アイヌ神話

概説

主に北海道に居住するアイヌ民族に伝わっていたアイヌの口承文芸のうち一般に「ユーカラ(正しくはユカラ/Yukar)」として知られる韻文のものを狭義でアイヌ神話とよんでいるようである。アイヌは自然物のほとんどをカムイとしており、また口承文芸にはカムイが登場するものがほとんどなので、アイヌの口承文芸そのものがアイヌ神話であるともいえよう。

地域

アイヌ民族はかつて東北北部(津軽アイヌ)、北海道、樺太(サハリン)、千島列島に居住していたが、和人*1の台頭で津軽アイヌは早くに姿を消し、どのような文化を持っていたかはわかっていない。千島も早くに北海道本土への強制移住が行われ、ほとんどの千島アイヌが死に絶えてしまったため調査はほとんどなされていない。そのためアイヌの文化といったときには、北海道アイヌか樺太アイヌのそれを指す。北海道と樺太では、言語、文化にはかなりの相違が見られる。

成立年代

アイヌ民族は文字を有しなかったためはっきりした成立年代はわかっていないが、江戸時代の蝦夷地*2探検記には不正確ではあるが口承文芸の記事が見られる。寛政4年(1792年)、上原熊次郎によって編まれた日本語-アイヌ語語彙集「藻汐草」では、「戦乱浄瑠璃 ユーガリ」「騒動浄瑠璃 サコルベ」などとして口承文芸が紹介されている。また同書は初めてアイヌ語本文に日本語訳を併記する形で口承文芸を紹介している(ただし訳は途中までしか書いていない)。

世界観

アイヌ民族は世界を大きく5つに分けてとらえていた。すなわち「人間の世界」「あの世」「カムイの世界」「天の世界」「地下の世界」である。

人間の世界はアイヌモシリ「Ainu(人間の)mosir(国土)」とよばれる。人間が暮らす現世のことであり、狭義ではアイヌ民族が居住した土地、北海道を指す。人間の世界は国造りのカムイが造ったとされる。

あの世は
アフンコタン「Ahun(あの世)kotan(村)」
カムイコタン「Kamui(カムイ)kotan(村)」
ポクナシリ「Pokna(下方)sir(国)」
などと呼ばれる。地方によって地下にあるとも天上にあるとも考えられている。死者の魂が生前と同じように暮らす世界であるが、人間の世界とは何もかもが逆であり、昼のときは夜、夏のときは冬であるという。死者の魂は墓標を杖、あるいは導きのカムイとしあの世に行くのだが、人間の世界にある洞窟などもあの世の入り口であるとされ、
アフンルパラ「Ahun(入っていく)ru(道)par(口)」
ウェンルパラ「Wen(悪い)ru(道)par(口)」
などと呼ばれていた。こういった穴に迷い込み、生きながらにしてあの世に行った人々の話も多く、現世の人間に霊が見えないように、あの世で暮らす魂たちにも迷い込んだ生きた人間は見えないという。ただし犬にだけは見えるとされている。またヨモツヘグイと同等の思想もみられる。死者の魂はやがて現世に赤子として転生することになるが、地方によっては副葬品として持たされた品物が腐りきってしまうまで転生できないとされていたので、わざと粗末なものを副葬品に用いたりした。

カムイの世界はカムイモシリ「kamui(カムイ)mosir(国土)」という。神々が本来の姿、つまり人間となんら変わらない姿で家を建て、彫り物や機織りをしたりして生活している世界である。そして木幣や酒が欲しくなったり、人間に危急を知らせたりするときに、たとえば熊のカムイであれば肉と熊の胆を背負い、黒い毛皮をまとって熊の姿になって人間の世界に現れるものとされた。この扮装をハヨクペ「Hayokpe(冑と訳される)」という。そして人間界で役目を終えたカムイたちはアイヌによって送られ、再びカムイの世界に帰ってくるのである。カムイによってカムイの国のある場所が違うともされ、海獣や魚のカムイの国は渦潮を通って行く海底にあるという。人間も死ぬとカムイになるとされ、あの世をカムイモシリとよんでいる地方もあるが、基本的に違う世界であると考えられるのでここでは別物として扱う。

天の世界はカントモシリ「Kanto(天の)mosir(国土)」という。二層に分けて
リクンカント「Rikun(上方)kanto(天)」
ランケカント「Ranke(下方)kanto(天)」
という場合と、3層に分けて、
雲居の天:ニシカンカント「Nis(雲)ka(上)an(ある)kanto(天)」
星居の天:ノチゥウンカント「Nochiw(星)un(ある)kanto(天)」
至上の天:シニシカント「Si(真に)nis(空の)kanto(天)」
とよんだり、さらにそれらの天が6重になっているとされたりする。雷のカムイオオカミのカムイオコジョのカムイたちが住む国であり、カントコロカムイ「Kanto(天)kor(領有する)kamui(カムイ)」などと呼ばれる至高神が治めているともされる。

地下の世界は悪事を犯した人間やカムイが追放される世界である。
テイネポクナシリ「Teyne(じめじめした)pokna(下方の)sir(国)」
テイネモシリ「Teyne(じめじめした)mosir(国)」
チカプサクモシリ「Chikap(鳥も)sak(いない)mosir(国)」
ニタイサクモシリ「Nitay(林も)sak(ない)mosir(国)」
など多くの名を持つ。便宜上地下の世界としたが、西方の果てにあると考えられている場合も多い。殺風景でじめじめした湿地の国で、ここに追放された魂は現世に転生することが叶わないといわれ、口承文芸では敵役にとどめを刺すシーンでしばしば「六重の地獄に踏み落とした」などの表現がみられる。



※この項は書きかけ項目です。

参考資料

北海道の項を参照のこと

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最終更新:2013年08月13日 22:55

*1 アイヌに対する、本州出身者の呼称

*2 明治以前の北海道の呼称