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荒涼と広がるくすんだ灰色の地面。硫黄の臭いが鼻をつく。
噂に聞きし「恐山」はその名の通り来るものの恐れを喚起するような姿だった。
七月二十日~七月二十四日は恐山大祭が行われ、訪れる参拝客で賑わっている。
でも、その賑やかさを打ち消して余りあるくらい、そこかしこに寂しげな空気が漂っている。
「この大祭の時期はねぇ、イタコさんに会えるんだよ」
田村刑事が、さも凄いことのように言う。
「え、あのテレビでよくやってる霊を呼んだりするおばちゃん、ですか?」
いつも嘘臭いなぁと思って見ていたから、自然と少し鼻で笑うような口調で応えてしまった。
「そう。折角だから、行ってみよう」
なんだかこの道中「折角だから」で丸められて、色々なところへ連れ回されてる。
「イタコってホントにいるんですか!へぇ」
アキヒコが感嘆の声を上げる。まんまと乗せられてしまっている。
連れていかれたのは境内の奥まった所に立つ小さなテント。
魂を呼び寄せてその言葉を告げ伝えることを「口寄せ」というらしい。
「前来た時に、ここのイタコさんに死んだ爺さんの霊を呼んでもらった。凄いから一度やってみなよ」
田村刑事が興奮気味に話す。
口寄せ一回三千円だって。よし、どれだけ嘘っぱちか、確かめてやろう。
死んだお婆さんの魂を呼び出してもらうよう、頼んだ。
お婆さんのことを少し話している間、イタコは「アイ、アイ」と頷きながら聞いていた。
フゥーと大きく深呼吸をした後、口寄せが始まった。
驚いた。出生地、晩年のこと、好物や持病だった腰痛のこと、
全て死んだお婆さんと合っていた。
「タカシ、よ~く食べなきゃだめだよ・・・」
津軽訛りだけど、口癖まで一緒だ。言い当ててるというより、本人が乗り移ってる。
不覚にも、瞼の奥からこみ上げてくるものがあった。これは本物かもしれない・・・。
突然なにを思ったか、田村刑事がカバンからパソコンを取り出して電源を付ける。
「この人を探してます。イキクチでお願いします」
やっぱりそうか。イキクチの意味が何だか分からないが、
田村刑事が捜査(?)中の大崎勇蔵の魂を呼び出して欲しいと頼んでいることは分かる。
イタコはオレの時と同じように深呼吸をした後、魂を呼び寄せている風だった。
首を垂れたまま、待つこと十五分。いつまで経っても言葉が出てこない。
「もう無理なのでは」と言おうとしたその時、イタコがゆっくりと首を横に振った。
「それでは、シニクチ、ではどうでしょうか?」
田村刑事がもう一度イタコに依頼する。
シニクチ?イキクチ?死に口、生き口・・・。そういうことなのか?
つまり、死んだ魂の口寄せと生きている魂の口寄せ。
もう一度、イタコは首を垂れて魂が降りるのを待つ。
程なく、言葉にならない声を発し始めた。死に口で魂が降りたのだった。
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