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コールセンター誕生秘話
最終更新:
匿名ユーザー
コールセンター誕生秘話
2004年04月09日
コールセンター誕生秘話(1)
ドアを開ける。
それがいとも簡単なように見えるのは開けちゃった後の話ですよね。
最初にそれを開ける奴がいないと、ヘタすると皆は壁だと思い込んでしまってたりする。
そんで、最初に開けた奴は必ず皆から、眩しいとか寒いから閉めてくれとか言われるし。
もちろん、ドアを開けて出て行っても誰もついてこないし。
でもさ、ドアの向こうで楽しくやってるうちに、一人二人と出てきはじめるんだなこれが。
イノベーションなんてそんなもんなのかもな。
そのドアを開ける鍵(キーパーソン)はあなたかもしれないですよ。
では、私が蹴破ったドアのお話をしましょう。
役所でコールセンターをやるという話。「は?」って感じ。
当時は、庁内の親しい仲間でも首をひねってたし、民間ベンダーでも「日本じゃ無理」とか「それより電子申請」みたいな感じでしたね。
「絶対うまく行かない」「どーせ失敗する」これが風評。
お、まさにいい感じ。やろうって言ってるのは俺一人?(ヤバイかも・・・)
それがこのエピソードのスタートです。
正直言って、本当に大変でした。くやしい思いもたくさんしました。
で、できあがったのがコレです。
札幌市コールセンター「ちょっとおしえてコール」
http://www.city.sapporo.jp/callcenter/
今日からこの日記連載を引き継ぎました、札幌市の北川です。
日本初の自治体コールセンターができるまでの、今だから言える苦労話を書いていきますので、しばらくお付き合いください。
今日はプロローグなので、自己紹介をしますね。
・北川憲司(きたがわけんじ)
・札幌市企画調整局情報化推進部IT推進課CRM担当係長
・二日酔いが顕著になってきた34歳
・好きな言葉は「義を見てせざるは勇無きなり」と「世界に変化を望むなら、まず自らがその変化になれ」
・自慢できることは「気のいい飲み友達が多いこと」
・欠点は「人の話をまるで聞いていないこと」
・おかげさまで沢山の人に支えられて何とかやってます。
・ホームページなんかもあります(宣伝) http://kitnet.info/
さてさて、それでは月曜日から本格連載開始です。
日記なので、カッコつけないで素のままでやりますね。さー、全部吐いて楽になろうかな(笑)
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◆◇◆今日のまとめ◆◇◆
「無理かな?と思ったけど、やったらできた!」
2004年04月12日
コールセンター誕生秘話(2)
それは、コールセンターとかCRMなんてまるっきり頭になかった頃の話。
国のIT戦略に先駆けて札幌市のIT戦略を作ろうと、あるコンサルタントと打ち合わせをすることに。
その打ち合わせこそが、札幌市コールセンターを生んだといっても過言ではありません。
それまで行革のお仕事を5年ほどやってきていた私は、いつも「なぜうまくいかないんだろう?」「なぜ行革は昔から同じことの繰り返しなんだろう?」と当時悩んでいました。庁内からも「また管理部門の行革ごっこに付き合わされるのか~」という声がいつも挙がっていました。
その頃(1999年夏)、たまたま情報化推進部のスタッフと文書の電子化について打ち合わせをしていくうちに、「ひょっとしたら、ITは経営レベルの問題じゃないか?これは全庁で戦略作りにとりかかるべきだ!」と思い立ち、管理部門に声をかけ、トップに話を持ちかけ、戦略チームがつくられることになり、担当者で唯一その戦略策定スタッフに加わることになりました。
その頃はまだ、ITというだけで勢いがあり、私も何か革命が起こるような期待感を持っていました。
「今度こそ本気の改革ができるんじゃないだろうか?」「今までの失敗のリベンジだ!」
そう感じた私は、それまでに積み重ねてきた経験をフルに生かして、全力でIT戦略づくりに取り組んだんです。とは言っても、実は当時の私はITなんてまるっきりシロウト!パソコンも初めて買ってまだ1年経ってない状態。勢いって恐ろしいものです(笑)
そしてある日、コンサルタントと私が2人で戦略の骨子について話し合うことになりました。
その時、彼は驚くべきことを口にしたのです。
「北川さん、大事なんはパソコンじゃなく、電話やと思いません?」
これからIT戦略を作ろうと言ってるのに、なぜこの人はこんなこと言うんだろう?!正直そう思いました。
「だってね、役所に来るおばあちゃんとか、電子申請なんて使えないでしょ?絶対電話ですよ。」
いや、まあ、確かに言ってることは正しいと思うが、IT戦略の前提からひっくり返っちゃうなぁ。
「電子市役所だけじゃなく、電話も使いましょうよ。電話でいろんな申請ができたら便利やと思いません?」
う~ん、確かに便利だと思うけど、そこまでしてお金かけてサービス良くする必要あるのかなぁ?
「北川さん、じゃあ、役所のミッションって何なんですか?」
そ、それは市民サービスを向上させて・・・と私がモゾモゾ言った途端に「じゃあ、問題ないじゃないですか~」とメチャ強気で押してくる。でも、こっちも全然イメージがわかない。半信半疑。そんなこと言ったって、役所にはいろいろ複雑な電話がかかってくるんだし、苦情だってくるし、電話だけで申請が済まないものが多いから皆さん役所に来るわけだし、と何故か「できない理由」を並べる私(笑)
そう、この頃の私はまだ純情な役人だったのであります!
