エ 言葉

経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し、相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養う。

(ア)ねらい

①自分の気持ちを言葉で表現する楽しさを味わう。
②人の言葉や話などをよく聞き、自分の経験したことや考えたことを話し、伝え合う喜びを味わう。
③日常生活に必要な言葉が分かるようになるとともに、絵本や物語などに親しみ、保育士等や友達と心を通わせる。

「言葉」の領域は、第1章(総則)3.保育の原理(1)保育の目標の「(オ)生活の中で、言葉への興味や関心を育て、話したり、聞いたり、相手の話を理解しようとするなど、言葉の豊かさを養うこと」をより具体化した「ねらい」として①から③までが示されています。
言葉をめぐっては、話すことと聞いて理解することが大切ですが、特に乳幼児期には言葉への感覚を豊かにし、言葉を交わすことの楽しさが十分に味わえるようにしていくことが重要です。そのためには、子どもが言葉や表情で表した気持ちをしっかりと受け止め、応えていくことが大切であり、保育士等との応答による心地よさや嬉しさといった「心情」が言葉を獲得する上での基盤となります。そうしたやり取りにより、子どもは更に自分の気持ちを伝えようとしたり、保育士等や友達の言うことを分かりたいと思うようになり、話すこと、聞くことへの「意欲」を高めていきます。
また、言葉の意味するものや話されたことの内容を徐々に理解し、言葉で伝え合うことの喜びや言葉により心を通わせる楽しさを味わっていきます。
言葉を話したり、相手の言うことを聞いたりする「態度」はこうした経験を積み重ねることにより身に付いていくのです。
こうした「ねらい」を達成するために、保育士等が援助して子どもが経験する事項を次の「内容」で示しています。

(イ)内容

①保育士等の応答的な関わりや話しかけにより、自ら言葉を使おうとする。
赤ちゃんは人の声に最もよく反応し、話しかける大人の顔をじっと見つめます。周りで物音がしたり、大人が話していたりするとそちらの方を見ますし、音に対してとても敏感です。また、自分の欲求を泣き声で表したり、感情をこめて様々な泣き方をするようになるとともに、その欲求を受け止め、かなえてくれる人の関わりにより、自ら声を出したり微笑んだりするようになります。そして、大人の微笑みに微笑みを返したり、喃語や片言を優しく受け止めてもらったりする中で、心の安定を得て、表情や発声を豊かにしていきます。
保育士等は、言葉を獲得する前の子どもの表情や姿をよく観察し、その場面に適した言葉をかけたり、子どもの発声を真似たりしながら、声を介した関わりを楽しいものにしていくことが必要です。こうした応答的な関わりがコミュニケーションの基礎となります。子どもは保育士等の声や言葉をよく聞き、口元や表情をじっと見ています。その中で、適切な発音への準備をしています。また、信頼できる相手に伝えたい、わかってもらいたいという気持ちが発語を促していきます。

②保育士等と一緒にごっこ遊びなどをする中で、言葉のやり取りを楽しむ。
子どもは玩具や遊具などを何かに見立てたり、保育士等や友達のしぐさをまねたりする中で、簡単なごっこ遊びを保育士等と楽しめるようになっていきます。そして、保育士等と心を通わせながら簡単な言葉を交わしたり、やり取りを重ねたりしていきます。保育士等が挨拶を交わしたり、返事をしたり、擬音語や擬態語を口にしたり、場面に適した言葉を話したりすることで、言葉への感覚を豊かにし、自らもこうした言葉を使おうとする意欲を高めていきます。
自分がしたいこと、して欲しいことなどを言葉で表現できるよう応答的に関わるとともに、言葉を交わすことの楽しさが味わえるようにしていきます。

③保育士等や友達の言葉や話に興味や関心を持ち、親しみを持って聞いたり、話したりする。
保育士等に名前を呼んでもらったり、友達同士で名前を呼び合ったり、人と言葉を交わすのは楽しいものです。こうした楽しさを味わうには、保育士等や友達との間に安心して話せるような雰囲気があることや、言葉を交わす相手への安心感と信頼感が必要です。この基本的信頼関係を基盤として、子どもは、保育士等や友達の言葉や話に興味や関心を持ち、自分の思ったことや感じたことを言葉に表し、言葉のやり取りを楽しむようになるのです。
保育士等は、子どもが安心して自分を表現することができるよう、温かな雰囲気で子どもの気持ちを受け止めます。そして、自ら話そうとする意欲を見守りながら親しみを持って接し、しっかりと視線を合わせて子どもの話に耳を傾けます。

