オ 表現

感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通して、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにする。

(ア)ねらい

① いろいろな物の美しさなどに対する豊かな感性を持つ。
② 感じたことや考えたことを自分なりに表現して楽しむ。
③ 生活の中でイメージを豊かにし、様々な表現を楽しむ。

「表現」の領域は、第1章(総則)3.保育の原理(1)保育の目標の「(カ)様々な体験を通して、豊かな感性や表現力を育み、創造性の芽生えを培うこと」をより具体化したものです。

子どもは毎日の生活の中で、身の回りの環境と関わり生活しています。その中で、美しいもの、不思議なもの、驚くようなものに出会い、いつも心を動かしています。こうした「心情」を豊かに持つことが、子どもの心の成長の基盤となります。
子どもは環境との関わりの中で抱いた様々な気持ちや気付きを友達や保育士等に伝えようとし、それらを自分なりに表現しようという「意欲」を育んでいきます。そして、環境との関わりの中で、また、友達や保育士等と一緒に生活する中で、様々な体験を通してイメージを豊かにし、表現することの喜びや表現を楽しむ「「態度」を培っていくのです。
こうした「ねらい」を達成するために、保育士等が援助して子どもが経験する事項を次の「内容」で示しています。

(イ)内容

①水、砂、土、紙、粘土など様々な素材に触れて楽しむ。
子どもは、水の冷たさや砂のざらざら感、泥のぬめりなど、土や水の素材に触れ、全身でその感触を楽しみます。乳児の頃からこうした感触を十分に味わい、諸感覚を働かせていくことが、子どもの感性を育んでいきます。
また、子どもは、それぞれの素材への関わり方や組み合わせにより、その性質を様々に変化させる意外性や不思議さに感動し、その喜びや驚きを全身で表します。十分に素材に触れその特徴や性質を知ると、いろいろと工夫してみようとしたり、必要な遊具や用具を求めたりします。例えば、砂遊びのお団子作りでは、何度も挑戦し硬さや大きさを自分なりに工夫したり、友達と協力して大きな砂山を作ろうとします。自分の思ったものを作り上げた充実感や、友達と一緒に一つのものを作り上げた感動を共有する体験は子どもが成長する上でたいへん重要です。
保育士等は、子どもが様々な素材に接することができるようにするとともに、子どもと一緒に、様々な素材に直接触れたり扱ったりしながら、子どもの感性に寄り添い、感動を共有していくことが求められます。

②保育士等と一緒に歌ったり、手遊びをしたり、リズムに合わせて体を動かしたりして遊ぶ。
幼い子どもは、母親の胎内で聞いていた「拍」に安心感と親しみを持っているようです。わらべ唄や子守唄の拍子が母親の心臓の音と重なり、子どもに安らぎを与えていること、刺激の強い音楽や機械音に不安感を持つことなど、保育士等は子どもの環境としての「音」に敏感でなければなりません。
子どもは、身体機能が発達することにより、保育士等の声や音の響き、音色に親しむことから、保育士等の歌うわらべ唄などに合わせて体を揺らしたり、一緒に歌おうとします。また、手遊び歌などのしぐさを真似たり、歌に合わせてリズムをとったりするようになります。さらに、保育士等が歌う楽しく心地よい歌を聞き、自分も同じように表現したいという気持ちになり、一緒に歌ったり、リズムに合わせて体を動かしたりすることを楽しんでいきます。
保育士等には、子どもの発達過程や興味などに合わせた季節感のある歌や手遊びを提供していくことが望まれます。

③生活の中で様々な音、色、形、手触り、動き、味、香りなどに気付いたり、感じたりして楽しむ。
子どもは、安心して生活する中で、風や雨の音、花の色や形、毛布の手触り、おやつや食事の味や香りなど、身の回りにある様々な色や形、音色や感触、味や香りに気付いたり、その心地よさを感じたりしていきます。また、保育士等や友達と一緒にそれらの感覚を楽しんだり、伝え合ったりするよう
になります。
日常の生活で、身体感覚を伴う様々な体験を積み重ねる中で、子どもはその性質や不思議さ、おもしろさに気付き、更に興味を膨らませます。また、様々な感覚を共に働かせながら、情緒を安定させたり、生活を楽しんだり、遊びに取り入れたりしていきます。
保育士等は、身近な環境に関わって直接、見たり、聴いたり、触れたり、嗅いだり、味わったりする子どもの感覚に心を傾け、子どもの感動や発見に寄り添いながら子どもの感性が豊かに育つよう働きかけていきたいものです。