そんな会話を10分くらいしてるうちに、ふと自分が「お役所」的思考に陥り、「できない理由」を考え、心を閉ざし始めていることに気がついて、『なんか俺ガサいなあ・・・』と思ったんですよ。
このままじゃ役所は変わらんだろう。まず目の前のパートナーを信じないことには始まらない。
いま、この人と、この仕事と向き合うことをやめて逃げてはイカン。
とにかく役所の原点に戻って、根本から考えてみようと開き直っちゃったんですねえ。
いやあ、ピンチこそステップアップのチャンスってやつですね。
そこからです。海外のコールセンターやCRMの導入事例をよく目にするようになり、徐々に理解を深め、CRMを戦略のバックボーンに据えようと考えるようになりました。
また、自分でもビジネス本を読み漁ったりして、過去の失敗から「役所が改革できない理由」を見極めようと思うようになりました。それまでほとんど本を読まない人間でしたが、なんだか洞窟の出口が見えてきたような気がして、仕事のための勉強が楽しくて仕方がなかったことを覚えています。
もちろん、札幌市版のCRMのスタイルが確立するのは、これよりもっと先の事です。
しかし、この打ち合わせの1か月後、私は当時の市長にこう言われました。
「IT、ITと言っても、札幌市が大事にすべき相手は、お年寄りとか体の不自由な方とか、パソコンを使わない人たちの方が多いんじゃないかね。そういう人たちにもメリットがあるものをつくらないといけない。」
あ、やっぱりこの方向性はイケるって確信しましたね。
しかも「札幌市IT経営戦略」の非常に重要なシナリオがこの頃できつつあったのです。
それは・・・(つづく)
北川 憲司
http://kitnet.info/
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◆◇◆今日のまとめ◆◇◆
「すべてはたった一人との出会いから始まった」
2004年04月13日
コールセンター誕生秘話(3)
役所を変える
そのことを考えるとき、あなたは何をどういう状態にしたいとイメージしますか?
私は戦略策定当時まで、ずっと行革部門に長く居たためか、新しいマネジメントシステムを導入すべきだとか、運動論によって職員の意識が変わらなければならないとか考えるのが当たり前だと思っていました。
しかし、そこには致命的な欠点があったのです。
自己反省をして考えると、それら管理部門の思考パターンは、どうしても内部改革に重点が置かれがちなんですよね。サービスアップ方策は、各サービス部門が考えることだ。そんな風にすら考えていたかもしれません。全然、顧客思考じゃないし、現場主義でもない。管理部門の自分のことしか考えてないみたい。
でも、役所に根深く染み付いた「お役所文化」は、どんな取り組みもその内部の論理で自壊させてしまう恐ろしいものだったりします。先送り、形作り、建前論、縦割り主義、秘密主義、変化の拒絶・・・そういった文化の中で、いかなる新しいシステムも定着には相当の時間と苦労を要しますよね。(役所の内部抗争には私もホント嫌になりましたよ。結果誰もハッピーじゃないし・・・)
職員参加による運動論も、キャンペーン効果が持続するのはせいぜい1年が限度でした。一生懸命検討して、計画をつくって、発表したら異動して(よくある!)、実行する人たちに引き継がれず、過去の反省が生かされず、相変らず10年前と同じテーマをループしてしまう。ああ、何度そんな失敗を目の当たりにしたことか・・・(ToT)
内部改革は非常に重要なことなんですけど、こういった環境のなかでは非常に「燃え尽きやすい」取り組みだといえます。燃え尽きないためには、客観的な成果と賞賛が必要なんだと思うんです。
頑張ってコストを落したことに対する賞賛、市民の満足度を向上させたことに対する評価、そういったプラスのサンクションが薪をくべるように補給されなければ火が燃え盛るどころか、燃え尽きてしまうのも当然ですよね。誰だって働いてて「よくやったな!」って言ってほしいもん。ところが、内部改革はなかなか外から成果が見えにくく、表面に変化が表れてくる前に改革期間(せいぜい3,4年でしょ?)が終わってしまうんですよ。バランススコアカードを導入しました!と声高に宣伝しても喜ぶ市民は一人もいないでしょう?(笑)
この欠点に気づいたのは、電子政府、電子自治体というものを批判的に見始めてからでした。最初からなんか胡散臭せぇな~と思ってたんですよね(笑)
政府や自治体は「一生懸命やってます」「世界一を目指します」と言ってるけど、いつまでたってもインフラづくりばかりで、電子申請すらロクに始まらない(一生懸命検討してますけど、と一応フォロー)。利用者つまり市民から見てる分には、何も変化がないんですよ。変化がないと期待しなくなりますよね。期待されてないと盛り上がりません。すると、せいぜい実績の「形作り」で報告書をまとめて終わりになってしまいます。
そこで!札幌市のIT経営戦略の成功シナリオとして、市民から見て「札幌市は変わった。良くなった。」と変化が実感できる取り組みをやろうって決めたんです。そうすることで、市民に期待感が生まれ、良い外圧となっていきます。メディアやキーパーソンが応援してくれるようになるんですね。子どもが褒められて俄然がんばるようなイメージです。市民に褒められれば「燃え尽き症候群」も予防できますし、トップからも認めてもらえます。そしてもっと褒めてもらおうと、好スパイラルが回り始めます。
これは現場にとっても「やらされ改革」の内部改革に比べて、お客様の反応が直接返ってくるので心理的変化(意識改革)を起こしやすいと言えます。褒められる仕事は楽しいよね!
つまり、札幌市の変革シナリオは、まず顧客接点改革によって、市民の期待感を高め、その外圧を利用して内部改革をじっくり進めようというものです。現場の職員にとっても、仕事のやり方をちょっと変えることで明るい気持ちになれるので、説教を受けるよりずっと意識改革につながり、その結果もサービスアップとなって表れるので好循環を起こすというわけです。
さて、じゃあ市民にとって何をやれば最も「市役所変わったね」と言ってもらえるのでしょう?
