ウ 環境

周囲の様々な環境に好奇心や探究心を持って関わり、それらを生活に取り入れていこうとする力を養う。

(ア)ねらい

①身近な環境に親しみ、自然と触れ合う中で様々な事象に興味や関心を持つ。

②身近な環境に自分から関わり、発見を楽しんだり、考えたりし、それを生活に取り入れようとする。

③身近な事物を見たり、考えたり、扱ったりする中で、物の性質や数量、文字などに対する感覚を豊かにする。

「環境」の領域では、第1章(総則)3.保育の原理(1)保育の目標の「(エ)生命、自然及び社会の事象についての興味や関心を育て、それらに対する豊かな心情や思考力の芽生えを培うこと」をより具体化した「ねらい」として、①から③までが示されています。
子どもと環境の関わりにおいては、身体感覚を伴う直接的な体験を通して身近な環境に親しみ、子どもの「心情」が豊かに湧いてくることが大切です。特に自然と触れ合う中で、その不思議さ、おもしろさ、心地よさなどを十分に味わい、周囲の子どもや保育士等と共感しながら興味や関心を広げ、自ら環境に関わる「意欲」を高めていきます。環境との関わりによる様々な発見や気付きは子どもの考える力を培ってい
きます。また、環境に関わる「態度」を徐々に養っていきます。
さらに、子どもは、様々な物を見たり、扱ったり、それらについて考えたりする中で、物の性質や数量、文字などを認識するようになっていきます。生活や遊びを通してそれらに親しみ、感覚を豊かにすることが求められます。
こうした「ねらい」を達成するために、保育士等が援助して子どもが環境に関わって経験する事項を次の「内容」で示しています。

(イ)内容

①安心できる人的及び物的環境の下で、聞く、見る、触れる、嗅ぐ、味わうなどの感覚の働きを豊かにする。
環境との相互作用により成長・発達していく子どもにとって、最も身近な人的環境である保育士等の存在は重要であり、保育士等により情緒の安定が図られ、基本的な信頼感を得ていきます。そして、それを拠りどころにして、周囲の環境に興味や関心を向け、盛んに探索活動をするようになります。特に、歩行によって自由に歩けるようになることは子どもの探索意欲を大いに高めます。
また子どもは、聴覚、視覚、触覚、嗅覚、味覚を働かせ、その敏感な諸感覚により様々な人や物を認識していきます。乳幼児期には、音、匂い、感触、味などへの感覚を豊かにしていくことが必要です。身体感覚を伴う経験を積み重ね、自ら環境に関わる中で、豊かな感覚や感情が培われていくことに留意し、物的環境を整えるとともに、保育士等自ら感受性を豊かにしていくことが求められます。

②好きな玩具や遊具に興味を持って関わり、様々な遊びを楽しむ。
子どもは、身の回りに用意された玩具や遊具や生活用具に興味や好奇心を持ちます。また、それらに自分から関わり、満足するまで触って遊ぶことで、外界に対する好奇心や関心を持つようになります。子どもは、そうした活動の中から自分から物や人に関わっていこうとする自発性を育んでいきます。
保育士等は、子どもが自ら興味を持ち、関わってみたいと思うような玩具や遊具を、子どもの周りに準備しておくことが必要です。そして子どもと共にそれらに関わり、遊びを発展させることが求められます。玩具や遊具の安全性はもちろん、その質、色、デザインなど、乳幼児期の子どもが出会い、関わる物が子どもの感覚や感性を育んでいくことを自覚し、その種類、質、量などにも十分に配慮していくことが必要です。

③自然に触れて生活し、その大きさ、美しさ、不思議さなどに気付く。
近年、子どもは自然と触れ合う体験をする機会が乏しくなっています。子どもが全身を介して直接自然と触れ合う体験は、子どもの心を癒すだけでなく、自然に対する驚きの気持ちや、その美しさに感動する気持ちを子どもに抱かせ、その不思議さに魅せられる中で様々な気付きを得ていきます。動植物や土、砂、水や光、それらを含めた野外の自然に触れて過ごしたり、遊びに取り入れたりする中で、好奇心や探究心、思考力が生まれてきます。こうした体験は、子どもが科学的な見方や考え方の芽生えを培う基礎となるものであり、身近な自然に心を動かしながら保育士等や友達と共感したり、表現活動に結び付けていくことも大切です。
保育士等は、園庭の自然環境を整備したり、散歩に出かけて自然と触れ合う機会を作ったりして、身近な動植物や自然事象に子どもが接する機会を多く持つようにしていくことが大切です。また、保育士等自身が感性を豊かに持ち、自然の素晴らしさに感動することや、子どもの気付きに共鳴していくことが求められます。保育室の環境構成に四季折々の自然物を取り入れるなどの工夫も必要でしょう。

