イ 人間関係

他の人々と親しみ、支え合って生活するために、自立心を育て、人と関わる力を養う。

(ア)ねらい
①保育所生活を楽しみ、自分の力で行動することの充実感を味わう。
②身近な人と親しみ、関わりを深め、愛情や信頼感を持つ。
③社会生活における望ましい習慣や態度を身に付ける。

「人間関係」の領域では、第1章(総則)3.保育の原理(1)保育の目標の「(ウ)人との関わりの中で、人に対する愛情と信頼感、そして人権を大切にする心を育てるとともに、自主、自立及び協調の態度を養い、道徳性の芽生えを培うこと」をより具体化した「ねらい」として、①から③までが示されています。
人が人として人との関わりの中で生きていくこと、そしてその関わりの力を養い、子どもが周囲の人への信頼感を基盤に十分に自己を発揮し、充実感を持って生きていくことが重要であり、こうしたことがこの領域のねらいでもあります。
特に、人生の初期に人への基本的信頼感が養われることは重要であり、その信頼感に支えられて「保育所生活を楽しみ、自分の力で行動することの充実感を味わう」心情を持つことにより、様々な意欲や態度が培われていきます。それは、「身近な人と親しみ、関わりを深め、愛情や信頼感を持つ」ことであり、さらに人との関わりを通して、「社会生活における望ましい習慣や態度を身に付ける」ことでもあります。
乳幼児期の子どもにとって身近な保育士等や友達と楽しく過ごし、意欲的に活動していくことにより、自分も相手も大切にしようとする気持ちや人への思いやりが育つことはたいへん重要です。子どもは保育所での生活の中で、考えながら行動したり、友達と協同して遊んだりすることを通して徐々に社会性を身に付けていくのです。
こうした「ねらい」を達成するために、保育士等が援助して子どもが環境に関わって経験する事項を次の「内容」で示しています。

(イ)内容

①安心できる保育士等との関係の下で、身近な大人や友達に関心を持ち、模倣して遊んだり、親しみを持って自ら関わろうとする。
子どもは、特定の保育士等への安心感を基盤として、徐々に人間関係を広げていきます。
人生のかなり早い時期に、自分とよく似た子どもの存在を認め、同じものを見つめたり、同じ遊具を手にしたりしながら、徐々に保育士等が仲立ちとなり、同じ動作や身振りをしたり、友達に手を伸ばしたり、笑い合ったりするようになります。
友達との関わりが増えるにつれて、友達の様子を観察したり、一緒に遊ぼうとしたり、また、友達のすることに関心を持ったり刺激を受けながら遊びの幅を広げていきます。やがて、一緒に遊ぶことを喜び、友達と役割分担をしながら協力して遊ぶようになります。
こうした人間関係の広がりと深まりの基盤となるのは、常に子どもが保育士等や友達に受け入れられているという安心感と人への信頼感です。
子どもは、保育士等が様々な人とより良い関係を築こうとしているその姿をよく見ています。保育士等は子どもにとって最も身近な人的環境であるとともに、子どもにとってモデルとなっていることを常に心に留めましょう。

②保育士等や友達との安定した関係の中で、共に過ごすことの喜びを味わう。
子どもは、成長とともに徐々に友達と一緒に過ごす時間を増やしていきます。そして、友達と一緒に遊んだり活動したりする中で、共に過ごす楽しさを味わうようになります。その様子を見守ったり、援助したり、仲立ちしたりする保育士等の役割は重要であり、一人一人の子どもの友達への興味や関心、仲間関係などを把握する必要があります。
子どもが友達の様子を観察し模倣したり、一緒に遊ぶ喜びを味わうことは、社会性の発達を促し、ひいてはより豊かな人間理解へとつながっていきます。
また、子ども同士で遊ぶ体験を重ねることにより、創造力を発揮しながら、長時間にわたって組織的な遊びを豊かに展開していくようになります。友達や保育士等と共に過ごすことの楽しさを十分に味わうことが、乳幼児期には特に重要です。

③自分で考え、自分で行動する。
子どもが生活する中で、自分なりに考え自分でやってみようとすることは、主体的に生きていく力の基礎を培う上で重要です。きめ細やかな援助を受け、十分に依存したり、守られたりする経験を重ねた子どもが、安心して自己主張するようになり、自我を形成していきます。そして、人との関わりの中で自分の考えや気持ちをみいだし、自ら環境に働きかけ、活動を生み出していきます。
子どもは自ら行動することで、創造力を発揮したり、先の見通しを立てたり、期待や目的を持って、遊びや活動を発展させていきます。そうした姿を保育士等や友達に認めてもらうことで、自分とは異なる人の気持ちに気付き、その考えを聞き、更にもう一度自分で考えるようになります。子どもが、様々な遊びや活動の中で、試行錯誤を重ねながら、自分なりにじっくりと考えて行動することができるように、子どもの気持ちに寄り添って保育していくことが大切です。

