第3章 保育の内容

この章では、第1章(総則)及び第2章(子どもの発達)に示されたことを踏まえ、保育所の「保育の内容」について述べます。
保育所において、子どもが自己を十分に発揮し、乳幼児期にふさわしい経験が積み重ねられるよう、保育の内容を充実させていくことは極めて重要であり、それは保育所の第一義的な役割と責任です。特に保育の専門性を有する保育士は、子どもと共に保育環境を構成しながら、保育所の生活全体を通して保育の目標が達成されるよう努めなければなりません。そのためには、第2章で示された子どもの発達と、この章で示す保育の内容を照らし合わせながら、具体的な保育の計画を作成し、見通しを持って保育することが必要です。
今回の改定により、保育の内容は一つの章にまとめられ、保育士等が適切に行う事項及び保育士等が援助して子どもが乳幼児期に育ち経験することが望まれる事項として、養護と教育に関わるねらい及び内容がそれぞれに示されました。ここにある「ねらい」23 項目と「内容」65 項目を基本に、第4 章(保育の計画及び評価)に示された事項を踏まえ、各保育所で適切な保育の内容を構成していくことが求められます。
例えば「言葉」の領域の「内容」に「言葉で表現する」とありますが、0歳では、保育士等に喃語を受け止めてもらいながら発声すること、1歳では片言や簡単な言葉の繰り返しを楽しむことなどが考えられます。示されている「内容」の趣旨を踏まえ、目の前の子どもの育ちゆく姿を見通し、0歳から6歳までの発達過程や発達の連続性を考慮し、各保育所の保育理念や保育方針、地域性などを反映させながら保育の内容を創り出していくことが望まれます。
実際にここに示されたねらい及び内容を8つの発達過程区分に沿って作成していくと、実に多くのねらいと内容が編み出されます。保育指針に示された内容の趣旨を踏まえ、各保育所でねらいと内容をバランス良く構成していきながら、保育所の独自性や創意工夫が十分に促され、子どもの生活と遊びが豊かに展開されるようにしていくことが求められます。大綱化により基本原則を押さえながら創意工夫を図るという意味はここにあります。
保育の内容は「ねらい」及び「内容」で構成される。「ねらい」は、第1章(総則)に示された保育の目標をより具体化したものであり、子どもが保育所において、安定した生活を送り、充実した活動ができるように、保育士等が行わなければならない事項及び子どもが身に付けることが望まれる心情、意欲、態度などの事項を示したものである。また、「内容」は、「ねらい」を達成するために、子どもの生活やその状況に応じて保育士等が適切に行う事項と、保育士等が援助して子どもが環境に関わって経験する事項を示したものである。
保育士等が、「ねらい」及び「内容」を具体的に把握するための視点として、「養護に関わるねらい及び内容」と「教育に関わるねらい及び内容」との両面から示しているが、実際の保育においては、養護と教育が一体となって展開されることに留意することが必要である。
ここにいう「養護」とは、子どもの生命の保持及び情緒の安定を図るために保育士等が行う援助や関わりである。また、「教育」とは、子どもが健やかに成長し、その活動がより豊かに展開されるための発達の援助であり、「健康」、「人間関係」、「環境」、「言葉」及び「表現」の5領域から構成される。この5領域並びに「生命の保持」及び「情緒の安定」に関わる保育の内容は、子どもの生活や遊びを通して相互に関連を持ちながら、総合的に展開されるものである。
この章の前文では、保育の内容を構成する「ねらい」と「内容」について述べるとともに、ねらいと内容を具体的に把握するための視点として、「養護」と「教育」の両面があることを示しています。そして、保育指針におけるそれぞれの定義を明らかにしつつ、実際の保育においては、子どもの生活や遊びを通して相互に関連を持ちながら、総合的に展開されると述べています。
保育所における養護的側面が重要であることは、解説書の第1章でも述べていますが、保育所が乳幼児にとって、安心して過ごせる生活の場となるためには保育士等の適切な援助と関わりが必要です。また、子どもと生活を共にしながら子どものあるがままを受け止め、その心身の状態に応じたきめ細やかな援助や関わりをしていくことは保育の基本です。子どもが、一個の主体として大事にされ、愛おしい存在として認められ、その命を守られ、情緒の安定を図りながら、「現在を最も良く生きる」ことは、保育の土台を成し、子どもの心と体を育てることに直結します。
保育士等が子どもの欲求を感知し、手を携えて丁寧に対応し、時には励まし、子どもと向き合うことにより、子どもは安心感や信頼感を得ていきます。そして、保育士等との信頼関係を基盤に身近な環境への興味や関心を高め、その活動を広げていきます。また、保育士等の養護的な関わりやその姿を通して、望ましい生活の仕方や習慣・態度を徐々に体得していきます。
一方、保育所における教育的側面を保育指針では、「子どもが健やかに成長し、その活動がより豊かに展開されるための発達の援助」としています。このことは、子どもが保育士等の援助により環境との相互作用を通して、生きる力の基礎となる心情、意欲、態度を身に付けていくことであり、「望ましい未来をつくり出す力の基礎を培う」ため、保育士等が子どもの将来を見据え、願いを込めて自らの経験を受け渡していく営みであるともいえます。社会に共通する慣習や知識や技能、さらには価値、態度、心持ちといったもの、そうした文化の継承が子どもと大人の関わりの中でなされていきます。
乳幼児期の教育を考える時、こうした視点を持ちながら、保育士等が一方的に働きかけるのではなく、子どもの自発的な活動としての遊びなどを通して様々な学びが積み重ねられることが大切です。それは、子ども一人一人の存在を受け止め、その育ち行く姿を見守り、援助することでもあります。保育士等の温かな視線や子どもへの信頼が子どもの意欲や主体性を育んでいきます。
このように、養護的側面と教育的側面は切り離せるものではなく、養護が基礎となって教育が展開されます。また、養護に関わる保育の内容の中に教育に関わる保育の内容があり、教育に関わる保育の内容の中に養護に関わる保育の内容があるともいえるでしょう。さらに、養護に関わるねらい及び内容の「生命の保持」と「情緒の安定」、教育に関わるねらい及び内容の5領域が、それぞれに関連を持ち、折り重なりながら日々の保育が一体的に展開されていきます。
こうしたことを踏まえ、子どもの発達の様々な側面を捉え、自らの計画とそれに基づく保育を振り返り評価していく上で、それぞれのねらい及び内容を作成していくことは保育の質と専門性の向上につながると考えられます。
最終更新:2009年01月10日 19:04
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