④生活の中で、様々な物に触れ、その性質や仕組みに興味や関心を持つ。
子どもは、生活の中で遊具や用具、素材等の様々な物に触れ、それらを手にして遊んだり、その感触を味わったりします。乳児など年齢の低い子どもは玩具を舐めたり、繰り返し触ったり、試したりします。そうする中で、徐々に、それらの形や性質、仕組みなどに興味や関心を持つようになっていきます。
また、子どもは、身近にある物の働きや仕組みについて、自分なりに考えたり、試行錯誤しながら触ったり試したり工夫を凝らしてみたりします。そして、それらに対し親しみを持ち、遊びに取り入れようとします。物を介して、また物に触発されて遊びが発展すると、友達も一緒にその遊びに加わり、ますます遊びが楽しくなるという循環が生じます。また、友達と一緒に様々な物に見立てたり、作り出したりすることで、ごっこ遊びを楽しんだり仲間関係を深めたりします。
保育士等は、こうした遊びが豊かに展開されるよう様々な遊具や用具、素材などを用意し、物的環境を整えることが大切です。また、保健や安全面への配慮も欠かせません。

⑤季節により自然や人間の生活に変化のあることに気付く。
子どもは、散歩の機会や園庭で遊んでいる時などに、温度の変化、木々の葉の色のうつろいや、日差しの強さ、風の冷たさなどを通して季節によって自然が変化することに気付きます。また、自然の変化に伴って、食べ物や衣服、生活の仕方など、人間の生活も様々に変化することに関心を持つようになります。
こうした季節の変化に目を向けたり、気付いたりしていくことができるよう、自然に触れる機会を計画的に設けたり、季節感のある遊びを取り入れたりしながら環境構成に生かしていきます。また、季節の草花や野菜などを栽培したり、季節に応じた伝統行事に触れたりする機会を持つことも大切です。
子どもが自分の感覚を用いて季節の変化を感じ取ることができるようにするとともに、保育士等が季節感を取り入れた生活を楽しめるような取組も求められます。

⑥自然などの身近な事象に関心を持ち、遊びや生活に取り入れようとする。
子どもは、身近な環境に興味を持ち、自分から関わり、自分の生活を広げていきます。子どもが最初に触れる身近なものには、土や水、木の枝や葉っぱ、小石や昆虫などの自然があります。子どもはそうした自然に心を動かし、親しみながら遊びの中に取り入れ、自然との関わりを深めていきます。
また、子どもは身近にある事物や事象に興味や関心を抱くとともに、自分たちの生活との関連にも気付いていきます。特に近年では地球環境やゴミなどの環境問題について、様々な情報を通して関心を持つ機会が増えています。
保育士等は、子どもが身近な自然などの様々な事物や事象に触れる機会を多く持つことができるようにするとともに、それらへの興味や関心を深め、探索したり、自分の生活との関連を考えたりするきっかけをつくることも必要です。また、遊びに取り入れたりすることができるよう環境を整えていく
ことが大切です。

⑦身近な動植物に親しみを持ち、いたわったり、大切にしたり、作物を育てたり、味わうなどして、生命の尊さに気付く。
子どもは、親しみの持てる小動物や植物を見たり、触ったり、世話をしたりすることを通して、身近な動植物に親しみを持つとともに、いたわりの気持ちを持ち、やがては生命の尊さに気付いていきます。
親しみやすい小動物を飼育したり植物を栽培したりすることを通して、子どもは保育士等と共にえさや水を与えて世話をしながら、興味や関心を深め、自ら関わっていくようになります。また、世話をすることで、その成長や変化などに気付き、感動したり大切にする気持ちを持つようになります。動植物がどのようにして生きているのかを考えたり、命の持つ不思議さに気付いたり、生きているものへの温かな感情が芽生えるよう、保育士等はそのきっかけを与えたり、動植物への関わり方を伝えていきます。子どもの興味や関心に応じて、図鑑や関連する絵本などを用意することも必要でしょう。

⑧身近な物を大切にする。
子どもが、身近な物との関わりや愛着を深め、自分から大切にしようとする気持ちが持てるようになることが大切です。
子どもは、様々な物が身近にあることに気付き、興味を持って関わり、十分にその物で遊んだり、扱ったりしながら、物への愛着や親しみを育てていきます。それぞれの物の役割や特徴を認識していきながら、物を介して友達と楽しく遊んだり、活動したりする経験を重ねていくことが大切です。
また、保育士等が不要になったものを工夫して作ったり、身近な物を大切に扱っている様子を見ることで、子どもは物を大切にしようとする気持ちが芽生えたり、大切に扱うことの必要性に気付くようになります。保育士等は、その物に応じた関わり方や扱い方、片付け方などを繰り返し丁寧に伝えてい
く必要があります。