④自分でできることは自分でする。
子どもは、安心できる保育士等との関係の下で、食事や排泄など生活に必要なことを自分でしようとするようになります。子どもが自分でできることの喜びや自信を持つことができるよう援助するとともに、できたことを褒めるだけではなく、自分でしようとする意欲や姿勢を十分に見守り、認めていくことが必要です。
成長の途上で、子どもは自分でやりたい気持ちがかなえられず、思い通りにいかないことで泣いたり、かんしゃくを起こしたりする姿も見られます。
反抗しながらも大人に依存するなど、子どもの自立は一直線に進むのではなく、大人への依存と自律を繰り返し、行きつ戻りつしながら成長していくものです。
子どもが自ら選択して行動できるよう、保育士等にはじっくりと待つ姿勢と発達過程への深い理解が求められます。

⑤友達と積極的に関わりながら喜びや悲しみを共感し合う。
子どもは自分と同じものに興味を示したり、同じような行動をしたり、同じ遊びをする身近な子どもの存在を、やがて「友達」と理解します。そして、友達と一緒に遊ぶことに喜びや楽しさをみいだし、関わりを深めていくことで仲間意識を持つようになりますが、その中で反発したり、競争心を持ったり、複雑な感情を経験します。けんかをしたり、自己主張し合うことも多くなりますが、共に過ごす中で徐々に互いの気持ちに気付いたり、相手の感情を理解していきます。
嬉しいときや悲しいときに、共に喜んだり、共に悲しんだりしてくれる友達の存在は子どもにとって心の支えとなります。子どもは友達とやり取りを重ねる中で、友達の喜びや悲しみに気付き、他者を思いやる気持ちを育んでいきます。

⑥自分の思ったことを相手に伝え、相手の思っていることに気付く。
子どもは、保育士等や友達との安定した関係が築かれることにより、自分のしたいこと、して欲しいことを主張するようになります。相手に自分の思いをぶつけ、その気持ちが受け入れられたり、受け入れられなかったりする経験を経て、徐々に、相手にも分かるように話したり、相手の言うことを理解しようとするようになります。また、遊びを楽しくする上で互いに合意することが大切だと気付いたり、対話を通してどうすることがよいのかを考えたりしていきます。子どもは、自己主張し合うなかから、自己抑制することを少しずつ体得していくのです。
子どもは共に遊んだり、生活したりする中で、相手の気持ちを理解するだけでなく、相手に分かるように話すにはどうすればよいかを考えていきます。
保育士等の言動は子どもが他者と関わる際のモデルになったり、他者と関わるきっかけとなったりすることに留意することも大切です。

⑦友達の良さに気付き、一緒に活動する楽しさを味わう。
子どもは様々な友達と遊ぶ中で、自分とは異なる思いや感情を持つ友達の存在に気付き、徐々にそれぞれの友達の良いところを知っていきます。友達の得意な遊びや性格、特徴など、自分と違う友達の個性を認めて様々な感情を抱くようになります。そして、人は皆違いがあり、違っていて良いことを実体験として感じ取っていくのです。また、遊びや活動に取り組むプロセスで、様々に自己主張したり、アイデアを出し合ったり、友達の考えや気持ちに耳を傾ける経験を通して、友達の良さに気付き、相互理解を図っていきます。
保育士等は、それぞれの良さを十分に認め、そのことを子どもたちに伝えながら、一緒に活動する楽しさを味わえるようにしていきます。

⑧友達と一緒に活動する中で、共通の目的を見いだし、協力して物事をやり遂げようとする気持ちを持つ。
子どもは幼い頃から友達の存在を気にかけ、次第に同じ遊具で遊んだり、顔を見合わせて笑ったり、名前を呼び合ったりします。そして、ままごとなどのごっこ遊びを楽しんだり、言葉を交わしながら様々な活動に一緒に取り組んでいくようになります。
また、子どもは徐々に目標や期待を持って活動するようになりますが、失敗を恐れて活動することをためらったり、試行錯誤する中、やり続ける気持ちが途中で衰えてしまったりすることもあります。そうした気持ちを、保育士等が敏感に感じ取り、子どもの気持ちを認め、励ますとともに、子ども自身が友達との関わりの中で意欲を高めていくことが大切です。途中であきらめず、友達と一緒に達成感や充実感を味わうことを通して、子どもは物事を最後までやり遂げようとする集中力や持続力を培っていきます。友達と活動する中で、共通の目的をみいだしたり、一緒に遊ぶ中で協力して遊びを発展させたり、子ども同士が力を合わせ取り組んでいく姿を保育士等は十分に認め、集団での活動が意義あるものとなるようにしていきます。

⑨良いことや悪いことがあることに気付き、考えながら行動する。
子どもは、自分や友達のしたことに対して、周りの大人や友達が様々に対応する姿やその言動により、物事には良いことや悪いことがあることに気付いていきます。特に、保育士等が自分の行動を受け入れたかどうかに基づいて、自分のしたことが良いことだったのか、悪いことだったのかを判断しようとすることがあります。保育士等は子ども自身が気付き、考えていく過程を見守るとともに、適宜、良いこと、悪いことを明確に示すことが必要です。
子どもは、保育士等の適切な援助を受けることで、相手の内面にも徐々に注意を向けることができるようになります。自分の行動が相手にどのように受け止められたかについて子ども自身が考えられるような働きかけが必要です。また、子どもが様々な感情を味わいながら、自分で考え判断していく経験を積み重ねていくことができるよう援助していくことが重要です。

