぐに察した。だが3人に何かを言ったりしたりできるほどの勇気があるものは教師にさえいなかった。ニールとイライザ、そしてカートはこの屈辱に耐えたが、親たちは二度と地下室を彼らに開放することはなかった。こうして「男の盟友」と「盟友の姉」という名前の子供時代は終りを告げた。

歳月が過ぎ、彼らは大人になっていた。この街を出ることを熱望していたイライザは街を出ることなく娘時代を過ごした。父親が女には大学はいらんと言ったためだった。彼女はこの街で父親の店の手伝いをして娘時代を過ごした。彼女の楽しみは古本屋に行き今まで読んだことのない本を買いそれを寝るまでの間読むことと、読んだ物語の主人公に自分を置き換えて想像をすることだった。仕事中もよく呆けていると父親に怒られた。彼女が好む物語は普通の女性が好むような恋物語ではなかった。古本屋の店主と本の好みが大層一致していたのだが、彼女がその店主に話しかけたり、もちろん恋をすることはなかった。

ニールはカートと共に大学に行った。姉が行きたくても行かせてもらえなかったことを知っているので、彼は自分の代りに姉さんをと父親に申し出て、結局殴られた。ニールは習ってきたことをすべて姉に伝えること、珍しいものを見つけたらすぐに送ることを約束してこの街を去った。彼は姉とは逆に、子供の頃からどこに何が生えているか、どの路地に行ったら太ったねずみを罠にかけることができるかまで知っているこの街を離れるのが嫌だった。一番の理由は姉と離れて暮らすことが嫌だったのだが、それは自分でも認めようとはしなかった。

カートは大学のある街で人気者になった。そして忙しい勉強時間の合間を縫って体を鍛えることに熱中した。彼はいろいろなスポーツのクラブから誘われたがそれらに加入することはなかった。彼がなぜ体を鍛えていたのかを知る人はニールとイライザしかいない。彼はあの不名誉な事件以来母親に禁止されていた念願のモデルガンを買い、時々はニールを誘って子供の頃のように野山を走り回って小動物を撃ったりした。彼はいつのまにか走りながらでもそのモデルガンの狙いを正確につけられるようになっていた。それでもカートは大学でコート・ラブという女性と恋に落ち、熱愛の末、大学に在学中に結婚した。


そうしてニールとカート(とその妻)は大学を卒業してこの街に戻ってきたのだった。






text shinob

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最終更新:2009年06月03日 17:39