④したこと、見たこと、聞いたこと、味わったこと、感じたこと、考えたことを自分なりに言葉で表現する。
子どもが言葉を獲得するためには、乳児の頃からの身近な環境との関わりや微笑や表情などによる人との相互的なやり取りが必要です。様々な気付きや感情が豊かに積み重ねられて子どもの言葉に結びついていくのです。
こうした経験の積み重ねにより、子どもは、自分の気持ちが揺り動かされると、誰かに伝えたいと感じるようになります。その気持ちが受け止められ、自分の思ったことや感じたこと、経験したことを言葉に表し、保育士等や友達に共感してもらうと、ますます伝えたい、言葉で表現したいという意欲が高まります。また、相手に分かるように言葉で伝えようとすることで、自分の気持ちを確認したり、考えがまとまったりするようになり、思考力の芽生えが培われていきます。
子どもは自分の経験や気持ちを自分なりに言葉で表現し、話を組み立てていきます。保育士等は、じっくりと子どもの言葉に耳を傾け、子どもが思いや考えを言葉で表現することを助け、良い聞き手となりながら、子どもが話したい、聞いてもらいたいという気持ちを十分に満たすことができるようにすることが大切です。

⑤したいこと、してほしいことを言葉で表現したり、分からないことを尋ねたりする。
子どもは生活していく中で必要なことが分かるようになると、自分がしたいこと、して欲しいことを言葉で表すようになります。それは、玩具を使いたい、保育士等に欲求を満たしてもらいたい、遊具や用具の使い方を知りたい、友達とのトラブルなど困ったことを解決してもらいたい等、多岐にわたります。また、好奇心や知識欲の高まりとともに、「なぜ?」「どうして?」と質問を繰り返し、保育士等に答えを求めたり、自ら考えたりします。保育士等は、子どもの気持ちに寄り添いながら疑問や質問に答えたり、一緒に考えたりしていくことが必要です。
また、友達との関わりを深め、一緒に遊んだり活動に取り組む中で、互い
に質問をしたり言葉での意思の疎通を図ったりしていきます。そして、自分の思いを相手に伝え、相手の思いを聞き、友達とイメージを共有することで、遊びを深めていこうとします。

⑥人の話を注意して聞き、相手に分かるように話す。
人の話を聞く態度を習得していくことは、たいへん重要です。人の話を聞き、その言葉を通して相手の気持ちや考えを理解することは、様々な場面で聞く経験を重ねることにより体得されていきます。それは、乳児期からの積み重ねであり、人への親しみの気持ちや相手への興味や関心が、聞くことを促していきます。そして、言葉によるイメージを持つことができるようになることで、人の話に共感したり、話の内容を理解することができるようになります。また、自分の話を十分に聞いてもらえることが、人の話を聞くことにつながっていきます。
話すこともまた様々な場面で話す経験を積み重ねることにより身に付いていきます。その過程において、幼い子どもは言葉で伝えることが難しいと、泣いたり、不機嫌になったりしますが、保育士等が子どもの気持ちを汲み取り、丁寧に対応していくことで、子どもは徐々に分かるように話したり、言葉を介して相互に理解し合うことの大切さに気付いていきます。
さらに、子どもは成長とともに、自分の気持ちを調整しながら相手に分かるように話したり、相手の言葉からその気持ちを汲み取ることができるようになり、保育士等や友達との会話を楽しめるようになります。そして、相手の話し方や話のおもしろさを味わいながら、自分も相手に伝わるように話し
たり、言葉を選んだりするようになっていきます。

⑦生活の中で必要な言葉が分かり、使う。
乳児が発する「マンマ」という言葉には様々な意味が込められていますが、いずれにしてもそれは乳児の生活に必要な言葉です。また、保育士等が乳児の欲求を言葉にして返すことを重ねることにより、徐々に欲求の意味や言葉との結びつきを理解していきます。また、「ちょうだい」、「どうぞ」、「ネンネ」
など、しぐさを伴う言葉を、幼い子どもは早くに覚え、使うようになります。
それらは子どもの生活に密着した言葉であり、子どもは身近な人と一緒に過ごす中で、自ら体を動かしながら言葉を獲得していきます。
成長とともに、子どもは保育士等とのやり取りの中で、あいさつや返事など、生活や遊びに必要な言葉を使うようになります。また、保育士等や友達と一緒に生活する中で、繰り返し聞いたり用いたりする言葉を理解するようになり、自分でも状況に応じて言葉が使えるようになっていきます。
保育士等は、子どもが生活する中で、日常使う言葉を十分に理解できるようにその意味するところを丁寧に伝えるとともに、それらの言葉に親しみ、子ども自身が言葉を聞いたり話したりできるよう援助することが大切です。