④生活の中で様々な出来事に触れ、イメージを豊かにする。
前項エの「言葉」の(イ)内容の⑩にあるように、子どもは、自分が体験した内容を、いきいきとしたイメージとして心の中に蓄積していきます。実体験と結びついたイメージを数多く心の中に蓄積していくことにより、子どもはその感性や表現力を培っていきます。言葉で表現することがまだできない乳児や低年齢の子どもであっても、生活の中での経験や環境との関わりによる心の動きを、表情やしぐさや泣き声で表し、その心に様々なイメージや感触を蓄積していきます。
子どもは人や物、自然や社会事象と関わり、様々な感覚や感情を味わう中で、それらへの対応を自分なりに考えようとします。例えば、保育士等や友達との関わりの中で嬉しさや喜びを共有したり、悔しさや悲しみをぶつけ合ったりします。また、自然の不思議さに感動したり、動植物の世話をしたり、
その生死に遭遇するなどして感性を豊かにしていきます。
喜び、楽しさ、悲しみ、怒り、恐れ、驚きなど、目に見えない心の動きをイメージしたり、相手の感じ方を推測しながら具体的なイメージを描いていくことは子どもの想像力や感性を育てます。
保育士等は、一人一人の子どもの心に寄り添い、ごっこ遊びや表現遊びなどを通してイメ?ジを共有したり、それぞれのイメージを生活や遊びの中で生かしていくことが大切です。

⑤様々な出来事の中で、感動したことを伝え合う楽しさを味わう。
子どもは、日々の生活や遊びの中で、何か新しいことを発見したり、できなかったものができるようになったりすると、喜んで保育士等や友達に伝えようとします。それを伝え、表現することで感動を共有しようとし、自分の思いが保育士等や友達に伝わったことが分かると、更にその感動を深めていきます。人と共感する経験が積み重なることで、子どもは自分への自信や人への信頼感を得ていくのです。
保育士等は、子どもが見たこと、聞いたこと、感じたこと、考えたことなどを言葉で表現できるように時間や場を設け、自分の思いを素直に表現できる雰囲気をつくることが大切です。そして、子ども同士の伝え合いを大切にしながら、相手の気持ちに思いをはせたり、共感したり、認め合ったりする経験を重ねていくことが重要です。その中で、保育士等自身も自ら感動したことを表現するなど伝え合う楽しさを子どもと共有していきましょう。

⑥感じたこと、考えたことなどを音や動きなどで表現したり、自由にかいたり、つくったりする。
子どもは楽しいことがあると、歌を口ずさんだり、手をたたいたり、体をゆらしたりするなど身振りや動作、声や表情など身体全体で表現しようとします。そして、自分なりの方法で自由に表現することを楽しみます。こうした表現を保育士等や友達に受け止めてもらうことで、更に様々な方法で表現しようとします。
子どもは様々な方法を混在させて表現を楽しみますが、次第に特定の方法を中心とした表現が可能になります。それは絵画や製作であったり、音楽による表現であったりします。こうした子どもの表現活動が、子どもの自由な発想やイメージにより楽しく繰り広げられていくことが重要です。
保育士等は、子ども一人一人の表現を受け止め、そのおもしろさや発想の豊かさに共感し、その工夫を十分に認め、子どもが表現することの楽しさを味わっていくことができるようにします。また、子どもの興味や関心が湧くような動機付けや環境設定も重要です。

⑦いろいろな素材や用具に親しみ、工夫して遊ぶ。
子どもは、身の回りにある様々な素材に興味を持ち、その感触を味わい、並べたり積んだり、いろいろな物をたたいて音の変化を楽しんだり、様々に扱って楽しみます。さらに、自分なりの表現の材料として利用し、工夫を加えて遊ぶことを楽しんでいきます。小枝や木の実などの自然物をいろいろなものに見立てたり、空き箱や廃品を組み合わせて作ったり、それらをごっこ遊びに利用したりします。また、目的を持っていろいろな材料を組み合わせたりするなど、素材の特性を生かした使い方や組み合わせ方に気付き、遊びに取り入れようとします。
保育士等には、子どもが様々な素材や用具を利用してかいたり、つくったりすることを工夫して楽しめるよう、環境を整えておくことが求められます。
子どもが自分で素材や用具を選んで使えるようにしたり、季節感のある自然物の素材を用意しておくことも大切です。子ども達は様々な素材の適切な使い方を、試行錯誤を繰り返しながら学んでいくので、その様子を見守りながら、適切に援助したり、ヒントを与えたりすることも必要です。