それは、何十年もお役所仕事の象徴として言われ続けたにも関わらず改善されてこなかったある現象、そう「たらい回し」をなくすことです。しかも、それをパソコンを持っている人にしか変化を体感できないWebで行うのではなく、誰でも気軽に使える電話でやってしまう。
これ以上に役所の変化を実感させられるものがあるでしょうか?(と、私は一人で盛り上がった^^;)
銀行などが良くやるように、社名やロゴマークを変えたり、店内の内装や社員の制服を変えたりしても「変わったような気分」になることはできますが、顧客のエクスペリエンスを変えるには至りません。
私がコールセンターに強い思い入れを持ったのには、実は、こういった変革シナリオが背景にあったからなんですよ。
北川 憲司
http://kitnet.info/
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◆◇◆今日のまとめ◆◇◆
「見られることで美しくなりましょう」
2004年04月14日
コールセンター誕生秘話(4)
この日記でもそろそろちょっとアブナイ裏話を披露しようかと思います。
その前に一人のキーパーソンを紹介しなければなりません。
この人がいなかったらコールセンターは実現しなかったと私は断言できます。
その人は、札幌市のCIOである福迫助役です。
CRMを真に理解し、自治体CRMのゴールのビジョンを明確に持っている稀有な方です。
たまに、私に「これを読んでください」と雑誌のCRM記事のコピーを送ってくれたりもします(笑)
コールセンター構築から現在に至るまで、幾多のピンチを乗り越えられたのは、CIOの強い信念があったればこそなのです。
さて、コールセンターをやりますと言っても、単なる便利電話をつくって終わりなら話は簡単なんですよ。
でも、その背景にCRMの考え方がしっかりしてないと、役所は変わっていかないし、サービスも劣化していくだろうし、市民からあんな高い評価を得ることは難しいと思います。
とはいえ、当時、庁内でCRMだコールセンターだと言っても、「何じゃそりゃ?」という世界で、誰一人耳を傾けてはくれない状況だったから、積み上げ式で下から提案したところで、どこかで潰されてしまうのは目に見えていました。
そこで、私と助役は相談して、13年度に開催された「IT推進会議」という主要局長が参加している会議で「IT推進会議方針」なるものを助役に出してもらったんです。
実はこれ、札幌市のホームページに公開しちゃってます。生々しいから見てみてちょ(笑)※もちろん私が書いてます。
http://www.city.sapporo.jp/johoo/itkeiei/ithoshin.pdf
そこには、【取り組み姿勢】として「先延ばしや形づくりではなく、全庁あげて本気で改革に取り組む。その際、数値による効果指標を設定し管理する。」と明言してあって、守旧派の逃げ道が見事に封じられています(笑)
【優先順位】では「14年度は庁内外にインパクトのあるCRMに取組む。」と宣言されてて、しかも【取組手法】として「CRMなどは民間先進事例をサポートしてきたプロを外部登用(アウトソーシング)して行なう。」と記され、体制面では、「助役直轄プロジェクトチーム」という札幌市史上異例の位置づけの元、それに関わるスタッフも庁内から公募で集めることが決まりました。
これはかなりガツンとインパクトのある庁内文書でしたよ。このときの会議のピリピリした雰囲気は今でも覚えています。実際この方針があったからこそ、実現にたどり着けたと思います。トップが腹をくくらないと、CRMやコールセンターのように全庁を巻き込んでの大きな取組は不可能なんですよね。(助役にもそうお願いしました。)
当時の状況を説明すると、実は、札幌市のIT経営戦略は、12年度末に完成したために、13年度はスタッフも予算もついてない状態で、ほとんど動きがなかったんです。そのせいで戦略の勢いは衰え、スタッフもやる気が減退してて、私は非常に危機感を抱いていました。その危機的状況を訴えるべく、当時の戦略策定の中心的パートナーだった都市経営室の課長さんとともに足しげく助役の元に通い、なんとかしようと作戦を考えていたんです。(2人で入ってたのは、1人だと独断専行だと言われて足元をすくわれるからでした。2人だと少しは公式っぽく見えるので。)
当時、私はまだ行政部総務課というところに、まだ担当者でいましたので、情報化推進部でもない2人が助役と一緒に作戦を練っていたのは、役所のルールからすれば異様な光景でしたね。ラインの係長から局長までブっ飛ばして直接交渉してましたから。
おかげ様で「助役は北川に騙されている」とまで陰口を叩かれ悔しい思いもしました。でも、3人ともただ札幌市の未来がかかってるんだって、もっと大事な事のために動いているという意識だったので、大人しくはしていませんでした。助役もそんなことは気にするなと言ってくれてましたね。スゴイ上司です。
当時はね、数値目標も、コンサル契約も、庁内公募にも反対しているエライ人がたくさんいたんですよ~
いや~、今思うとあん時は綱渡りだったなぁ。よく頑張ったねって、当時の情報化推進部の推進派の仲間からは言われましたよ。当の情報化推進部の内部にすらオヨビ腰の人たちがたくさんいたんだから(笑)
北川 憲司
http://kitnet.info/
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◆◇◆今日のまとめ◆◇◆
「一人では役所は変えられない。君は一人じゃない。」
2004年04月15日
コールセンター誕生秘話(5)
コールセンターをやろうとする上で、最も精神的にマイッタのが予算査定でしたね。
まず、予算要求権があるのは情報化推進部だったんですけど、事業の必要性を説明するために当時行政部にいた私もヒアリングに同席してたんです。
当初要求額は2億円。もちろん国からの補助金は一切なし。すべて一般財源で要求しました。
霞ヶ関に参勤交代して補助金もらってくるという国・地方の関係が嫌だったし、本当に大事な事業は一般財源でやるべきだと思っていたので。今考えるとちょっと無謀な額ではありますが(笑)※ホントはシーベルってメジャーなCRMパッケージ買うだけで2億吹っ飛ぶんだけどね。
で、そのときの財政の査定担当は超敏腕の財政エース係長だったんです。私としては前から知ってた人だし、この人なら分かってくれると思っていました。その人は遡ること数年前、東京事務所にいた頃に「これからはコールセンタービジネスの誘致が産業振興策の狙い目だ!」と私に教えてくれた方で、実際その後、札幌市は沖縄と並んで日本でも有数のコールセンター企業誘致都市になったっわけ。そういう人だから、コールセンターの良さも価格構造もよくわかってるのですよ。
それでも査定は非常に厳しいもので、私の熱弁も空しく、回数を重ねる度にどんどん削られていくんですよ。
単年度で費用対効果出せって言われても、軌道に乗るまでは難しい施策だしね。戦略全体でトータルで複数年分査定してほしいってお願いもしたんだけど、前例がないということで無理でした。コールセンターと電子申請とかを組み合わせると効果は絶大なんですけどね。どうしても査定のときは細かく一件査定でチクチクやられちゃうんですよね。※ちなみに現在は局枠の中である程度局の自由度が高まっています、とフォローしとく。
もうその頃は、毎日帰りの車の中で、迎えに来た嫁さん相手に「もうこんな会社辞めてやるっ!」と愚痴ってましたね(笑)
それでもなんとか最終的に1億円を係長段階の査定で獲得!その係長はやはりよくわかってる人で「どうせやるなら、インバウンドだけでなく、アウトバウンドで督促電話をかけて歳入増に貢献してくれるなら金はもっとつけてあげるよ」なんて言ってくれてました。残念ながら、当時は税にも国保にもフラれてしまいスグにはアウトバウンドは実現しそうになかったんですけど。
まあ私も、とにかく1億円で何とか実現してしまえば、あとは市民の評価を味方につけて次を戦えばいいやと楽天的に開き直ってました。その後も、財政課長、財政部長と1億円のままOKが出て、さすがエース係長が認めたものは上司の信頼も高いんだな~と妙に感心していました。
ところが!事件は起こりました。
当時、総務省から派遣されていた財政局長が、IT推進会議の段階から感触が悪く「私はコンサルとか外部委託とか嫌いなんですよ」って言ってたんですけど、案の定、ゼロ査定を出してくれました。ギャー!