⑨身近な物や遊具に興味を持って関わり、考えたり、試したりして工夫して遊ぶ。
子どもは、身の回りの物を触ったり、たたいたり、感触を味わったりしますが、やがてその物を何かに見立ててごっこ遊びを展開したり、遊びの道具として使ったりします。子どもは遊びの中で、その物の使い方について独自の着想を得てそれを試してみたり、工夫を凝らしてみたりするなど、じっくりと遊びに取り組み、考える力を育んでいきます。
子どもと物との出会いや関わりを見守り、子どもが身近な物や遊具を使って、じっくりと遊び込む時間を十分に持つことが大切です。また、子どもが、身近な物や遊具に興味を持ち、自由に触ったり、試したり、工夫したりしていることに保育士等が気付き、その様子を他の子どもに伝えたり、保育士等の工夫を示したりすることも重要です。子どもが心と体を働かせて物と関われるよう環境を構成し、いろいろな物に興味を持って自ら関わる機会をつくるようにしていきます。

⑩日常生活の中で数量や図形などに関心を持つ。
子どもは、ままごとや積み木などの遊具で遊ぶ中で、また、食事など生活の様々な場面で、物の形や大きさ、その量などに気付いていきます。同じ形や違う形の積み木で遊んだり、ままごとの器を並べたり、木の実や収穫した野菜を分けてみたり、食事やおやつの際に量を確かめたりすることを通して、数量や数などへの関心を徐々に高めていきます。また、保育士等や友達とのやり取りを通して、長さや大きさを比べたり、自然物の多様な形に触れたりしながら、具体的な体験を通して、数量などへの感覚を深めていきます。こうした体験を重ねることにより、子どもは数、量、形などといった抽象的な概念に触れていくのです。
概念を把握する基礎は幼児期に形成されます。保育士等は、図形や数量だけでなく、前後、左右、遠近などの位置の違いや時刻等について、毎日の生活の中で次第に関心を持つことができるよう、環境構成に配慮していくことが求められます。

⑪日常生活の中で簡単な標識や文字などに関心を持つ。
子どもは、生活や遊びの中で身近な標識や文字に関心を持つようになります。保育所でも子どもの関心に沿って興味が持てるように環境を構成していくことが大切です。子どもは象徴機能の発達や言葉の獲得などを通して、物と名前の結びつきや、表示などが示す物や事柄を理解していきます。
また、保育所では一人一人の子どものマークを決めることがあります。子どもは、自分のマークを覚え、愛着を持つとともに、友達とそのマークを照らし合わせて覚えたりするなどマークが意味するものを認識していきます。
そして、徐々に身の回りの表示などが一定の意味やメッセージを持つことに気付いていきます。子どものこうした発見は、様々な場所にある標識や文字への興味、関心となり、象徴機能として存在する標識や文字が何を意味するのかを保育士等に聞いたり、自分で考えたりすることで、更に認識を高めて
いきます。
また、使われている言葉が特定の文字や標識に対応していることや、文字による様々な表現があることを、絵本などに親しむ中で気付くことができるよう配慮することも必要です。

⑫近隣の生活に興味や関心を持ち、保育所内外の行事などに喜んで参加する。
子どもは、身近な大人の様子を観察し、模倣したり、イメージを取り込んでいきます。また、大人の仕事や生活に興味を持ち、それらをままごとやお店屋さんごっこなどの遊びに取り入れて遊んだり、役になりきって表現遊びを楽しみます。大人の生活や身近な社会の事象への関心は年齢と共に高まり、大人の手伝いをしたり、近隣の人々の生活や環境などへの興味や関心を広げていきます。そして、電車やバス、消防署や図書館などの公共機関にも関心を持ち、さらに地域には様々な場があり、様々な人がいることを知っていきます。
また、子どもは、友達や保育士等、保護者と共に保育所内外の行事に参加し、その雰囲気を味わったり、楽しんだりしながら、徐々にその中で自分なりの役割を果たすことができるようになります。
子どもが、こうした社会の事象に関心を持ち、人と人が支え合って生活していることに気付いたり、人の役に立とうとしたりする気持ちが芽生えていくように、保育士等が子どもの気付きに共感しながら、適切に働きかけていくことが求められます。
最終更新:2009年01月10日 21:26
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