⑧ 音楽に親しみ、歌を歌ったり、簡単なリズム楽器を使ったりする楽しさを味わう。
保育士等は、聴覚の敏感な幼い子どもたちにどのような音や音楽的環境を与えたら良いのかを、子どもの状態や発達過程に応じて考えていくことが必要です。心地よい音色や情緒が安定する音楽に触れて、子どもは音への関心や音楽への親しみを持つようになります。そして、歌を歌うこと、音楽に合わせて体を動かすこと、友達と一緒に踊ることなどを楽しみ、音の多彩さ、不思議さ、美しさに心を動かしていきます。また、きれいな音のするものや楽器に出会うと、音を出して、友達と一緒に音色を味わったり、簡単なリズム楽器を使ったりするようになります。その中で、音楽と自分の気持ちを重ね合わせたり、音楽を通して自分の気持ちを込めて表現するなどの経験をしていきます。
保育士等は、子どもにとって心地良い音楽、楽しめるような音楽との出会いを大切にしていかなければなりません。また、子どもの表現しようとする気持ちを大切にして環境設定を行うとともに、生活経験や意欲と遊離した特定の技能の習得に偏らないよう配慮することが必要です。

⑨ かいたり、つくったりすることを楽しみ、それを遊びに使ったり、飾ったりする。
1、2歳の子どもがクレヨンなどを手にして、なぐり描きを十分に楽しむことはとても大切です。なぐり描きの線がやがて円(まる)になり、子どもはそれを何かに見立てたり、その内側と外側に更に描きこんだりしていきます。
年齢が高くなるにしたがい、子どもは自分のイメージを表現するために、かいたり、つくったりします。また、かいたものやできたものを友達に見せて話をしたり、遊びに使ったりして楽しみます。このような経験を通して、自分のイメージを更に膨らませ、積極的に表現していきます。つくったものが遊びの中で、友達との共通のイメージを持つための道具として使われたりすることもあります。
保育士等は、子どもが自由にかいたりつくったりできるように、様々な材料や画用紙や描画道具などをいつでも取り出せる場所においておく必要があります。子どもがかきたい時にかく、つくりたい時につくれるような環境が必要であり、子どもの様々な表現に共感し、つくることの楽しさを子どもと共に味わうことが大切です。また、子どもがかいたり、つくったりしたものを丁寧に扱うとともに、その飾り方や提示の仕方に工夫を加えて、魅力的な室内環境にしていくことが求められます。

⑩ 自分のイメージを動きや言葉などで表現したり、演じて遊んだりする楽しさを味わう。
子どもは見たことや経験したことを動きや言葉などで表現したり、興味を持った話や出来事を再現してみようとします。例えば、電車に乗った体験をもとに電車ごっこを始めたり、お店で買い物をした体験をもとにお店屋さんごっこをしたり、大人の姿や動きをまねて役になりきって楽しみます。家庭での生活をまねたままごとなどの遊びも各年齢で繰り広げられます。これらの遊びを楽しむためには、子どもの観察力やその経験を振り返る力とともに、友達と一緒に共通のイメージを持つことが必要です。
年齢が高くなるにつれ、ごっこ遊びの中には劇遊びに発展していくものもあります。劇遊びは言葉や音楽、絵画や製作などと関連し、総合的な遊びや表現活動となり、その中で子どもは友達と共に充実感や達成感を味わっていきます。
保育士等は、子どものイメージがより豊かに引き出されるように、道具、用具、素材を十分に用意するとともに、コーナーやスペースを確保し、表現することが楽しめるよう配慮しなければなりません。また子どもの表現や演技を、子どもの内面の表れとして理解しようとすることも大切です。保育士等や友達に理解してもらうことで、その遊びが楽しくなり、更に表現しようという意欲が生まれていきます。
最終更新:2009年01月10日 21:28
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。