その知らせを聞いた夜はもうヤケ酒っスよ。なんで札幌市の経営戦略として決めた事業で、しかも助役の方針が出ていて、14年度の最重要課題としてIT推進会議で決定したものがゼロ査定なの?!ありえなーい!
で、財政の係長も心配してくれたんだけど、なかなか査定をひっくり返すのは困難ということであきらめざるを得ない状況でした。
しょんぼりして、助役に敗戦報告に行きました。しかし、ここで無理して通したとしても、庁内に禍根が残るだけだし、もう一度作戦を練り直して、来年また頑張るか~というところまで私の気持ちは既に整理していました。
私の力が及ばず予算が取れなかったこと、助役に申し訳ないと謝りました。
ところが、物語はここでは終わりませんでした。
CRMに強い情熱を持っていた助役が財政局長と直接交渉をしてくれたのです。両者のタイマン勝負では相当激しいバトルがあったようです。その光景を我々一般ピーポーが見聞きすることはできませんが、最終的には市長のところまで話を持っていって、助役と財政局長で市長に詰め寄ったそうです。
そして見事、奇跡的に予算がつきました。最初は5千万だけでしたが、足りない!ということで再度助役が交渉をしてくれて、最終的に8千万円がつきました。マネー成立です。神様ありがとう~!!
「ノーマネーでフィニッシュです」のところから土壇場の大逆転でした。現在でこそ、日経情報システム大賞電子政府賞を受賞したり、いろんな雑誌で取り上げられて、助役にそういう報告すると、必ずこの頃の苦労話が出てきます。「いやぁ、あのときは大変でしたねぇ~」そう、あのときの助役の強い意志がなければ、今でも日本に自治体コールセンターは誕生していなかったと思います。
それにしてもね、結果的とはいえ、こういうアグレッシブな施策に一般財源で1億近い予算をつけてくれる札幌市役所ってスゴイなぁって、冷静に振り返ると思いますよね。今は、財政に少しでも恩返しのつもりで、札幌市の財政危機を救うべくコールセンターが起点となったBPRの提案を作っている最中です。(実は数十億単位の効果額を試算計上している私の切り札なんですけど、この話はまだ言えましぇーん^^;)
現在、コールセンターを検討中のいくつかの政令市でも予算は本当に厳しいみたいですね。
みんな頑張ってください!私のような気苦労はしないで済みますように祈っております。
北川 憲司
http://kitnet.info/
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◆◇◆今日のまとめ◆◇◆
「もうダメだと思ったとき、そこからドラマは始まる」
2004年04月16日
コールセンター誕生秘話(6)
今回は札幌市のCIO(最高情報責任者)である福迫助役のエピソードを紹介します。
言わずと知れたCRMプロジェクトチームのオーナーであり、札幌市IT経営戦略の最高責任者、IT推進会議議長である助役は、元北海道大学工学部長をされていた方で、13年度から札幌市助役に就任されました。
北大工学部というところは、札幌のITベンチャーを生み出したITと縁の深い学部です。そこで、まさにCIOに適任ということになったんです。
CIOは就任後、早速、民間企業の視察などを積極的に行い、企業のIT担当者に直接話を聞くなどして自分なりの視座を固めていらっしゃいました。大学を通じた韓国や中国とのパイプもあり、ITを通じたアジアの産業交流にも力を入れています。まさに産学官の連携におけるキーパーソンといえる人物です。
「e-Silkroadウェブサイト」
http://www.e-silkroad-web.com/
そんなCIOは鹿児島県出身の九州男児。芋焼酎がお好きで気さくな人柄の奥底には強い信念と男気を持った方です。CRM、コールセンターにかける情熱は並ならぬもので、ご自分の名刺にコールセンターのPRシール(プリクラ大のシール)を貼って、トップセールスをしてくださっています。
広報誌にシールを付録でつけたらどうか、とか、PRカードを各局長さんにもどんどん配ってほしいなど、コールセンターのキャンペーンにも自ら積極的にアイデアをくださいます。
以前、私がPRのためにコミュニティFMに出演してたのを、偶然CIOの奥様がお聞きになっていらしたことがあり、すごく嬉しそうにそのことを私に教えてくださったこともありました。
プロジェクトが発足して間もない頃、私には忘れられない出来事がありました。
助役室でコールセンターの構築計画をご説明にあがったときのこと。
一通り説明が終わって私たちが退席しようとしたときに、CIOはサッと我々の方に歩み寄り、私の手を両手で強く握ってこうおっしゃいました。
北川さん、思いっきりやってください。遠慮せずに。
もし何かあったら私が責任取りますから。
何かあったら何でも言ってください。
その目から、握った手から、熱い気持ちが流れ込んで来ました。
思わず私は大きい声で「ハイッ!!」と返事をし、最敬礼をしました。そのときCIOも深々と頭を下げておられました。
こういう人の下で働くのが夢でした。役所の中でこんなことを言われたのは初めてでした。
出る杭よろしく、私のことを庁内でよく思ってない人がいることもCIOはわかっていたはずです。
だから尚更、この時期この言葉は本当に嬉しかった。この人のためにも絶対に成功して喜ばせてあげたいと思いました。だから、今までにもらった賞の楯などはすべて助役室に飾っていただいてます。
ちなみにCIOの腰の低さは庁内でも多くの職員に有名です。
ところで、札幌市では今年度から助役に大幅な権限委譲が行われ「副市長」という呼び名に変わっています。
現在の私の悩みは「福迫副市長」というのが呼びづらいことです(笑)
北川 憲司
http://kitnet.info/
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◆◇◆今日のまとめ◆◇◆
「信じてくれる人がいると、仕事に魂がこもってくる」
2004年04月19日
コールセンター誕生秘話(7)
今回はお勉強の話。でも私は勉強が大嫌い。
特に本を読むのが苦手です。2ページぐらい読むと眠くなります。でも今回だけは相当勉強しましたね。
さすがに自分で作ったチャンスです。このチャンスを活かして自治体を変えられるかもしれないと思えば、そりゃ勉強もしますよね(笑)
戦略を作ってからしばらくは、人材バンクの開発や予算要求や文書管理システムの研究などで忙しく、CRMの勉強はほとんどできてなかったんだけど、さすがに係長試験に合格して、自分がCRM担当係長になるとわかったときからは(ほとんど一夜漬けっぽいけど^^;)一生懸命勉強したんですよ~
まず、民間のCRMを勉強しないといけないので、片っ端からWebでCRMに関する情報を見て回りました。いやホントにインターネットって便利ですね。おおよその知識はWebで無料で手に入る時代だもの。
IBMのサイトが結構良くできてたのを覚えています。あとは日経系のサイトには相当お世話になりました。CRM特集も非常に多く助かりましたね。特にいろんな企業の導入事例なんかは。
その後は本を読みましたね。これもアマゾン.comを利用して良書を探しました。(ちなみに、アマゾンのコールセンターは札幌にあるって知ってた?そのキーパーソンにもうちのセンターづくりにいろいろとアドバイスをもらってるんですよ。)
シロウトにとって最もわかりやすかった本がこれです。
「図解よくわかるCRM」藤田 憲一 著 日刊工業新聞社 1680円
これは本当にいい本でした。ここから得たインスピレーションが、自治体CRMの概念を生んだと言っても過言ではありません。それくらいCRMの本質に踏み込んだ内容だと思います。コールセンター構築を考えている自治体の方々は必読ですよ!