⑧親しみを持って日常のあいさつをする。
保育所で日常的に交わされるあいさつには、朝のあいさつや、帰りのあいさつ、食事のときのあいさつ、物を借りたり、何かをしてもらったりしたときのあいさつなどがあります。子どもは、温かく安心できる雰囲気の中で、身近な保育士等と心を通わせながらこのようなあいさつを自分でもしようとするようになります。
保育士等や友達と共に楽しく生活する中で、子どもはあいさつの習慣を身に付けて、相手への親しみをこめてあいさつを交わすようになっていきます。
保育士等は、自ら子どもや保護者を含めた周囲の人に対して、親しみを持ってあいさつし、明るく和やかな保育所の雰囲気をつくっていきましょう。

⑨生活の中で言葉の楽しさや美しさに気付く。
子どもは気に入った言葉が見つかると何度も使ってみたり、また響きの愉快な言葉を見つけると、友達と一緒に使いながら笑い合ったりします。保育士等が話す美しい言葉に惹き込まれたり、繰り返す言葉のリズムの楽しさや音の響きのおもしろさに気付いたり、自ら使って楽しもうとします。
保育士等は、生活の中で、子どもが言葉に親しむことのできる環境を整えるとともに、日頃から言葉への感覚を豊かに持つことが望まれます。また子どもが美しい、おもしろい、楽しいと感じていることに気付く感受性の豊かさも必要です。子どもの興味や好奇心を満たすような絵本や詩や歌などを通し、言葉の世界を味わいながら、子どもが言葉への豊かな感覚を身に付けていくことができるようにしていきます。

⑩いろいろな体験を通じてイメージや言葉を豊かにする。
子どもは自分が体験した内容を、生き生きとしたイメージとして心の中に蓄積していきます。こうしたイメージは、似たような場面や、ふとした刺激を受けて、子どもの心の中によみがえってくるものです。実体験と結びついたこうしたイメージを数多く心の中に蓄積していくことが、子どもの言葉の発達に結び付いていきます。
子どもの内面に身体感覚を伴う豊かなイメージが蓄積されていくよう働きかけながら、子どもの言葉への感覚や想像力を膨らませていきます。また、子どもの想像力や感覚の豊かさに共感を持って向き合い、子どもの感受性や言葉による表現を受け止めていきます。こうした保育士等の関わりが更に子どもの想像力や表現力を培っていきます。

⑪絵本や物語などに親しみ、興味を持って聞き、想像する楽しさを味わう。
絵本は環境の一つとしてたいへん重要です。子どもは、保育士等に絵本を読んでもらったり、自ら絵本を手にして楽しみます。そして、簡単な言葉を繰り返したり、模倣して楽しんだり、絵本の中の登場人物や物に感情移入したり、話の展開を楽しんだりしながら、イメージを膨らませていきます。
子どもの興味や発達過程に応じて、どのような絵本をどのように置いたり、扱ったりしていくのかを保育士等は吟味します。また、絵本だけでなくお話や童話、視聴覚教材などを見たり聞いたりする機会をつくりながら、子どものイメージの世界を広げていきます。そして、視覚に頼らず自分の心の中に自由にイメージを膨らませていくことができるよう、語りや読み聞かせを取り入れていくことも大切です。さらに、心の中に描いたイメージを言語化したり、身体表現など様々な表現に結び付けていく機会をつくっていくことが、想像する楽しさを膨らませていきます。

⑫日常生活の中で、文字などで伝える楽しさを味わう。
前項、ウ「環境」の(イ)、内容の⑪にあるように、子どもは日常生活の中で様々な標識や文字があることに気付き、興味や関心を高めていきます。そして、象徴機能として存在する標識や文字が何を意味するのかを保育士等との関わりの中で知り、認識を深めていきます。
最も早く認識する文字は様々な物に記されている自分の名前であり、その文字が自分自身を示していることに喜びを持ち、保育士等に呼ばれる名前と文字で表されている名前を照合させていきます。そして、友達や身の回りの人の名前や物の名前を覚え、それらを表す文字に興味や関心を抱いたり、いろいろなところに文字や記号を見つけ、確認していきます。また、絵本や自分の連絡帳、室内外の様々な表示や文字を見たりする中で、自ら真似て書いてみようとしたり、保育士等に書いてもらったりして文字に親しんでいきます。
お店屋さんごっこや郵便屋さんごっこのように、文字や記号のやり取りのある遊びを楽しみながら、文字などに親しみ、保育士等や友達と文字で伝え合う喜びが芽生えていくよう見守ることが大切です。また、画材や筆記具などの用具や室内の環境設定にも十分配慮していきます。
最終更新:2009年01月10日 21:27
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