(2)指導計画

ア 指導計画の作成
指導計画の作成に当たっては、次の事項に留意しなければならない。
(ア)保育課程に基づき、子どもの生活や発達を見通した長期的な指導計画と、それに関連しながら、より具体的な子どもの日々の生活に即した短期的な指導計画を作成して、保育が適切に展開されるようにすること。
(イ)子ども一人一人の発達過程や状況を十分に踏まえること。
(ウ)保育所の生活における子どもの発達過程を見通し、生活の連続性、季節の変化などを考慮し、子どもの実態に即した具体的なねらい及び内容を設定すること。
(エ)具体的なねらいが達成されるよう、子どもの生活する姿や発想を大切にして適切な環境を構成し、子どもが主体的に活動できるようにすること。

①保育課程と指導計画
「指導計画」は、保育課程に基づいて、保育目標や保育方針を具体化する実践計画です。指導計画は具体的なねらいと内容、環境構成、予想される活動、保育士等の援助、家庭との連携等で構成されます。
指導計画は、保育実践の具体的な方向性を示すものであり、一人一人の子どもが、乳幼児期にふさわしい生活の中で、必要な体験が得られるよう見通しを持って作成するものです。一人一人の子どもを主体としてとらえ、「環境を通して行う保育」を展開していく上で大切なのは、ねらいを達成するための環境を適切に構成し、子ども自らが環境に関わって様々な活動を生み出していくよう援助することです。したがって、子どもと保育士等との相互作用により生活を創造していく過程で、子どもと共に環境の再構成をするなど柔軟に保育を展開し、その実態を子どもと保育士等の2 つの視点で省察し、次の指導計画の作成に生かしていくことが求められるのです。

②長期的指導計画と短期的指導計画
保育所では、子どもの発達を見通した年・期・月など長期的な指導計画と、それに関連しながらより具体的な子どもの生活に即した週・日などの短期的な指導計画を作成します。個人の指導計画、あるいはクラスやグループの指導計画など必要なものを、書式も含めて工夫して作成します。

○長期的な指導計画(年・期・月)
年間(期)指導計画は、1年間の生活を見通した最も長期の計画であり、子どもの発達や生活の節目に配慮し、1年間をいくつかの期に区分した、それぞれの時期にふさわしい保育の内容を計画します。家庭との連携や行事等、また地域との連携などに配慮することが求められます。特に、乳児、1歳児保育については、発育・発達が著しく、個人差が大きいことから、発達過程と保育所生活へ慣れていく過程との2つの側面から構成していくなど工夫していくことが大切です。

○短期的な指導計画(週・日)
長期的な指導計画の具体化を図り、その時期の子どもの実態や生活に即して、柔軟に保育が展開されるように、また、長期の指導計画との関連性や生活の連続性が尊重されるようにします。日課との関連では、保育時間が長時間化している今日、1日の生活の流れの中に、子どもの多様な活動が調和的に組み込まれるように配慮することが求められます。

③指導計画の作成の基本

【子ども一人一人の育ちの理解】
子どもの実態を把握し、理解することから指導計画の作成はスタートします。なぜならば、指導計画は、保育士等から一方的にある活動を子どもに与え、させる計画ではなく、子どもと保育士等との相互作用の中で創っていくものだからです。
「~ができる、~ができない、~遊びをしている」といった目に見えることだけではなく、育っている、育とうとしている子どもの心情、意欲や態度を理解することが大切です。

【集団としての育ちの理解】
一人一人の活動する姿は、一見それぞれ異なるようですが、クラスやグループに共通する育ちがあり、集団としてのねらい、内容が見えてきます。
子どもが生活する姿や記録から、子どもの実態把握をする上で3つの視点が考えられます。一つは生活への取組(食事・睡眠・排泄など基本的な生活習慣)、二つは、人との関係(保育士・子ども等)、三つは遊びへの取組(何に興味を持ち、何をしようとしているのか)です。それぞれの視点で子どもをとらえる際、個人差を大切にすること、また、興味・関心を持っていることや得意なことにまず目を向け、次に何につまずいているかを明確にすることがポイントです。特に、子どもと大人(保育士等・保護者)の関係性と、子ども相互の関係性を読み取ることが必要です。こうした的確な生活実態の把握が、保育所における生活の基本となります。