次に読んだ本は、コールセンター業界の専門用語を覚えるために買った本で、基本的な業界の実態を理解する上で役に立ちました。
「『コールセンター』のすべて―企画から運用まで」菱沼 千明 著 1890円
これを読んでおかないと、テレマーケティング業界の人たちと話してても何を言ってるか理解できませんでした。LTVとかIVRとかACDとか業界の常識用語も一般人には全く理解できませんよね。
そして、個人的にはこれを読んで「ああ、民間も行政もCRMのゴールは同じところに行き着くんだな」と思ったのが、CRM本で最も売れたといわれるこの本です。
「CRM―顧客はそこにいる」アクセンチュア 著 2520円
ちなみに、この本のガバメント部分を執筆している人が、札幌市のIT経営戦略を一緒に作ったパートナーです。もちろん、この本の中でも札幌市のことを触れてもらっています。
私のオススメ本は以上の3冊ですが、今はもっと多くの本が出版されていますし、行政系、IT系雑誌でもCRM特集が増えてきていますので、いろんな人の意見を読んでみるといいと思います。かくいう私もこれまでに5,6誌に論考を寄稿してますので、ぜひ読んでみて下さい。でもこの日記ほど暴露はしておりませんので(笑)
戦略を作ってたころからそうでしたが、もう本当に24時間仕事のことばかり考えていました。ふとんに入ってからもいろんなアイデアが浮かんで、夜中に飛び起きてはPCを立ち上げ、職場にメールを送る(そして嫁に怒られる^^;)。普段は財布の中に入る小型の手帳を持ち歩き、何かアイデアを思い立ったらスグにメモを残していました。通勤の地下鉄の中で目に入る中吊り広告ですら「ああ、コールセンターができたらこんな広告出そうかな」なんて考えていましたね。実際、中吊り広告はその後やりましたよ。
こんな勉強嫌いの自分がよく嫌にならなかったなぁって、今思えば不思議です。今でもそうだけど「CRM」「コールセンター」というキーワードでGoogleを検索した回数は、多分全国自治体職員の中で日本一に違いありません(笑)
当時、私が勉強をしながら、頭の中で考えていたのは成功のシナリオです。
しかも複数ルートの成功シナリオでした。1つ目は「経営のシナリオ」で、管理部門・経営部門とWIN-WINになるためのもの。当時すでに経営シナリオづくりそのものにもコミットしていたので、協働・サービスUP・コストDOWNのシナリオとCRMのシナリオをシンクロさせて、管理部門に売り込むのは最も得意とするところでした。私の作るパワポなんかを見ていただければ、何となくわかるでしょ!
2つ目は「外圧のシナリオ」で、ベテラン経営層をどう取り込むかというもの。特に彼らはITとかカタカナ語が嫌いなので、常にアナログで「親切」というわかりやすいコンセプトを用いて、市民満足度を叩き出す戦略をとりました。市民が喜んでるものをやめろとは言えないですからね。不可逆的改革を仕掛けなければ、せっかくの改革シナリオも途中で時計の針を戻されてしまう。経験から学んだことです。もちろん、市民を味方につけるだけでなく、市長、助役、外部専門家、庁内キーパーソンに次々アプローチをして、外圧を正しく受け止める環境を整えることも計算のうちでした。
3つ目は「内圧のシナリオ」で、現場の職員をどう巻き込むかというものでした。すでにこの頃には、私がプロデュースした電子会議室や人材バンクが動いていましたし、庁内には自主研究グループや過去の行革担当時代の人脈がたくさんありましたので、それらを駆使して、多くの職員がコールセンター作りを支えてくれる機運を盛り上げていきました。民間でも営業部門の社員がナレッジを出してくれなくて失敗するケースが多いと学んでいたし、役所には組合という強い組織があるので、職員の支持が成否を分けることはわかっていました。電子会議室では、コールセンターの効能を連載し、人材バンクでは現場の宣教師役を募集しました。
あらゆる関係部局に人脈を通じてアプローチし、庁内世論をコールセンター側に傾けていくという戦略を考えていたんです。誰だって、自分の知人3人から「コールセンターっていいらしいよ」って聞けば、そうかもなって思うでしょ。ランチェスターの法則というマーケティング理論をこのとき既に庁内で実践していたのだ。ウッシッシ(笑)
そして、4つ目が「業界のシナリオ」です。これは外部の人脈を使っていかに自治体CRMが重要でかつ札幌市の取り組みが先進的かということを業界の常識にする戦略でした。つまり、自治体業界とIT業界の世論を味方につけて、私の内部での仕掛けを外部から補完しようというものです。じゃないと、生意気な若造の戯言と片付けられてしまうもんね。世の中がそっちに進んでいるという環境を作ることで、私の話は説得力を持ってきます。いくら内部に抵抗する勢力がいても、時代の流れには逆らえないものです。これにはちょっと手がかかりました。講演や寄稿を通じて人脈をつくりながら、自治体キーパーソンやITベンダーに考え方を伝え、仲間をつくり、エンパワーし、キーワードを刷り込んでいくわけですから、それこそ時間はかかります。
でも、ここまで本気でやる覚悟がなけりゃ、世の中どころか自分の組織すら変わらないんですよね。逆に、ここまでやるから、自分の組織、自分の住んでるまちだけじゃなく、全国の自治体を救えるかもしれないという自分のモチベーションに還元されてもいます。
北川 憲司
http://kitnet.info/
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◆◇◆今日のまとめ◆◇◆
「小心者ほどよく学び、綿密に計画し、大胆に行動する」
2004年04月20日
コールセンター誕生秘話(8)
CRMをちょっとカジったことのある人なら「One to One」という言葉を聴いたことがあると思います。