⑩身近な友達との関わりを深めるとともに、異年齢の友達など、様々な友達と関わり、思いやりや親しみを持つ。
保育所は、0歳から6歳までの子どもが、共に生活しているところです。興味や関心の似通っている同年齢の子ども同士の関わりでは、自分の気持ちや欲求を出し合い、様々な遊びをつくり上げていきます。また、そうした活動を通して、友達との関わりを深めていきます。自分より年下の子どもに対しては、生活や遊びの様々な場面で手助けをしたり気持ちを汲んで慰めたり優しい言葉をかけたりするなど、思いやりの気持ちを持ったり、態度で示したりします。また、年上の子どもに対しては、大きくなることの喜びやあこがれを持ち、自分が困っている時などに優しくされた経験があると、年下の子どもに同じように優しくしてあげようという気持ちを持つことでしょう。
このように、保育所の生活において、子どもは異年齢の子どもとの関わりを通して様々な感情を経験し、自分とは異なる存在を受け止めていきます。
保育士等は、このような経験が相互によいものとなるように、環境を設定したり、異年齢での活動を積極的に取り入れていくことが大切です。

⑪友達と楽しく生活する中で決まりの大切さに気付き、守ろうとする。
保育所の生活の様々な場面には、順番を待つなど、生活や遊びをスムーズにするための決まりやルールがあります。
子どもはまず、保育士等の関わりや言葉がけにより、このような決まりの存在に気付きます。また、保育士等に助けられて決まりの意味を理解したりしていきます。年齢が高くなるにしたがい、友達と一緒に簡単なルールのある遊びを楽しむ中で、次第に決まりを守ることができるようになります。また自分と友達の欲求や思いがぶつかりあった時には、決まりに従うことで解決に結びつきやすいことにも気付いていきます。保育士等は、状況をよく把握しながら、子どもたち自身が様々な感情を表しながら、ルールを作ったり、ルールを変えたりなど仲間の中で調整したり、工夫したりする姿を見守り、必要に応じて援助します。
子どもはこうした子ども同士のやり取りや集団での活動の中で、徐々に規範意識を身に付けていくのです。

⑫共同の遊具や用具を大切にし、みんなで使う。
保育所の中には、友達や仲間と共に使うものがたくさんあります。保育士等と共に遊具を使って楽しく遊ぶ経験をしたり、物の名前や役割を知ったりする中で、遊具などに親しみ、それらが自分にとって大事なものになっていきます。遊具などに愛着を持ち、大切に取り扱う保育士等の姿は子どもにも伝わることでしょう。
また、子どもは友達と共に一つの遊具で遊んだり、みんなで使って遊ぶ楽しさを味わったりすることを通して、遊具が遊びをおもしろくすることやその活用の仕方を理解していきます。保育士等は遊具や用具を介して子どもの遊びや生活が広がり、友達との関わりが深まっていくことにも留意し、そうした中で共同のものを大切にしようとする気持ちや態度が育まれていくよう環境を整えていきます。

⑬高齢者を始め地域の人々など自分の生活に関係の深いいろいろな人に親しみを持つ。
都市化や核家族化が進行する中、世代間の交流が乏しくなった現代では、子どもが高齢者などと触れ合う機会が少なくなっています。こうした状況の中で、保育所に高齢者や地域の方を招き、伝承遊びを教えてもらったり、昔話を語ってもらったり、伝統芸能などを披露してもらったりすることは、人に対する親しみや感謝の気持ちを育む上で、重要な機会です。こうした人々との触れ合いを通し、子どもが様々な文化に出会い、興味や関心を持ったり、自分の家族や身近な人のことを考えたりするきっかけとなることも大切でしょう。
また、子どもは、散歩などの機会に地域の人と挨拶を交わしたり、地域の高齢者施設などを訪れたりする中で、人への関心を深め、人は周囲の人と関わり、支え合いながら生きていることに気付いていきます。

⑭外国人など、自分とは異なる文化を持った人に親しみを持つ。
異なる文化を持つ人々の存在は、近年、ますます身近になってきています。
保育所においても、多くの外国籍の子どもや様々な文化を持つ子どもたちが、一緒に生活しています。保育士等は、一人一人の子どもの状態や家庭の状況などに十分配慮するとともに、それぞれの文化を尊重しながら適切に援助することが求められます。また、子どもが一人一人の違いを認めながら、共に
過ごすことを楽しめるようにしていきます。
保育所の生活の中で、様々な国の遊びや歌などを取り入れたり、地球儀や世界地図を置いたり、簡単な外国語の言葉を紹介していくことも、子どもが様々な文化に親しむ上で大切なことです。
異なる文化を持つ人との関わりを深めていくことは子どもだけでなく保育士等にとっても重要であり、多文化共生の保育を子どもや保護者と共に実践していきたいものです。
最終更新:2009年01月10日 21:24
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