○次の計画に向けた具体的なねらい・内容の設定
子どもの実態把握をもとに、子どもの発達過程を見通し、養護と教育の視点から子どもの心情・意欲・態度と体験する内容を具体的に設定します。また、家庭生活との連続性や季節の変化、行事との関連性などを考慮して設定することが大切です。特に行事については、保育所と家庭での日常の生活に変化と潤いが持てるように、子どもの自主性を尊重し、日々の保育の流れに配慮した上で、ねらいと内容を考えることが重要です。さらに、家庭や地域の養育機能が低下している今日、家族が積極的に保育所での生活に参加し、子育ての喜びを共有していくための行事も大切です。

○環境の構成
具体的に設定したねらいや内容を、子どもが経験できるように物、人、自然事象、時間、空間等を総合的にとらえて、環境を構成します。清潔で、安全な環境、家庭的な温かな環境を基盤に、子どもが環境に関わって主体的に活動を生みだしたくなるような、心ゆさぶる、魅力ある環境が求められます。「家具、遊具がある」、「素材、用具がある」、「植物、小動物がいる」ということだけではなく、そうした環境が子どもに生かされた環境になっていることや、人と人の関わりなど目には見えない雰囲気等が重要です。
環境構成には、こうした計画的な側面と、子どもが環境に関わりながら生じた偶発的な出来事を生かす側面とがあります。したがって、ある特定の活動を想定して大人主導で展開させるための環境ではなく、
子どもの気付き、発想や工夫を大切にしながら、子どもと共に環境の再構成をしていくことが大切です。

○子どもの活動の展開と保育士等の援助
子どもの活動の生まれる背景、意味を的確にとらえ、子どもが望ましい方向に向かって主体的に活動を展開していくことができるよう、適切な援助を行なうことが求められます。保育士等の予測を超えた子どもの発想や活動に心を動かすことや、また、天候の変化などにより、ねらい・内容の修正や環境の再構成という新たな保育の展開が始まります。

イ 指導計画の展開

指導計画に基づく保育の実施に当たっては、次の事項に留意しなければならない。

(ア)施設長、保育士などすべての職員による適切な役割分担と協力体制を整えること。

(イ)子どもが行う具体的な活動は、生活の中で様々に変化することに留意して、子どもが望ましい方向に向かって自ら活動を展開できるよう必要な援助を行うこと。

(ウ)子どもの主体的な活動を促すためには、保育士等が多様な関わりを持つことが重要であることを踏まえ、子どもの情緒の安定や発達に必要な豊かな体験が得られるよう援助すること。

(エ)保育士等は、子どもの実態や子どもを取り巻く状況の変化などに即して保育の過程を記録するとともに、これらを踏まえ、指導計画に基づく保育の内容の見直しを行い、改善を図ること。

指導計画を作成することは子どもの生活を見通してデザインしていくことですが、それは「保育の過程」という考え方で理解することができます。保育実践は子どもの生活実態を理解することから始まります。そしてその生活を見通して作成した指導計画をもとに、保育を柔軟に実践していきます。さらにその保育実践を省察、評価、見直し、改善していくという一連のプロセス全体を「保育の過程」と呼んでいるのです。また、この「保育の過程」は、一度展開したら終わりというものではありません。保育の改善とは、子どもについて多様な観点からその理解を深めることであり、それはその期間の指導計画を見直し、次の期間の指導計画に生かしていくことにもつながります。こうして日々展開されていく保育実践そのものが、
つながりを持ちながら積み重ねられていきます。

【職員の協力体制による保育の展開】
保育所は様々な年齢や状況の子どもたちが一日の大半を共に生活する場であり、職員全体の協力体制が不可欠です。複雑なローテーション勤務体制、専門性・職種の異なる職員構成という状況で、施設長や主任保育士のリーダーシップのもとに、職員一人一人の力や個性が十分に発揮されることが大切です。そのためには、適切な役割分担がなされ、それぞれが組織の一員としての自覚を持てるよう、必要に応じて指導計画に職員相互の連携についての事項を盛り込みます。