CRMの象徴とも言えるワントゥワン・マーケティング。当初は私もここを目指していました。
ワントゥワンとは、1対1のこと。お客様一人ひとりを「個客」として取り扱い、オーダーメイドのサービスを提供しつつ、その人の好みを把握し、効果的にレコメンデーション(商品のオススメ)を仕掛けていくわけです。一人ひとりをよく知ることで、例えばある顧客が会社で昇任したら、車もより高いグレードへの買い替えを薦める(アップセリング)。ある顧客に子どもができたとわかったら、ライフスタイルの変化を予測して、セダンからRV車への乗り換えを薦める(クロスセリング)といった具合ですね。
そのときに必要なもの、それは顧客IDに紐付いた個人情報なわけです。過去の購買実績、クレーム履歴、住所、生年月日、家族構成、年収などなど。そう、皆さんがあちこちのお店で書いている顧客カードによく似ているでしょ?モノを売るときに考えることは、「ヘタな鉄砲かず撃ちゃ当たる」式だとコストがかかってしょうがないので、いかにも買いそうな人に絞り込みたいということです。ランダムな100人に1人100円の広告費をかけるより、買いそうな10人に1000円の広告費をかける方が、結果的に売り上げは伸びるわけです。これは行政でも言えますね。80歳の高齢者にまで子育て情報は送る必要がないかもしれないもんね。
そして、これまでも買い続けている上客を維持するコストは、新たな客を獲得するコストの5分の1だと言われています。確かにこれからも札幌に住み続けてもらうことの方が、東京から札幌に引っ越してもらうより簡単だと思います。だから、上客をよく知り、より深い仲になりたいわけです。
さて、CRMを役所でやろうとしたとき、私はこのワントゥワンという壁にぶつかり相当悩みました。
ひとつは、個人情報を保持することの法的課題です。札幌市でも個人情報保護条例により、CRMシステムに個人情報を持つことは原則的に不可能です。もうひとつは、市民感情の問題です。役所に問い合わせをするのに自分が誰かを言わなきゃいけないとしたら嫌じゃないですか?これが苦情ならなおさらです。しかも、税金を滞納してるとか、生活保護を受けているとか、個人の状況は様々ですから、より配慮が必要だと思います。ナンバーディスプレーで勝手に電話番号を取得したりするのも感じ悪いですよね。
確かに、ワントゥワンが便利な場合もあるかもしれません。しかしそれはお客様が自ら望んだときでなければ、強権を有する役所が一方的に個人情報を収集するのは不気味以外の何モノでもないと思ったのです。結局、それをやっちゃうとCRMの目的である信頼関係の構築どころか不信感を煽ってしまうことになりかねません。
しかし、CRMに詳しい方たちとは最初この点で対立しましたね。当時のパートナーだったコンサルタントとも何度か議論しました。もちろん彼らはやりたがってましたよ。それほどワントゥワンから得られる情報は強力だからです。私もそう思います。善意に利用すれば、そこから役所の様々なサービスをより効果的かつ効率的に行うことができるに違いありません。でもねぇ、そこはやはり無理は禁物だなって思いました。ワントゥワンにこだわるとコールセンターはできなかったと思います。ワントゥワンを捨てることで、札幌市は自治体コールセンターを実現したんです。企業CRMの常識からすればありえない話かもしれません(そもそも役所がそのレベルまで至ってないと言った方が正しい気もするが^^;)。
もちろん、ワントゥワンでなくても、顧客をセグメント単位(性別・年代・居住区など)で分析することで、サービス改革は可能ですし、それによって役所が信頼回復を図ることも可能だと踏んだ上での決断でした。ちょっと勇気がいりましたけどね(笑)
ただし、場合によっては、市民の許可(パーミッション)を得てワントゥワンをやる場合があってもいいと思います。例えば、障害を持つ方々や独居老人を会員登録して、日頃から防災情報を送付し、いざ火災・地震というときには優先的に救出に向かうというサービスなら、個人情報を提供してもやってほしいと考えるのではないでしょうか。
また、ワントゥワンとまでいかなくても、特定の興味分野(スポーツや文化芸術など)を持つ顧客セグメントを把握して、メルマガサービスをしながらプッシュ型のコンテンツ配信(国保は口座振替を!とかね)を行うなど、いろんなアイデアはあります。それはこれからのお楽しみにとっておこうと思うんです。
北川 憲司
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◆◇◆今日のまとめ◆◇◆
「捨てて得たものは結果的に大きかったです(笑)」
2004年04月21日
コールセンター誕生秘話(9)
CRMの話の続きをしますね。
例えば皆さんが仕事仲間を選ぶ、あるいは人生のパートナーもしくは友人を選ぶといったとき、態度の悪い人、人の話を聞かない人、秘密主義で何も話してくれない人、そういう人とパートナーになりたいとは思わないですよね。自分の事ばかり考えて都合のいいことしか言わない人、約束を守らない人、言い訳ばかりをして自分の非を認めない人、だらだら仕事をやって改めない人。と、まあ、そういう人物像を役所に置き換えてみると、「もしかしたらうちの役所も・・・」と思い当たることがあるんじゃないかと思うんです。
札幌市もそうですが、いま多くの役所では市民とのパートナーシップが大事だと言われていますよね。「協働都市を目指します。一緒にまちづくりをしましょう」というのは、つまり「パートナーになってください」と言ってるわけですから、例えるなら、住民に対して結婚を申し込んでいるのと同じだと思います。これまで「お役所仕事」と言われるような態度で振舞っておいて、いきなり手のひらを返したかのように「結婚」を申し込んでも、「はぁ?」って感じでしょ?
