ansuke @Wiki 怪力おじさんからの手紙:第13話


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

荒涼と広がるくすんだ灰色の地面。硫黄の臭いが鼻をつく。

噂に聞きし「恐山」はその名の通り来るものの恐れを喚起するような姿だった。

七月二十日~七月二十四日は恐山大祭が行われ、訪れる参拝客で賑わっている。

でも、その賑やかさを打ち消して余りあるくらい、そこかしこに寂しげな空気が漂っている。

 

「この大祭の時期はねぇ、イタコさんに会えるんだよ」

田村刑事が、さも凄いことのように言う。

「え、あのテレビでよくやってる霊を呼んだりするおばちゃん、ですか?」

いつも嘘臭いなぁと思って見ていたから、自然と少し鼻で笑うような口調で応えてしまった。

「そう。折角だから、行ってみよう」

なんだかこの道中「折角だから」で丸められて、色々なところへ連れ回されてる。

「イタコってホントにいるんですか!へぇ」

アキヒコが感嘆の声を上げる。まんまと乗せられてしまっている。

 

連れていかれたのは境内の奥まった所に立つ小さなテント。

魂を呼び寄せてその言葉を告げ伝えることを「口寄せ」というらしい。

「前来た時に、ここのイタコさんに死んだ爺さんの霊を呼んでもらった。凄いから一度やってみなよ」

田村刑事が興奮気味に話す。

口寄せ一回三千円だって。よし、どれだけ嘘っぱちか、確かめてやろう。

死んだお婆さんの魂を呼び出してもらうよう、頼んだ。

お婆さんのことを少し話している間、イタコは「アイ、アイ」と頷きながら聞いていた。

フゥーと大きく深呼吸をした後、口寄せが始まった。

驚いた。出生地、晩年のこと、好物や持病だった腰痛のこと、

全て死んだお婆さんと合っていた。

「タカシ、よ~く食べなきゃだめだよ・・・」

津軽訛りだけど、口癖まで一緒だ。言い当ててるというより、本人が乗り移ってる。

不覚にも、瞼の奥からこみ上げてくるものがあった。これは本物かもしれない・・・。

 

突然なにを思ったか、田村刑事がカバンからパソコンを取り出して電源を付ける。

「この人を探してます。イキクチでお願いします」

やっぱりそうか。イキクチの意味が何だか分からないが、

田村刑事が捜査(?)中の大崎勇蔵の魂を呼び出して欲しいと頼んでいることは分かる。

イタコはオレの時と同じように深呼吸をした後、魂を呼び寄せている風だった。

首を垂れたまま、待つこと十五分。いつまで経っても言葉が出てこない。

「もう無理なのでは」と言おうとしたその時、イタコがゆっくりと首を横に振った。

 

「それでは、シニクチ、ではどうでしょうか?」

田村刑事がもう一度イタコに依頼する。

シニクチ?イキクチ?死に口、生き口・・・。そういうことなのか?

つまり、死んだ魂の口寄せと生きている魂の口寄せ。

もう一度、イタコは首を垂れて魂が降りるのを待つ。

程なく、言葉にならない声を発し始めた。死に口で魂が降りたのだった。