【子どもの変化に応じた柔軟な展開と多様な援助】
実際の保育においては、子どもの姿に即して適切な援助をしていく必要が生じます。子どもの生活は多様な活動がからみあって展開していくものであり、保育士等の予想した姿とは異なる実際の姿が生じることがしばしば見られます。また、子どもに対する援助は、一緒に遊ぶ、共感する、助言する、提案する、見守る、環境を構成するなど多岐にわたります。その時々の状況に応じて、子どもが主体性を発揮できるよう適切な援助が求められます。こうした多様な援助に支えられて、子どもが情緒の安定や豊かな体験を得られるようにすることが重要です。

【記録と見直し、改善】
子どもは、日々の保育所の生活の中で、様々な活動を生み出し多様な経験をしています。保育を振り返り、記録すること自体が、子ども理解、保育を読み解くことになります。すなわち、記録は、実践したことを、客観化する第一歩となり、記録することを通して、保育中には気づかなかったこと、無意識でやっていたことに改めて気付くのです。そこで、子どもと保育士等の2つの視点で保育を捉え、記録することが求められます。
子どもの姿に視点をあてるというのは、一日の保育やある期間の保育が終わったときに、その間の子ども一人一人の様子を振り返り、保育所での生活と遊びの様子を、思い返してみることです。また、保育士等の保育に視点をあてるというのは、一日の保育やある期間の保育について、自分の保育実践が適切に行えたかどうかを振り返ってみることです。例えば、この期間に設定したねらいや内容が適切であったか、さ
らには環境構成の見通しと援助が適切であったかなどを改めて見直すことです。
このような保育の省察により、一日、一週間、一か月などある期間の子どもの生活や遊びの実態をとらえ直し、子どもの言動の背後にある思いや成長の姿を読み取ります。そして、指導計画に基づく保育実践やそこでの一人一人の子どもに対する援助が適切であったかどうかを、自己評価に結び付けていきます。

【保育を振り返り省察する方法】

○記録を通しての省察

◎子どもの育ちを振り返る
子どもと共に生活するという日常的な保育において、記録という行為は、自らの保育を意識化することです。計画に基づき、保育は展開されていくのですが、一瞬一瞬、保育士等は、「今、このとき、このようにすることが最善」という判断のもとに、子どもや保護者への多様な援助を行っています。
記録は、その後の保育の省察、そして次の計画作成へと生かされていきます。つまり、日常の保育の記録が、保育士等の自己評価、さらに、保育所としての自己評価に関連していくのです。「このことはぜひ記録に残しておきたい」、「保護者へ記録を通して子どもの姿を伝えたい」、「仲間と一緒に子どもの育ちや保育のあり方を考えたい」など保育士等の思いとともに、子どもの姿を具体的に記述することが
求められます。その際、子どもの内面の変化について職員間で話し合い、今後の方向性を探る時に、その記録が基礎資料になります。

◎自らの保育を振り返る
環境構成・援助や職員間の連携など特に心に残っていること、また、保育の中で悩んだり、解決したいことなども記録していきます。この過程で、その後どう取り組んでいくかということも合わせて考えていくことで保育の方向性を探ることができます。その中で、どのような取組が解決につながったのかを省察していきます。
このように記録をすることは、自分の保育を具体的に振り返り省察する過程そのものなのです。また、それは自分の保育実践を日々自己評価していく過程であるともいえます。

【カンファレンスを通しての省察】
カンファレンスとは、医療や福祉などの分野で行われている話し合いの方法です。特定のケースに関連している専門家が、お互いの立場を尊重しながら、資料に基づいて解決への方向性をみんなで探っていく専門的な話し合いを意味しています。保育実践においても、気になる子どものことや保育の行き詰まり、さらには保護者との連携のあり方などをめぐって、課題に直面することがしばしば生じます。その時に、問題や課題に関係する職員が専門的に話し合う保育カンファレンスが必要になります。保育カンファレンスにより、自分では考えつかなかった視点や方向性を示唆してもらえることになります。また、保育を振り返り、組織的に解決の方向性を探っていく方法としても有効です。
最終更新:2009年01月10日 21:53
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