まずはどうやって恋愛をしていくかという話ですよね。まず役所って第一印象は大体よくないと思います。そこでコールセンターは信頼づくりの第一歩を担う役割なんだろうと思ってます。まずはお互いをよく知り合うこと。そしてお互いの望むことを与え合うこと。そして何かひとつのことを一緒にやってみて、お互いに達成感を喜び合って、相手を認めあって、信頼しあって、その上でやっと「この人なら・・・」って思えるんじゃないでしょうかね。CRMっていうのは、まさに関係を深めていく期間、つまり恋愛期間だと考えてるんですよ。
だから私は「親切」というコンセプトを札幌市コールセンターの最重要テーマにしたわけなんです。親切な人と結婚したいかな、と思って(*^_^*)
「顧客志向」って言葉じゃ、頭でっかちで、現場の人たちがお客様に恋はできないもんね(笑)
役所の経営の方向性とCRMというマーケティング戦略を、ここまで噛み砕いて話せるようになるまで、実は相当悩み抜いたんですよ~
北川 憲司
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◆◇◆今日のまとめ◆◇◆
「本気で結婚したいと思ってるなら体当たりでぶつかりな!」
2004年04月22日
コールセンター誕生秘話(10)
さーて、ようやく14年度から助役直轄プロジェクトという前例のない位置づけでCRMプロジェクトは設置されることになりました。4月から発足するプロジェクト組織づくりには、実はもう一つ、前例のない仕掛を用意していたんです。
それは「庁内公募プロジェクト」という仕掛けです。
これは「やりたい人が手を上げる」というリスクテイク文化と、能力の高い職員にチャンスを与えてモチベーションの高いチームをつくるための仕掛けだったんです。既存組織や通常の人事異動ではCRMプロジェクトは成功しない。役所の常識を超えたチームを作りたいという思いがありました。
この思いを支えてくれた人がいました。それは当時の人事課長でした。本来なら真っ先に反対してもおかしくない立場の人です。でも、その課長は周囲の疑念の声や組合の抵抗を押し切って実現してくれました。
私が昔、行革担当だったときから、いろんな行革のアイデアを出してくれた人でした。もちろん信頼している人でしたから、その彼が実現してくれたときは嬉しかったなぁ。
職員の庁内公募は通知文によって行われ、応募用紙に思いを書いて提出し、最後は面接で決まるというものでした。そこで大事なのは募集のメッセージですよね。「こんな人材求む!」とか熱いメッセージを書いて、本気のサムライを集めたいじゃないですか。最初の文案は情報化推進部の課長さんが書いたらしいです。で、あんまり熱くなかったので、以前にも日記に書いた都市経営室の課長がエンパワーしたらしいです。その時点で結構良い出来だったんだけど、当時の人事課の担当者からそのときコッソリ私に連絡が来たのよ。
「これはやっぱり北川さんが書かなきゃダメだわ!」
このプロジェクトに私がどれほどの思いを持って臨んできたか、わかってくれてたんですね~(T_T)
それはそれは熱い文章を書きましたよ(笑)能ある鷹は爪を出せ!本気の奴は今こそ立て!そんな思いをぶつけました。役所でこんな風に仕事できたのは面白かったですよねぇ。
で、私は個人的にリクルート活動もしました。当時、庁内電子会議室や自主研究グループで活躍していた仲間に声をかけて、興味のある人には応募のサポートをしましたね。勉強を手伝ったり、模擬面接をやってあげたり。結局、全庁で20人くらい応募があったんじゃないかな?
ちなみに、私は応募せずとも当然自分がなるものだと思っていたんですが、実は係長職も公募の対象だったらしく、その人事課長に「お前、応募用紙書いたか?ちゃんと出せよ!」と言われてしまいました。これって公募なの?(笑)
そんなこんなで、私も面接を受けまして(と、いっても質問する人も「北川さんに質問するのもおかしいんだけど・・・」てな感じでやりにくそうでしたけど^^;)まんまとCRMチーム行きが決まったわけです。
そん時は、それこそ庁内電子会議室上でも、仲間たちがお祝いの言葉や「よく自分でここまで持っていったね」という労いをかけてくれましたよ。ちゃんと見守っててくれる仲間ってありがたいですね。
結果的に、私と2名の担当者が公募によりCRMチームのメンバーに決定しました。
あのね、これ本当にいいチームでしたよ。実は今年の春からメンバーが変わってしまったんだけど、当時は最強チームで最高の仕事ができたと思っています。でも、立ち上げ当初は二人とも残業のほとんど無い職場からの異動だったので、まず私が最初に言ったのは「とにかく残業してくれ。そのかわり1時2時までとは言わない。毎日12時まで残業してサッと帰ろう。」というシンデレラ宣言でした(笑)だって半年でコールセンター作るんだもんね。実際、モチベーションは高かったけど、体力的には大変だったみたい。
「でも、文句は言わせないよ。だって、自分で手を挙げてこのチームに来たんでしょ?」
庁内公募ってスゴイ制度だわ(怖)
さて、今日の話にも実はオチがあります(笑)
私に応募させたあの人事課長。彼は4月1日にはなんと私の直属上司である情報化推進部長になって同じ部屋に座っていましたとさ(^^;)
北川 憲司
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◆◇◆今日のまとめ◆◇◆
「いろんな人が支え合ってなけりゃ、できませんぜ、こんなこと」
2004年04月23日
コールセンター誕生秘話(11)
平成14年4月1日
係長に昇任した私の第1日目が情報化推進部IT推進課CRMプロジェクトでスタートしました。ドキドキもんです。係長になったという緊張感より、ビッグプロジェクトを預けられたことの緊張感が大きかったなぁ。
本当の戦いはここからです。
一般職の異動が5月1日にずれ込んだため、4月中はしばらく私一人で孤独な作業をしていました。
5月に入れば、すぐにでもコールセンター構築に向けて実作業に入っていく必要があったので、部下が配置されるまでにやらなければいけないことを1か月かけて準備してました。
コールセンター構築までのタスク設定とスケジュールづくり、隘路の洗い出しなどです。こういう作業って「絶対やる!できる!」と思ってやらないとノイローゼになると思います(笑)
そして「14年10月サービス開始」という逃れられない期限付きゴールに向けての庁内戦術(キーパーソンや現場の巻き込み方)を考えていました。この辺は得意分野ですね(^^)
まず最初に、すべての動きをひとつの原理原則のもとに統一的にまとめ上げ、トップから現場まで同じ方向を向かせる必要があるので、戦略の中心概念である「CRM」の定義を行うことにしました。ここがしっかりしてないと、単に便利な電話窓口をつくって終わり、になってしまうからです。
CRMといっても、当時も日本ではまだ定着しておらず(CRMって言葉もわかりにくいし。カタカナ語なだけで嫌いだって人もいるしネ。)、その定義は経営の考え方と同じで企業によって千差万別でした。
10人の経営者がいれば、10通りの経営があるのと同じように、その経営体の置かれた経営環境や経営課題によって、CRMの目指すところも変わってくるのは当然かもしれません。当時、民間ですらCRMの導入効果を疑う声もありましたし、実際に導入に失敗している企業も多かったんです。CRMの目的が顧客シェアの維持拡大であるとすれば、シェア1位の企業からシェア10位の企業までみんながCRMをやっても勝ち組・負け組が出るのは当たり前で「CRMをやれば顧客を獲得できる」かのようなキャッチフレーズのソリューションに安直に飛びついてしまうのはやはり間違いなんでしょうね。役所でもそういうこと多いですよね。「事業評価システム」を導入すれば効率化できるとか、○○システムという名前のものに過大な期待感を持ってしまうのは、自らが経営にイニシアチブを発揮していない表れなんでしょうね。一番最初に取り組んだところや、本気で成果を出そうとしている自治体は、ちゃんと経営層がコミットして結果もでていますが、金でソリューションを買って、形づくりだけしようとしている自治体はいつまでも結果が出せないもんです。私自身、そういう光景を何度も見てきたので、この仕事ではそんな思いはしたくありませんでした。
さて、企業のCRMをそのまま役所に持ち込んでもうまくいかないだろうということは感じていました。企業経営と都市経営はかなりゴールが違いますから、そこに至る歩み方としてのCRMにも違いが出て当然だと思ったんです。企業のCRMの本はたくさん出ていますが、自治体経営とCRMというテーマの本は(当然)ありません。自分で考えるしかないのです。
「自治体CRMを定義する」それは、役人としての私の立志の瞬間でもあります。
私が考えた企業と行政の戦略上の違いは、当時の資料を見てもらった方が早いでしょう。
http://kitnet.info/crm_soui.pdf
役所というのは公益実現アクターの一人に過ぎない。今後は企業やNPOや様々なアクターと公益実現の役割を担い合っていくことこそ、経営の方向性であると考えました。それは住民自治に至る考え方です。そしてそれが結果的に住民にとってハッピーであるはずだという民主主義の根本に戻ったわけです。
「地方自治は民主主義の学校である」昔、学校で教わった言葉を思い出しました。
この自治体CRMの定義が正しいかどうかは歴史が判断することかもしれません。しかし、それを自分で作ることができたのは嬉しかったなぁ。なんか、大きい仕事をしてるんだという気持ちがしました。
※より詳しい自治体CRMの話はこちらを参照してください。
http://kitnet.info/ronkou_crm.htm
北川 憲司
http://kitnet.info/
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◆◇◆今日のまとめ◆◇◆
「少年よ大志を抱け-母校の教えに従いました。なんちて(笑)」
2004年04月26日
コールセンター誕生秘話(12)
コールセンターをつくるプロジェクトを任されたら、あなたは最初に何をしますか?
そう、まずお客さんのニーズを調べなきゃ!
ということで、いくつかの方法で市場調査を行うことにしました。これは結構ドキドキするんですよ~
だって、この時点ではまだコールセンターをやったら市民は喜ぶはずだ、便利になるはずだという仮説でしかないし、自分自身を振り返っても役所に電話することなんてそうナイし、もし調査してニーズが無かったらどうしようって考えちゃいますよ。「う~ん、そうなったら潔く撤退して財政にお金返そう。」という覚悟はしてましたね。
さて、お客様のコールセンターサービスへの潜在ニーズを調べる方法は大きく2つです。
1つは直接アンケートで聞くこと。平成14年6月に市民1万人アンケートを行って、現状での市民の困り具合とコールセンターへの期待度を調べました。そこでわかったのは、「どこに聞いたらいいか迷う」というシングルアクセスポイントへのニーズと、「窓口が閉まるのが早い」というサービス機会拡大へのニーズと、「たらい回し、態度が悪い」といった品質そのものへの不満でした。
※アンケートの結果詳細はこちら。
http://www.city.sapporo.jp/callcenter/data/data_c.html
この結果を見て、「イケるかもな・・・」と思いましたね。そういう意味では“問題解決性”は確保できそうだったけど、気がかりなのは“実現可能性”です。ホントに市民からの電話を上手にサバけるか?その場で十分な対応ができなかったら、結局たらい回しは減らないし、各部局に余計な迷惑をかけてしまうんじゃないか?
そういう不安はありましたね。だって、他に前例もないし、アメリカの自治体コールセンターも正職員が対応してますからねぇ。
――本当にできるのか?
これを証明する手立てはあるだろうか。う~ん、悩みましたよこれは。
で、あるとき「ハッ!」とひらめいたんです。役所には既に、民間委託で、一つの電話番号で、24時間365日、市民からのあらゆる電話を受けて対応している部署があるじゃないか!
それは、守衛さんでした。ここに気がついたことは大きかったですよ。そのおかげで最終的なサービスの絵姿がほとんど見えましたから。
で、私が何をやったかというと、過去1年分の守衛さんの日誌をコピーさせてもらい、すべてエクセルに入力したんです。年間で4000件くらいあったかな?一週間ぐらいひたすら入力してましたね(笑)
そしてそれを分析したんです。こんな風にね。
「どういう分野の電話が多いか?」「何時、何曜日に最も多いか?」
「問い合わせ、苦情、作業依頼など内容の割合